筑陽学園vs早良
黒川ラフィー(筑陽学園)
黒川ラフィーの闘争心
試合後、三塁側ベンチ裏のブルペンから捕手の乾いたミット音がこだましてきた。
指揮官が付き添いながら、捕手を立たせて、一球ごとに自らのピッチングフォームを確認するかのように投げていたのは、筑陽学園のエース・黒川ラフィーだった。
「今日はマウンドが高めの球場だったので、どんな条件でも臨機応変に安定したピッチングができるように、もう一度、フォームを確認していました」(黒川)
この日、3回を終了した時点で被安打1の無失点と無難なピッチングをしていたが、4回の先頭打者にストレートのフォアボールを出したところで急きょマウンドを降りた。
「入りのところで簡単にフォアボールを出してしまったので降ろしました」(筑陽学園・江口祐司監督)
それ以外に江口監督が、黒川を降ろしたことについて、二つの大きな理由があった。
一つは、8月の関東遠征で常総学院や千葉経済大付などの強豪校と練習試合を行い、常総学院との試合では、黒川が3者連続の四球を許した直後に長打を浴び、それが決勝点となり、敗れたということがあったからだ。
「関東遠征(常総学院戦)での反省点があるので、どんな場面でももっと気を引き締めないといけないですね」(黒川)
たった一人に与えた四球といえばそれだけのことかもしれない。ただ、試合によっては、先頭打者に与えたその一つの四球が命取りになるかもしれない。そんなことを再確認し、自らを戒める意味でも試合後のブルペンに入ったことだろう。
黒川ラフィー(筑陽学園)
そしてもう一つの理由は、黒川の競争意識向上だった。この日、途中から登板した2年生右腕・大石雅大と1年生右腕・福井凌一が力強いピッチングをみせたように江口監督は投手陣の底上げを図ろうとしている。
言い換えれば、エースの座を脅かす存在を掘り起こし、黒川以外の投手が頭角を現すことで黒川の競争心を芽生えさせる。そのためにもこの日、二人の投手に公式戦のマウンド経験を積ませたのである。
「全国で通用するためには、(黒川)ラフィーだけではなく、周りの投手のレベルアップが必要です」
そんな指揮官が、求めているのは、もちろん全体的なレベルアップであるが、「単なる成長」でも「ワンランクアップ」でもない。おおげさに言えば、闘争心に火を付けることでの「大ブレイク」というくらいのことを期待しているのだろう。
そして取材の最後に江口監督はこう付け加えた。
「でも(黒川)ラフィーは関東遠征を経て逞しくなりましたからね」
そんな黒川も「関東遠征はいい面も悪い面もわかったことがよかった」と経験を積むことの意味や価値を探し当てたことで自身も徐々に手応えを感じているようだ。
あとは対抗馬の出現などによっての危機感と充実感というコントラストからも、大きなキッカケを掴むことができるはず。
そう、黒川ラフィーは、競争意識が高くなればなるほど血が騒ぐ闘争心を持っているのだから。
(文=編集部:アストロ)