「考える野球」の土台は日常生活の中で作られる 杉山繁俊監督(東海大福岡)【後編】
福岡工大城東時代は、春夏合わせて5度の甲子園出場、2017年には就任4年目にして東海大福岡を選抜甲子園に導き、ベスト8進出を果たした杉山繁俊監督。
前編では、二人の恩師から学んだ「攻撃的な野球」と「緻密な守備力」、そしてそこから杉山監督オリジナルに発展した「考える野球」について迫ったが、後編では「考える野球」を展開するために必要な要素について迫っていく。
◆柔軟で緻密、そして「考える」ことこそが杉山野球の真髄 杉山繁俊監督(東海大福岡)【前編】
ミスの許されない3年間が作った野球人としての基礎
グラウンドに挨拶をする杉山繁俊監督と東海大福岡の選手たち
相手の配球相手の表情、仕草などから相手の行動を予測する「考える野球」を選手たちに求めている杉山監督。
高校生にとって非常にレベルの高い話のように思えるが、杉山監督はグランドだけではなく、日頃の日常生活から「考える」習慣は養うことが出来ると話す。
「福岡工大城東の時からずっと変わらず、学校生活で注意を受ける選手にはチャンスが減るよと常に言っています。
今何が必要か『考える』ことが出来ないと、挨拶や授業の中の態度、テストの点数に表れますし、グランドでも当然「考える」ことができません。反省して努力して進歩していく『学習能力』は、日常生活でも鍛えることができます」
日常生活を大切にする点では、恩師である故・原貢氏も非常に厳しく指導を行っていた。杉山監督は、東海大相模時代の3年間を振り返りながら、当時の原貢氏の指導が野球だけでなく指導者としての成長にも繋がっていることを強調する。
杉山繁俊監督(東海大福岡)
「授業中寝てました、騒いでいましたなんて報告が親父(原貢氏)の耳に入った時には、もう終わりですよ。実際に先生方から報告が入るといったことはありませんでしたが、親父はとても厳しい監督だったので全選手がそのことは理解していました。
本当にミスの許されない中での3年間でしたが、それが野球をやる土台になったと思ってます」
「鉄拳制裁」が代名詞であった原貢氏とは、指導の方法は変わるが、日常生活を大事にする点では杉山監督は原貢氏の指導を踏襲する点が多くある。技術面以外でも、杉山監督は東海大相模、東海大学での経験が色濃く影響しているのだ。
[page_break:細やかな人心掌握術も見逃せない]細やかな人心掌握術も見逃せない
練習試合にて得点を挙げてハイタッチをする東海大福岡の選手たち
「学校生活が大事だよということは、もう毎日選手たちには言ってます。多くの先生たちや周りの人から応援してもらえるような選手になりなさいと」
杉山監督がそう語るように、実際に選手たちに話を伺っても、野球の技術の上達だけではなく、普段の生活を大切にしたいと話す選手たちは非常に多い。
主将としてチームを引っ張る森田哲平は、杉山監督の指導について次のように語る。
「野球も大事だけど、それよりも大事なのことは普段の生活であることは、本当に常々言われています。常に誰からも応援される選手になることを、普段の生活から心掛けなさいと。
野球だけではなく、社会に出てどう生きていくかを常に指導してくださる監督です」
練習や試合中には、選手たちに厳しい声掛けを見せる杉山監督であるが、その一方で気さくに選手たちに話をもする場面も時折見せる。こうした細やかな人心掌握術も、選手たちからの尊敬を集める一因となっているのだ。
恩師の教えを忠実に再現し、自らの経験もミックスさせることで、独自の指導者哲学を築き上げた杉山監督。柔軟で緻密な杉山野球は、こうして作り上げられたのだ。
杉山監督の中に流れる生粋の「東海魂」は、これからも福岡の地で存在感を見せていくだろう。
文=栗崎 祐太朗