Interview

すべてが理詰め ケーシー・マギーが伝える「バッティング・メカニズム論」

2018.09.25

少年時代の野球の先生は競技経験のない父親

すべてが理詰め ケーシー・マギーが伝える「バッティング・メカニズム論」 | 高校野球ドットコム
ケーシー・マギー選手

 2013年に来日し、AJ(アンドリュー・ジョーンズ)とともに楽天の初優勝に貢献したケーシー・マギー選手。このときは、ホームラン王や10年連続ゴールデングラブ賞などを受賞したAJのメジャーリーグでの実績ばかり取り上げられていたが、2010年にマギー選手がブリュワーズで残した成績も見事だった。

<打率.285、安打174、本塁打23、打点104>

 13年の来日時に掲げた〝現役メジャーリーガー″の看板に偽りがなかったのがわかる。メジャー通算安打は721本で、楽天、巨人では実働3年で通算452安打(2018年9月24日現在)。1シーズン平均150安打は文句のつけようがない。このマギー選手に子どもの頃の話を聞くと、「自分で言うのもなんですけれども、いい選手だったと思います」と言う。最も強い影響力を与えたのは競技経験のない父親である。

 父親によく言われたのは「バランス」と、「すべてにおいて自分のコントロール下でやるように」ということ。フラストレーションが溜まって力まかせに打っていたときには、『冷静になりなさい』『自分のやっていることを制御するようにしなさい』『力まかせはやめなさい』と言われたという。こういう時代を過ごすことができたマギー少年は幸せである。

 日本の選手とメジャーリーグの選手とでは大きな違いが見える。それはアメリカの選手の始動(足の動き始め)が遅いということ。マギー選手は始動の差についてはこう考えている。

 「大谷翔平選手(エンゼルス)がいい例です。日本にいたときはタイミングを取るときに足を上げていた。今は打ちにいくまでにそんなに動きがない。アメリカのバッターは動きが小さい分、始動が遅いのでしょう。なぜ向こうのバッターの動きが小さいかというと、日本のピッチャーはゆったりした動きで投げるので打者は大きな動きをする時間的な余裕がある。アメリカではそういう動きがないから、バッターの動きが小さくて、始動も遅いのでしょう。」

 「日本人は始動が早くて動き(反動)も大きい」と日本の指導者やプロ野球OBに向けるとたいてい「日本人は外国人にくらべて力がないので反動を作らないと力強い打球が打てない」と言う。しかしマギーは、「足を上げたほうがいいのか悪いのかというのは、おそらくバッターによって違うでしょう。ブライス・ハーパー(ナショナルズ)なんかは日本人的で足を上げるし、ジャンカルロ・スタントン(ヤンキース)やミゲル・カブレラ(タイガース)は典型的なアメリカ型で、始動が遅くてあまり足を上げない」といろいろな例を出して丁寧に解説し、次のように言う。

 「それはおそらく個々のバッターによるのでしょう。大谷選手はアメリカへ行って足を上げなくなったとはいえ、スイング自体は日本ハムの頃と全然変わっていない。自分も日本人みたいに足を上げろと言われたらできない。大事なのは、始動が早いか遅いか、足を高く上げてタイミングを取るかどうかではなくて、スイングに入る段階で形がしっかりできているということじゃないでしょうか。いいバッターはスイングに入る段階では皆しっかり形ができている。どういうふうにしてそこへもっていくかは人それぞれでいいのではないでしょうか」

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[page_break:最短でバットの芯でボールを捉えることだけを考えて打席に立つ]

最短でバットの芯でボールを捉えることだけを考えて打席に立つ

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バッティング理論を語るケーシー・マギー選手

 「スイングに入る段階」という状態を詳しく話してもらった。

 「静止画を撮れば、その場面は多少の違いはあっても、どのバッターもしっかり形を作っているというのは皆同じだと思います。ゴムでものを遠くに飛ばそうとするとき、ゴムの伸ばし方にはそれぞれのやり方があるけど、しっかり伸ばし切った形は一緒でしょう」

 非常にわかりやすい解説で納得できた。アッパースイングについても聞いた。

 「私は今まで自分をパワーヒッターだと思ったことはなく、強い打球を打ちたいということだけを考えています。同時に意識しているのが芯でボールを捉えるということ。アッパーカットにしすぎると、高い球に対してバットと交差するところが一点しかない。そうではなくて投じられた高さ、コースに応じて最短でバットの芯でボールを捉えることを考えています。だから無理してレベルにしようとかアッパーにしようとか意識せずに、単純に投じられたボールの高さ、コースに応じて芯をぶつけるということだけを考えています」

 フォロースルーはどうだろう。マギー選手はそんなにフォロースルーが大きくない。マイク・トラウト(エンゼルス)選手もあまり大きくないが、そこには何か共通点があるのだろうか。話を振るとフォロースルーのことは全く考えたことがないという。

 「たまに写真なんかを見ると、自分で思ってもいなかったような終わり方、フォロースルーをしていたりします。それぐらい意識していません。さきほども言ったように、自分は芯でしっかりボールを打つこと、捉えることしか考えていなくて、それをしっかりピッチャーのほうへもっていくということだけ意識しているので、ボールを弾き返した後は、もうどこで終わろうが打った打球方向に影響しないので、全く意識していません。少し加えて言うと、片手で終わる人もいるけれども、自分は必ず両手で終わるようにしています。片手を放すということ、右手を放すということは、瞬時にパッと放すわけではなくて、徐々に力が緩んでいって放すわけですよね。間違っても打つ前に右手のグリップが緩むようなことがあってはならないので、両腕で握ったまましっかり捉えることを意識して、結果的にそれが片手にならないフォロースルーになっています」

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[page_break:岡本和真が後ろ手の使い方が変わってブレークした]

岡本和真が後ろ手の使い方が変わってブレークした

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ケーシー・マギー選手

 ミートポイントはどうだろう。ピッチャー寄りで捉えるかキャッチャー寄りで捉えるか、ホームランを語るには重要な問題だと思うが。

「投じられたボールがど真ん中にきたとして、理想的には前足の親指の前で打てたら、ちょうど自分のタイミングで打てているということです」

 ただ、日本のピッチャーは変化球が多く、カウントが悪くてもボール球を打たそうとする。こういうピッチャーには見極めが必要だと思うのだが。

「それが野球の難しいところですね。ボール球でも何でも見極めずに振ってしまうのはよくないし、あんまり受け身すぎて見逃しが多くなるのもよくない。自分のことで言うと、悪いボールに手を出すことがあっても、積極的に打っていくほうがいいと思います」

 早いカウントで打て、ということでいいのだろうか。

 「必ずしもそういうわけでもありません。というのは、プロのレベルになって経験を積んでくると、試合展開とか相手ピッチャーの配球の傾向とかいろんな情報がある中で、このピッチャーはこういうふうに投げてくるなと予期できるものがあります。予期できるものがあるので、必ずしも早いカウントで結果を出すわけではありません。ただ打席に立つときは、ある程度ここにきた球は打つと決めていますね。もしそこにボールが投じられれば、初球であればもちろん振るし、結果的にそれが4球目になることもあります」

 最後に、チームメートの岡本和真選手について聞いてみた。マギー選手から見て岡本選手の最もいいところはどこなのだろう。

 「まず下半身をしっかり使えている。あと、ピッチャーが投げ損じたようなボールを必ず仕留めている。打ち損じて真後ろにファールを打つというのがあまりない。ホームランの方向を見ると、力まかせに振ってレフトに打っているわけではなくて、センターも右中間も左中間もあるし広角に打てている。しっかり下半身を使えていることの証しだと思います」

 若い選手は固め打ちがある半面、ブランクもあるが、岡本選手はずっと続いているような気がする。

 「一貫していい成績を残しているのはこの辺の後ろの手の使い方が」と言うと、立ち上がってバットを引く動きを見せる。

 「これが前よりも小さくなって、より正確に芯でとらえることができるようになった。プロ入りしたときから注目されている選手は、自分のスタイルを変えるのは勇気のいることです。変えるだけの思い切りとか勇気もあった。そういうのを受け入れられる性格だったから安定した成績をずっと残しているのだと思いますよ」

 理詰めで言葉を費やして相手を納得させようとするマギー選手の言葉には迷いがなく、それが聞き手に心地よく伝わってきた。マギー選手には選手だけでなくコーチの才能も備わっていると強く感じさせられた。

(文・小関 順二

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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