【特別対談】高橋宗司さん×クーニンさん×河嶋宗一(高校野球ドットコム副編集長)VOL.2「長距離走の極意」
高校野球ドットコム特別企画として、今、中高生に注目を浴びているこの二人をお呼びしました。今回対談していただくのは、強豪・青山学院大陸上部に所属し、2度の区間賞を受賞した経験を持ち、現在は市民ランナーとして活動する高橋 宗司さん。そして、野球ユーチューバ―として活動するクーニンさんの対談が実現。クーニンさんが設立したqooninTVは、現在ではチャンネル登録者数18万人を超えているほどの人気チャンネルとなっています。そこに高校野球ドットコム編集部副編集長の河嶋 宗一が参戦。3人の間でディーブなトークが繰り広げられました。
1回目は2人の対談のきっかけや、高橋さんの野球の関わりについて触れました。第2回は、高橋 宗司さんに青山学院陸上部でのエピソード、長距離走の極意を聞きます。
【特別対談】
高橋宗司さん×クーニンさん×河嶋宗一(高校野球ドットコム副編集長)
VOL.1「陸上人生の始まり」から読む
一番きつかったのは朝5時起床
左から河嶋宗一副編集長、高橋 宗司さん、クーニンさん
河嶋:前回、高橋さんの野球のかかわりを聞いてまいりましたが、ここで高橋さんの青山学院大の陸上部時代の活躍を振り返ってもらいたいと思います。やはり青山学院大陸上部の練習は過酷だったのでしょうか?
高橋:大学の陸上界では間違いなく一番きつかったですね。テレビでいろいろ取り組みが放映されましたけど、合宿中でも、普通の日でも朝5時起床なんですよ。起きたくないし、寝たくない。寝る前から「あぁ朝5時か…」と憂鬱な気分になるんです。冬になるともっと嫌でしたが、起きなきゃ坊主頭にさせられるので、寝坊する選択肢はありませんでした。
でも朝練さえ乗り越えれば、昼寝をして、大学にもいきますし、楽しい1日が始まるんです。大学時代、一番嫌だったのは、練習ではなくて、起きることでした。これはあくまで僕の感じ方であって、練習も合宿もめっちゃきつかったです。
河嶋:青山学院大は量をかなりやるチームだったんでしょうか?
高橋:大学で量をカラーにするチームと、質をカラーにするチームがあるんですけど、青山学院大の場合、どっちも取るチームなんですよ。だから楽な日がない。
たとえば、10のうち量9、質1のチームがあります。でも青山学院大は合わせて10をはみだして、量8、質8をとるチーム。気持ちよく終わる練習がないんです。大学の陸上部には1000メートル×10本というメニューがあり、ガンガン追い込んで走れなくなるまで追い込むのが一般的です。だけれど、青山学院大は8割。次の日は30キロ走あるんですけど、それも8割。2日連続で8割の練習をしっかりとこなして、いい練習になったねというのが青山学院大です。
やっている方からすれば、めっちゃきついですね。
クーニン:そういう経験をすると、どんなことでも乗り越えられるんじゃないですか。
高橋:自分も現役時代、そう思っていました。でも社会人は社会人で別の大変さがあります。
どうしてこういう練習を乗り越えられたのかと考えると、「陸上が好きだったから」だったと思います。本当にきつい練習ですけど、陸上の活動自体は本当に楽しかったですし、目標を目指す同じ仲間がいて、好きなことをこなす。だからできたんだと思います。
クーニン:それは確かに分かります。
[page_break:二度目の区間賞はランナーズハイになっていた]二度目の区間賞はランナーズハイになっていた
左から高橋 宗司さん、クーニンさん
河嶋:社会人で別の苦労があると話してくれた高橋さんですが、それでも高橋さんが成し遂げた実績は誰もがすごいと思っています。20校しか出られない箱根駅伝で区間賞を2度も受賞されたんですから。あの時の心境を振り返っていただければと思います。
高橋:2年生の時に初めて区間賞をとりましたが、あまりその実感がないんです。実はこのときは区間2位のタイムで、区間1位だった人は、すでに途中棄権している学校のランナーのタイムだったので、繰り上がり1位になって、「そうなんだ」という感じでしたね。
逆に大学4年生で区間賞をとった時はいろいろな感情がありましたね。
僕がたすきをもらったとき、8分差もあった。8分差ってよほどのことがない限り、逆転されないタイムなんです。相手のペースに無理に合わせなくてもよくて、自分のペースで走れるんです。
だから、「思い出を残せる1時間が与えられた」と思ったんです。手を振ってもいいし、笑顔で走ってもいい。もう楽しむしかないと思いましたね。きつかった記憶がなく、楽しく走れましたし、ランナーズハイとなっていたと思います。
クーニン:箱根駅伝と高校野球は似ていると思うんですよね。全国ネットで、テレビ中継が入って、高校野球、箱根駅伝はこうあるべきだというイメージがあって、開催地が聖地化されている。共通していると思うんです。
僕はゼロから最後まで箱根駅伝を見ようと思っていなくて、箱根駅伝で気になるのはランナーがどんな準備をしているのかですね。アナウンサーがランナーの人となり、調整方法を説明してくれるじゃないですか。そこから、この選手はこういう感じだなということをイメージします。
さらに僕が常々感じているのは、野球には足スランプがないといわれていますが、僕はあると思っています。
高橋:ありますか?
クーニン:ありますよ。毎回同じタイムで走り切ることはできませんからね。
高橋:僕は野球をやっていた時、そこまで真剣に取り組んではなかったので、野球では感じませんでしたが、陸上では感じますね。
クーニン:陸上ではタイムが変わるので、トップランナーの為末大さんだって、「オリンピックにピークに合わせるためにやっている」という話もあるように、足のスランプがないと言われるのが、納得いきませんでした。
だから、ピークに合わせるために、選手たちはその過程でどんな準備をしているのか気になるんですよね。
箱根駅伝を見ていると、極限まで追い込んで、ちょっとした転倒でも大けがになってしまう、だから、そういう背景を知ると、余計に調整方法とかが気になります。
[page_break:長距離走は同じペースで走り続けることが必要]長距離走は同じペースで走り続けることが必要
左から高橋 宗司さん、クーニンさん
高橋:長距離では指定の調整方法がありまして、これはどこのチームも共通してやっています。大会1週間前に練習量を落として、7日前の練習、3日前の練習の中身は基本的にどこも同じで、スタンダードになっていますね。それぞれ細かい調整をしていると思いますが、針に穴を通すほど細かいものではないです。
しっかりとできればの話ですけど、当日の状態が、1、2、3として、1が最悪だとする。
1はめったになくて、だいたい2、3で走ることができるんですよね。また調整方法は普段の長距離走の大会と一緒で、箱根駅伝だから、特別にこういう調整法をしようというものはないです。
クーニン:レースを見ると、スタートダッシュするチームがあります。陸上は流れがあるスポーツだと思っていますが、王者はそのような流れまで想定をして走っていたのでしょうか。
高橋:そうですね。相手同士が、競り合ってけん制しあうのはやはり1区が一番多いです。これは明確な理由がなくて、当日走っている走者がその場のノリでやってしまうんです。長距離は先頭を走るのは圧倒的に不利で、追いかけるのも大変ですし、速いペースで走り続けたとしても、絶対に落ちるんです。だから最初から飛び出す選手がいると、僕からすれば、「何やっているんだろうこの選手?」と思うんです。
僕の記憶では、世界陸上の予選で5000メートル走がありましたが、女子選手が先頭から飛び出していったんです。陸上関係者は「何やっているんだ」と思ったはずです。でも飛びだした選手は、そのまま1位で予選通過したんです。僕の長い陸上人生でトップのままゴールしたケースはそれ以外に見たことがありません。
なので、箱根駅伝で先頭の人についていこう、というのはないと思っています。
河嶋:そうなると周囲に左右されず、自分のペース、自分のタイムで走ることが大事なんですね。
高橋:そうなんです。20人の中に1人、圧倒的に速い人がいるならば別だと思いますよ。実力が同じ20人ならば、先頭を抜け出して走っても、絶対に落ちると思っています。
2011年の箱根駅伝は、優勝した早稲田大と2位の東洋大との差は1分。7区までは2分差で、30秒ずつ縮めていったんですよね。本当にハイペースで走っていて、大変だったと思います。
クーニン:優勝するために、どういう想定タイムや走り方をイメージしていましたか?
高橋:圧倒的な走りで優勝しようと思っていました。なぜならば、競り合った経験がないから、競り合っての優勝はできないと思っていました。
クーニン:前年大会優勝チームのタイムは参考にしますか?
高橋:2012年、東洋大が優勝したタイムの10時間51分36秒は20年破られない記録だといわれていました。だからこのタイムに到達できれば、優勝はできると思って、練習してきたのはありますね。陸上ばっかりの話をして大丈夫ですか?
河嶋:いえいえそんなことはございません。深い話ありがとうございます。
3回目はクーニンさんの高校時代について!