試合レポート

鹿屋中央vs神村学園

2014.07.24

七島の気迫、チームに乗り移る

 エース七島拓哉(3年)の気迫がチームを支え、それがチームに乗り移って、2時間28分の死闘を戦い抜き、鹿屋中央が大隅から初の夏の甲子園を勝ち取った。

「七島の気迫」が凝縮されていたのが、7回裏二死満塁のピンチの場面だ。
表の攻撃で同点に追いつき、簡単に二死をとりながら、連打に四球で5番・豊田翔吾(2年)を迎える。

 左打者の豊田を、1ボール2ストライクとテンポ良く追い込んだが、捕手・川内大地(3年)は「次の球を何にするか?」迷った。内角を攻めれば死球のリスクもある。迷った末に出したのはスライダー。
だが、エース七島拓哉は首を振った。

 七島は、悔いを残すことなく自信のある直球で勝負するつもりだった。川内にも七島の気迫は伝わった。内角ギリギリ構えた川内のミットに、切れ味鋭い直球が突き刺さる。豊田はバットを振ることもできなかった。
序盤から神村学園が押し気味に試合を進めていた中で、このシーンが勝負の大きな分岐点になった。

 延長10回は、その七島が自らのバットでチーム初の長打を放ち、絶対に打って返そうと思っていた3番・德重仁(3年)が2点タイムリーを放った。その裏の神村学園の攻撃をわずか3球で終わらせると、大きな歓喜の輪が七島の周りにできた。

 7回に口火を切る死球で出塁し、同点のホームを踏んだ6番・大田豪はどんなかたちでも塁に出る覚悟だったいう。上位打線が振るわず、主砲・木原智史(3年)の前に走者を出せない。
今大会初めて相手に先制され、いつもの攻撃パターンが狂わされ、我慢の展開だったが、力投する七島のためにとチームが一つになった。


「チームに関わらざるを得ない状況になることで、視野を広く持てるようになって欲しい」

 昨秋4回戦樟南に敗れた後、山本信也監督は七島に主将の重責を負わせた理由をそう語っていた。この日の七島は、常に周りに声を掛け、「バックを信じて打たせる」投球姿勢を最後まで貫いた。少しでもおかしなところがあれば川内がマメにマウンドに駆け寄り、間をとった。

「支えてくれた仲間に『ありがとう』という気持ちがわいた」

 最後の打者を打ち取り、高々と両手を突き上げた瞬間、七島の胸に去来したのは、仲間への想いだったとインタビューで答えていた。
独り相撲で自滅したとは一味もふた味も違う姿が、そこにあった。

 2年ぶりの夏、春夏連続の甲子園を目指した神村学園だったが、鹿屋中央の前にあと一歩及ばなかった。

 イメージ通りの戦いはできた。
エース東務大(3年)は多彩な変化球を駆使して、強力打線の鹿屋中央に狙い球を絞らせなかった。
上位の1~3番は9回まで1安打も許さず、4番・木原の前に走者を出させなかった。要注意打者の木原も最初の打席でヒットを打たれた以降は、無安打に抑えた。

 5回は力投の東が自ら長打で好機を作り、2番・都甲将央(2年)のタイムリー二塁打で先制。今大会、これまですべての試合で先制していた第1シードより先に点を取った。小田大介監督が描く「1対0で勝つ」展開に持ち込めた。

 だが終盤、気迫のこもった投球を続ける七島から追加点が奪えなかった。
「こういう1点を争う展開は、3つのB(四死球、ボーク)とE(エラー)が勝敗を分ける」と小田監督は常々話す。

 延長10回は無死二塁で、東がバント処理のボールが手につかず、オールセーフにしてしまった。これまで力投を続けたエースの痛恨のミスだった。これが勝ち越しの適時打につながり、その裏は3球で打ち取られ、夏が終わった。

 敗れはしたが、全力は出し尽くしたと小田監督は言い切る。
センバツ福知山成美に大敗してから、チーム状態はどん底だった。

NHK旗
決勝鹿屋中央に敗れてからは「自分たちより強い野球が鹿児島にある」(仲山晃輝主将)と思い知らされた。
仲山主将は何度も、何度もビデオを見て鹿屋中央の野球を研究したという。その意地とチーム一丸で戦った姿は随所に見ることができた。

(文=政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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