試合レポート

杵築vs藤蔭

2012.07.26

流れを呼び込んだもの

学校創立115年目の大願成就だ。
春夏を通じて初めての甲子園。別府湾から瀬戸内海に貼り出した国東半島の付け根に位置する古い城下町に、待ちに待った吉報が届いた。

3回までに4点をリードした杵築だが、私立の雄・藤蔭が底力を発揮し、4回に5点を奪われ逆転を喫する。
同点とされてなおも一死三塁という場面で登板した2年生の背番号1・塩谷優祐は、相手4番打者に逆転の犠牲フライを許す。

それでも5回以降は藤蔭打線を1安打に抑えた。
細身の右腕から繰り出される外角低目のスライダーが抜群の効果を発揮し、最速は129キロながらも打者の手元で伸び、塩谷本人が「調子を量るバロメーター」というフライアウトの山を築いていった。打者21人に対して12個のフライはまさに好調の証で、7回以降は120キロ台の直球で押し続けた。

「2ストライクを取って以降のスライダーが良かったです。2ボールまでに勝負できたことも大きかった」と塩谷。
試合の流れが行ったり来たりを繰り返した中盤以降、試合を立て直したのは塩谷の投球リズムだった。


試合の流れを読みながら投げている塩谷が、その投球で勝利を決定づけたのが8回先頭の9番平田光翼との対戦だ。
平田はこの試合でここまで3打数3安打。大会を通じてすべて途中出場の5打数5安打と好調をキープしている。2年前の夏に1年生の4番打者として鶴崎工戦で本塁打を記録しているほどの強打者だ。

「平田さんを抑えれば、流れは完全にウチに来る。回の先頭ということもあって集中しました」

変化球で2ボールとした後、外の直球を2球続けて並行カウントとしてからの5球目だった。
塩屋の直球は真ん中やや高めに入った。平田はこれを強振するも、大飛球は中堅最深部のフェンス1メートル手前で落下した打撃好調のキーマンを打ち取ったことで、もはや藤蔭打線の打ち気すらも削いだのである。球速の問題ではないのだ。

同点の8回、一死満塁からレフト前へ勝ち越しの2点タイムリーを放ったのは3番の甲斐義也だった。
打席に入る直前に伝令を送られ「お前にバント(スクイズ)はないから」と告げられヒートアップした主将は、藤蔭の二番手右腕・持田晃佑のスライダーに合わせてレフト前へと運んだ。
「前の日には九州の他県で公立3校(宮崎工済々黌佐賀北)が出場を決めていたので、我々も続こうという気持ちでした」

試合終了の瞬間に選手以上に泣き崩れた阿部知巳監督は、同校のOBでもある。
「ウチには140キロを投げる投手はいません。ただ、140キロを打つ打者ならいます」

全試合二ケタ安打でチーム打率3割を超えた公立の普通科高校。甲子園で旋風を巻き起こすのは、こういう種のチームが多い。

(文=加来 慶祐)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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