試合レポート

東北vs東陵

2012.07.19

2強へ挑むチーム

宮城では夏22回出場の仙台育英と、21回出場の東北が両雄。
東北仙台育英の試合では、両チームが勝つだろうという空気が球場に充満しているのだ。

そんな中、2校に挑む数少ない学校のひとつが東陵だ。

 
試合前、千葉亮輔監督は「今日はやりますよ」と意気込んでいた。
「3点に抑えれば勝機はあるかなと思っていた」という千葉監督の言葉通り、序盤は0対0といい流れで試合が進んでいた。

ところが、4回。二死二、三塁のピンチで東北の1番夷塚圭汰(3年)にセンター前へのライナーを打たれる。これを尾形裕太(3年)がダイビングして逸らし、3点が入るランニング本塁打にしてしまった。
まだ4回で2アウト。大量失点は避けたい場面だっただけに無理をする必要はなかった。6回には、エース・相内康佑(3年)が100球を超えて球が浮いたところを東北打線につかまり、3点を追加され、ほぼ試合は決した。

今年の東北は、秋は地区予選、春はベスト16で破れ、東北大会出場すらない。
好選手はいるが、ここまでは決して強いチームではなかった。だが、東陵の選手たちには「東北」という名前が重くのしかかっていた。

「先輩も負けているし、東北が弱いというのはありません。1番から9番までみんないい打者だと思います」(相内)
そう思いすぎたために、コーナーを狙いすぎてしまった。
その結果、4回までに5四球を与えた。中でも惜しまれるのが4回一死二塁で与えた相手投手・若生颯太(3年)への四球。打力がなく、バントの構えも見せていた8番を歩かせたことで、1番の夷塚に回してしまった。
「打たれる分には良いと言っていたのですが、フォアボール(四球)が点につながってしまったのが痛かった」と千葉監督。もう少し、大胆に攻める気持ちが必要だった。

打線も東北の9安打に対し、東陵は12安打。7回以外は毎回安打を記録した。6、8回には3連打で点を返したが、あと一本が出ない。9残塁を記録した。9回一死一、二塁でサードゴロに終わった山本翔太(3年)は言う。
「(東北のこのチームは)秋も春も負けているので、夏は思いを込めてくると思った。それもあって、自分たちはみんな表情が硬かったです。試合中は焦っていました。チャンスをつくるのにあと一本が出ないというのは力み。あとは、東北の伝統の力だと思います」


2010年秋の東北大会では、準々決勝で対戦し、1対2。あと一歩で甲子園を阻まれている。良い試合をしても、甲子園につながる大会では勝たせてもらえない。では、勝つためにどうしたらよいのか。千葉監督は言う。
「勝つためには(仙台)育英、東北と意識させないのが一番なのかなと思います。相手にしている時点で負けている。そうすると、相手にも、自分にも勝たなければいけなくなります。やはり、自分との勝負。それがチャンスで振れるか、ピンチで思い切り腕が振れるかにつながってくる。過去の歴史がそうなってしまうことにつながっているんでしょうけど、そこを破らないといけない」

東陵は1988年の夏に一度だけ甲子園に出場している。千葉監督は、そのときの選手だ。その大会では、準決勝で仙台育英、決勝で東北を破るという快挙を成し遂げている。
「あのときはノーシードでした。初戦の利府戦で初回に4点取られたのですけど、6点取り返したんです。(仙台)育英戦も0対2で負けていたのを8、9回でひっくり返して4対3で勝った。勢いに乗っていましたね。雰囲気に後押しされるようなところもありました」と千葉監督は当時を振り返る。

今大会は接戦を制して勝ち上がってきた。接戦で強くなったといえる一方で、公立相手に苦戦したという見方もあり、勢いに乗り切れなかった。勝つためには、相手のことを考える必要のないほど、自分たちがノッてしまうしかない。

昨夏、今春は甲子園に古川工石巻工が出場。2強以外のチームが変わったことを期待したが、残念ながらそれは感じられなかった。今度、他の学校も奮起することを期待したい。

「2強は、県外から良い選手が集まってるからしかたがない」

そんな声が聞こえているうちは、宮城の勢力地図はいつまでたっても変わらない。
他校のみなさん、ぜひ意識改革を――。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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