牛深vs熊本北
抱きしめるバッテリー
三度目の正直
「どこと当たってもいいように準備していましたが、(熊本北との)対戦が決まって、まさかと思いましたね」(牛深・中島健太郎監督)
「こんなことがあるんですね。今までの経験でも2回というのはありましたが、3回目ですからね」(熊本北・白石哲監督)
試合前、双方の監督は目を丸くしてそういった。
そう、熊本北vs牛深というカードは、今シーズンだけでもなんと3回目を数える。しかも、すべての試合が、主要な公式戦での対戦というのだから驚くのも無理はない。
そして昨秋の3回戦、今春の2回戦と同じ熊本北に敗れている牛深にとっては願ってもいないリベンジのチャンスであった。
「2回も負けて本当に悔しかったので、どうしても勝ちたくて、実は夏前に北高さんに電話をかけて練習試合を申し込んだことがあったんです。でもお互い調整がつかずに実現はしませんでしたけどね」と牛深の中島監督が悔しさ晴らしたいと思う気持ちは十分うなずける。
そしてその日がついにやってきた。
牛深に立ちはだかるのは、熊本北の2年生右腕・古閑啓祐である。マウンドでの投球練習からスコアボードに表示された常時130キロ中盤の重いストレートがこの日も牛深打線に襲い掛かるのか。そう思われた矢先だった。
牛深の1番・吉浦健太がいきなりセンター前に弾き返すとすかさず盗塁。そして2番・佐々木誉彦が四球を選んだ際にボールが高めに浮いて捕手のミットを弾き、その間に吉浦が一気にホームインし、牛深が先制点を奪った。
「センター前に打ち返して足で揺さぶる。描いていたことが、初回にできたことが大きかった」(中島監督)
中村忠(牛深)
さらに2回には9番・松下哲次が初球スクイズを成功させ、3回には2死満塁から8番・赤坂龍馬が右中間へ3点適時三塁打を放つなど牛深打線は速球派の古閑に対して振り負けなかったことに理由がある。
「今までは古閑君のストレートが打てなかったので、十分に対策をとってきました」(中島監督)
その対策とは、近距離からの打撃練習や積極的に速球派投手と対戦するなどあらゆることをやってきた。それだけに今夏は、その成果をみせる絶好の機会であり、今回それが見事にはまったのだ。
だが、そんな勢いを打ち消すかのように4回裏、熊本北の攻撃時、雷雨により試合が一時中断することが余儀なくされた。
ノーゲーム、それとも試合再開か。
「うちが勝っているのだから点は取られてもいい。1点差でもいい、勝てればいいのだから」
中島監督は選手たちを集めてそういった。そして再開直後の牛深は、スクイズなどで一挙3点を奪われたが、ナインに焦りはなかった。
そして魂が宿っているかのように、昨秋に投げた茂越亮平、今春に投げた中村忠義と過去、熊本北相手に敗戦投手になった二人の熱い投手リレーで三度目の正直を果たした。
校歌を歌い、スタンドに挨拶した後、キャプテン・茂越の目からは涙が溢れていた。エースで4番、そして主将と文字通りの大黒柱であるが、さらに生徒会長という大役も担っている。そして昨秋には腰を疲労骨折し、今春は投げられなかった。そんなさまざまな経験から、人にはいえないプレッシャーもあっただろう。しかし、それを一つ一つ乗り越えてきたことによって、今日の白星も輝いたに違いない。
そう、人は苦しんだ分だけ得るものは大きいのだから。
(文=編集部:アストロ)