Column

県立美里工業高等学校(沖縄)

2016.06.02

 踏まれても踏まれても、雑草のように這い上がる!

 2014年春、初の甲子園出場を果たし、レジェンド・オブ・美里工となったのが伊波 友和(現近畿大学、2016年春季リーグ戦初完封など防御率0.49)や、神田大輝(現東亜大学、2016年春季リーグベストナイン受賞)ら。そんな偉大な先輩たちを見て美里工野球部の門を叩いたのが、エース辺土名 海を中心とした現ナインたちだ。

 ところが昨秋初戦敗退、今春も2回戦にて1点差で敗れるなど悔しい結果しか残せていなかったが、最後の夏を前にして、去った中部地区高校野球選手権大会にて見事優勝を果たした。伊波友和らが届かなかった、夏の切符を目指す美里工にお邪魔してみた。

力が無かった新チーム発足時

松川 剛大(県立美里工業高等学校)

「沖縄石川高校さん相手に、よく勝てたなぁと言うのが本音だったね」と神谷嘉 宗監督は、新チーム発足後を振り返った。
2015年の夏、各校新チームが発足されての最初の公式戦である沖縄県高校野球新人大会において、美里工は中部南地区予選を1位で通過し中央大会に出場した。対戦相手の沖縄石川にはタイシンガー・ブランドン大河など一年生の頃から主力として活躍している選手がいる。

 その下馬評通り、沖縄石川は2回裏に2点を先制。ところが美里工はその直後、ヒットと四球から二死二・三塁とすると、次打者の当たりは相手のエラーを誘い二者が生還。さらにヒットと死球で満塁として、新垣 嗣人の2点タイムリー二塁打で4点を奪い返した。その後は沖縄石川に追い付かれ延長へ突入するも14回表、二死三塁から屋我翔也のタイムリーで勝ち越して熱戦に終止符を打ったのだった。

 次戦の興南との戦いでは、さすがに辺土名の体力が持たず、5回6失点で降板。しかし、打線も12安打を集める。全国高校野球選手権大会に出場していた比屋根雅也が居なかったとはいえ、名門興南から6点を奪ったことは、少なからず自信になっていった。

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県大会以降、負け無しで春を迎える

打線のキーマンとなる名幸 知希(県立美里工業高等学校)

 秋の県大会では初戦八重山商工と対戦するも、流れを引き寄せることが叶わず、歯車が噛み合わないまま1対8で完敗してしまう。周囲の落胆は想像に難くない。しかし神谷監督は彼らの可能性を信じていた。

「このチームは、中学のスーパースターが何名も入ってきたわけじゃない。雑草のように踏まれても踏まれても、這い上がっていかないといけない!」

 秋の大敗以降、積極的に練習試合を組んでいった。迎えたオフシーズンでも、やることは変わらない。「僕らがやるのは年中通して身体を鍛えること。食事も含めて大きくすること」。さらに、スランプが無いことから走塁技術を積極的に高めていった。バッティングも、振り回すことなくコンパクトに振って打球のスピードや質を求めていった。それを確かめる実戦練習。そういった冬トレによりチーム力が増大した。その成果は、年が明けた練習試合解禁日以降の戦いで表れた。

明徳義塾さん、遊学館さん、仙台育英さん、盛岡大付さん、岡山理大附さん、弘前学院聖愛さん、九里学園さん。そんな県外強豪の胸を借りても負けなかった」
秋の大敗以降、県内外校との練習試合で美里工は一度も負けることなく春の県大会を迎えたのだった。

春の負けで喝!そして中部地区高校野球選手権大会優勝

 春の県大会、初戦の相手は中部地区のライバル校の一つであるコザ高校だった。ところが5回を終えて3失点と先発の辺土名がピリッとしない。打線は6回、2点を返したもののその裏、仲宗根 蓮にホームランを浴びるなど3点を奪われてしまう。しかし9回表、先頭打者が四球を選ぶと三者連続ヒットに相手外野手のエラーも絡み1点差。「終盤、ウチらしいと言えばウチらしい取り方だったよね」。その後も犠飛が出て一挙4点を奪い土壇場で同点。そして延長10回に勝ち越して勝利を収めた。

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[page_break:春の負けで喝!そして中部地区高校野球選手権大会優勝]

辺土名 海(県立美里工業高等学校)

 しかし次戦の美来工科との戦いでは仲宗根登夢の前に苦戦を強いられる。新人大会以降、全ての公式戦で二桁安打を放ってきた自慢の打線が、4安打9三振と沈黙させられた。辺土名も2失点と粘投したものの1点差の惜敗を喫した。しかし、神谷監督の目には惜敗とは映らなかった。試合後、辺土名に喝を入れる。「お前の力はこんなものじゃない!」その親心は、しっかりとエースに届く。目の色が変わった辺土名はこれまで以上に練習に明け暮れた。

 そして迎えた中部地区の高校による選手権大会。伊波友和らが2年生のときに制覇して以来の頂点を目指す!そう誓ったナインは、全4試合29得点2失点と圧倒的なゲーム展開で見事優勝。「点を取られなくなったよね。投手陣が整備されつつある。その中でも辺土名の成長が非常に大きい」。投球スピードは速くないが、球質が格段に良くなった。それに加え、狙って内野ゴロを打たせる投球術がある。

 雑草のように踏まれ続けてきたナインは今、監督から「(中部地区選手権大会以降の7~8試合の打率が.519、長打率.963をマークしている名幸 知希を筆頭に)甲子園に出場したチームより、攻撃力はこっちが上。さらに二遊間を始めとした守備力も信頼出来る」と、最大限の褒め言葉を頂くまでに成長した。

「ひとことで言えば、どんなことでも出来るチーム。引き出しが多いチームになってきた」。名将の揮うタクトに応えることが出来るまでに成長したナイン。レジェンドを引き継ぎ、超えてみせる!その答えが選手権沖縄大会の制覇だ。美里工の熱くて長い夏が幕を開ける!

(取材・文/當山 雅通


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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