試合レポート

早稲田実業vs佼成学園

2021.07.19

好投手攻略に成功した早稲田実が圧勝、佼成学園・前野「気負いすぎた」

 西東京を代表する強豪・佼成学園早稲田実が3回戦で激突した。和泉監督も「大きな山場です」というほど大事な一戦だったが、試合は思わぬ展開になる。

 初回、早稲田実は二死一、二塁から5番・辻村 征也のタイムリーで幸先よく点数を奪った。この1点が「大きかった」と和泉監督は振り返ったが、チームはこの1点で勢いに乗った。

 4回に併殺崩れで早稲田実が2点目を奪うと、注目打者・清宮 福太郎がタイムリーを放つなど、この回一挙3得点で主導権を奪った。

 5回にも1年生・深谷 空のランニングホームランなどで2点を追加して6対0と早稲田実が大きくリードを奪うと、先発・石島 光騎が安定の投球を見せる。緩急をつけた打たせて取る投球で佼成学園からアウトの山を築いていく。

 8回途中にはエース・田和 廉を投入して佼成学園に反撃を許さず、早稲田実が6対0で佼成学園を下した。

 早稲田実にとって山場となる一戦で、先発はエース・田和ではなく2年生・石島を抜擢し、キャッチャーには1年生・江﨑 大耀がマスクを被る驚きの起用をしてきた。前回の大成戦後、和泉監督は「背番号に関係なく、調子のよい選手から使っていきたいと思います」と話し、戦っていく中でチームの底上げをしながら強くしていくことを話していた。佼成学園相手もその姿勢を貫いてきたが、これが上手くはまった。

 石島は大成の時、角度をつけた勢いあるボールで圧倒してきたが、佼成学園戦ではその逆だった。変化球を主体として巧みな投球術でストライク先行のテンポの良さが光る。また、佼成学園が打ち取った打球を、守備がリズムよく守り、早稲田実ペースで試合を進めることが出来た。この投球には指揮官・和泉監督も「石島にタイミングが合っていない感じでしたが、あそこまで粘り強く投げてくれたのは良かった」と2年生右腕の好投を称えた。

 石島の好投でペースを作って打線に勢いがついたが、この試合は打線の徹底ぶりが素晴らしかった。
 佼成学園エース・前野 唯斗は、今年の西東京でも有数の好投手の1人だ。この日は「気負い過ぎてしまった」と制球に苦しんでいたとはいえ、最速143キロを計測する真っすぐや、左打者には膝元に決まる鋭く変化するスライダーと、随所に良いボールは来ていた。

 その投手相手に、チーム全体で際どいところも我慢をして手を出さずに、ボールを見送り続けた。佼成学園・藤田監督が「ここまで調子が悪かったのは初めてでした」というほど前野が荒れてしまったこともあるが、9回で早稲田実は2番手・小林も合わせて12個の四死球を選び、主導権を握り続けた。

 また三者凡退で攻撃を終わることも一度としてなかったことも、今日の早稲田実打線で取り上げるべき点だろう。この打線についてマウンドにいた前野は、「入れに行った甘いボールを確実に捉えられました」と早稲田実の強力打線を肌で感じる結果になった。

 ボール球に手を出さないと言うのは簡単だが、実行するのは難しい。事実、春季大会で国学院久我山に敗れた後に、和泉監督は打力の低さを感じながらも、ボール球に手を出したことを敗因に挙げていた。春季大会が終えてから対外試合ができない期間があったそうだが、佼成学園戦は、その時間を無駄にせずに、きちんと課題を克服したことを示す徹底した戦い方だ。4回戦以降も見せていくか注目したい。


 対する佼成学園は、「思ったようなゲームメイクができずに、何もできずに終わった感覚です」と、藤田監督は早稲田実戦を振り返った。今年はエース・前野と小林の2枚看板を擁し、「昨年よりも自信がありました」と手ごたえも十分だった。それだけに、「今日は3点勝負だと思っていた」と投手陣に期待していた藤田監督の構想とは真逆の展開になってしまった。

 藤田監督はもちろんだが、悔しさを滲ませたのはエース・前野だ。「今は悔しい気持ちでいっぱいです」と一言を残すが、ここまでは紆余曲折があった。

 昨夏は強力投手陣の一角として準優勝を経験した。今年はもちろんエースとして期待をかけられたが、肩の怪我に悩み、秋は思うように投げられない。肩が癒えてきたころに、今度は腰の怪我で投げられない期間が続いた。それでも春季大会でも元気な姿を見せ、この夏は満を持してエースナンバーを背負った。

 だが、「気負い過ぎてしまった」と制球を乱してリズムを作れずに降板した。その点に関しては藤田監督も同じことを話しており、「1年間エースとして経験できず、また真面目過ぎるゆえに背負い過ぎたかもしれません」とエースをかばった。

 ただ、前野は怪我の時期を含め、佼成学園での3年間は大きかったはずだ。佼成学園では普段から自主練習に重きを置き、選手それぞれで考えをもって練習をしてきた。前野は春先の取材時には、佼成学園の練習環境について「自分にとっては良いと思います」と話していた。

 実際に怪我の期間も体幹トレーニングを通じて制球力を磨いた。そして夏に向けては藤田監督と二人三脚で球威を増す練習に取り組んできた。

 こうした取り組みを経て成長した姿を優勝という形で見せられなかった。ただ「苦しい経験を糧に上のステージで大投手になってほしい」と藤田監督はエールを送った。また前野も「経験を活かして、東京六大学でプレーしたいと思います」と明確な目標を語った。次のステージで成長した姿を見られることを楽しみにしたい。

(取材=田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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