横浜vs平塚学園
横浜が完封勝利で2年ぶり15回目の甲子園へ!
試合開始2時間前から、入場券を求める長蛇の列が球場の外周を取り巻いた。夏休みと言っても平日の火曜日である。スタンドに陣取る多くの大人たちは休みをとってきたのだろうか。ぎっしり観客で埋まった野球場のスタンド風景はもはや神奈川の夏を彩る風物詩と言ってもいい。
準決勝後の空き日と前日の降雨順延で与えられた2日間の休養をどちらが味方にするのか――。難敵相手の5回戦以降の3試合を伊藤将司(2年)1人が投げ抜いた横浜、平塚学園も準々決勝、準決勝を熊谷拓也(3年)1人が投げ抜いた。ともにチームの屋台骨を背負う1人エースと言っても過言でない。その2人が2日間の休養をエネルギーにして堂々たるピッチングを展開した。
熊谷はスライダーとストレートを外角に集めてカウントを整え、伝家の宝刀・チェンジアップで凡打の山を築く必勝のパターン。伊藤はストレートの抜けが目立ち2回にヒットと四球で無死一、二塁のピンチを迎えるが6番打者のバントをダッシュして捕球、迷いなく三塁に投じて1-5-3の併殺に仕留めた。続く7番打者にも四球を与える荒れた立ち上がりだっただけに、平塚学園のバント失敗がなければ先制されていたかもしれない。
試合が動いたのは5回。横浜のスターティングメンバーでただ1人の3年生、7番長谷川寛之が右前打で出塁、次打者の投手・伊藤がレフト線に二塁打を放ち、長谷川を迎え入れた。平塚学園の左翼手がダイレクトで捕ろうとせず、正面で捕っていれば単打ですんだ打球。熊谷はこれで気落ちしたのは9番根本耕太、1番川口凌にもタイムリーを打たれ、重い3点を背負った。
2回のピンチを凌いでからも横浜・伊藤のストレートはたびたび抜けてボールカウントを悪くしたが、5回はニ死二塁の場面での三盗失敗、6回には先頭打者が四球で出塁するが1番打者の遊撃ゴロで併殺、さらにニ死走者なしから三塁手のエラーが出るが3番打者が三振と、平塚学園の拙攻は続く。
平塚学園の最大の得点機は8回に訪れた。一死から8番石井皓大(2年)が二塁内野安打で出塁、ニ死になるが1番大谷楓が左前打で一、二塁とする。このチャンスに2番蛭田堅斗は初球の内角ストレートを打って遊撃ゴロに終わる。この攻撃を淡泊な攻めと批評することもできるが、好球必打は平塚学園の信条でもある。それを見越して初球からボールを置きにいかず、腕を振って力のあるストレートを投げた横浜バッテリーが偉かった。
伊藤はたびたびストレートが抜けて内角を攻めづらい状況に追い込まれたが、右打者が7人並ぶ平塚学園打線の内角をクロスファイアーのストレートとスライダーで果敢に攻め、追い込んだ後はブレーキの効いたチェンジアップで仕留めた。これらの球種の中でとくに目を引いたのが内角ストレートで、終盤の走者を背負ったときの入り球は腕を振った内角ストレートとパターン化した。チャンスで蛭田がこの球を狙ったのは当然で、しかし、それでも伊藤のストレートをバットの芯で捉えることはできなかった。
横浜で気になったのは高濱祐仁の遊撃守備だ。シートノックでは三遊間の深い位置からの強肩が目だったが、実戦ではこの位置からワンバウンド送球を繰り返した。安全策を取ったのだが、キャッチボールなどの日常から投げ慣れているのはノーバウンドのはず。日常的でないワンバウンド送球を繰り返す高濱が非常に危なっかしく見えた。また正面に入れる打球も逆シングルで捕る捕球体勢にも怖さがあった。
(文:小関 順二)