岩国商vs履正社
明暗を分けた「強気」と「弱気」
昨年秋の大阪府予選決勝で大阪桐蔭を破り、今大会では優勝候補に挙げる声もあった履正社が1回戦で姿を消した。大阪桐蔭戦3対1、近畿大会での関西学院戦1対0、京都翔英戦1対3でわかるように打てるチームではない。しかし、ここまで打てないとは思わなかった。
履正社の左腕、東野龍二(3年)は130キロ台前半のストレートにスライダー、チェンジアップ、フォークボール、カーブを低めに集める丁寧なピッチングを展開。2、3回には先頭打者に出塁を許したが、それぞれ併殺打、二盗失敗と相手打線の拙攻にも助けられた。
岩国商の先発・高橋由弥(3年)も似たような左腕で、ストレートは東野より2、3キロ速い程度。変化球は東野ほどの多彩さはなく、スライダー、カーブしか確認できなかった。しかし、履正社打線は打てない。結果から言うと、ゴロアウト16個を数えた。
この両投手の明暗を分けたのは「強気」と「弱気」だったのではないか。高橋で目立ったのは内角攻めである。7回裏に1死満塁のピンチを迎えたときは代打、八田夏に対して内角攻めを敢行、投手ゴロに打ち取っている。ストレートの球速は東野より速いといっても135キロ前後である。しかし、内外の出し入れと直曲球の緩急を交え、履正社打線に踏み込みを許さない。
東野はそれに対して「外角」と「低め」に腐心した。7回1失点でわかるようにそれは非常に効果的だったわけだが、5回の1失点はその低めが仇になった。1死満塁の場面で9番上寺悠に投じた初球が低めにワンバウンド、これを捕手が捕り切れずに三塁走者の生還を許してしまったのだ。
この1失点以降、開きなった東野は果敢に内角を攻め始め、降板するまで10人の打者に1安打しか許さなかったが、この強気をもう少し前に発揮できなかったのかなと悔やまれる。
履正社打線に話を移すと、WBC第1ラウンドの侍ジャパンを思い出してしまった。大阪桐蔭に勝つくらいだから地力はあるが、「優勝候補の一角」のような評価を意識すると受け身になってしまう。侍ジャパンは台湾戦の精神的な金縛り状態を「盗塁」で解いたわけだが、履正社にも同じ攻めがあってもよかったと思う。
ネームバリューという点では履正社が上回っていた。2010年以降、10年夏、11年春、12年春、13年春と、毎年甲子園に姿を見せ、長谷川成哉(中堅手)、宮﨑新(二塁手)、沖田勝俊(左翼手)、宮本丈(三塁手)は昨年春の経験者である。1、3、4、5番をまかされている彼らが放った安打は宮本の2本だけ。結果論を言えば、この宮本の前に走者を溜められなかったことが敗因だった。
(文=小関順二)