PL学園vs貝塚南
背番号8の“エース”
「故障もあったのに、よう間に合ったと思いますよ」。
そう言って、河野有道監督は頼もしげに背番号8の“エース”を見やった。
今日のマウンドに立ったのは背番号8の大川悟。俊足でシュアな打撃を見せるチームの柱でもあるが、この日は4回を1安打無失点とマウンドで奮闘した。持ち味のスライダーを操り、奪三振は6個を数えた。3回までは走者を出さない完璧なピッチングで、今夏初先発のマウンドで、いきなり本領を発揮した。
“本領”という言葉は、背番号8の選手にしてみれば違和感があるだろう。だが、大川には、これまで積み上げてきた投手としての実績がある。
昨年の新チーム結成後、チーム内で投手がなかなか台頭せず、秋の大会から投手としてマウンドに立ち続けてきたのが大川だった。小学校の時、投手の経験はあったが中学時代はほとんどマウンドには立っていない。
「去年の8月の終わりぐらいから本格的に投げ始めて、秋が本格化してからフィールディング等を練習し始めました」(大川)。
投手と野手の練習をこなすのは相当なエネルギーを要する。まともな練習を積んだことがない大川にとって、試行錯誤の最中に行われる秋の公式戦での登板は不安もつきまとった。それでも粘り強いピッチングで大阪大会3位まで勝ち進み、秋の近畿大会にも出場した。
だが、今夏の府大会直前に緊急事態が起こった。
6月中旬の練習試合で、センターの守備位置からベンチへ帰る際に、前々から違和感を覚えていた右足ふくらはぎの下部(アキレス腱よりやや上)を痛めてしまったのだ。診断の結果、肉離れということが分かり、全治6週間と告げられた。6月下旬ごろには大阪大会開幕の7月9日直前まで入院も勧められたが、5日間だけ入院して集中して治療した。
退院後はブルペンに入り、徐々にダッシュやランニングを始めるなどして急ピッチで本番に備えた。
4回で降板してから、5回からはエース番号をつける友谷俊輝がマウンドに立ち、3回を内野安打1本のみと相手打線をピシャリと抑えて完封リレーを見せた。友谷も夏の大会直前に左わき腹に肉離れを起こし、満身創痍のマウンドだった。共にケガを負いながら、マウンドを分け合っての3回戦進出だった。
春の府大会では大川は1番をつけてベンチ入りしていた。今夏は投手として切磋琢磨していきたいのではと思われがちだが、本当は大川は“本業”に専念したいと本音を漏らす。
「自分がエースとか、とんでもないです(笑)。本当はセンターで勝負したいんです。かと言ってセンターから別の投手が投げているのを見ると、打たれるんじゃなないかってハラハラする時があります(笑)。でも自分は今は背番号8をつけさせてもらっているので、打つほうで貢献したいんです」と大川は笑った。
ともかく、3年生の力で勝てたことで、今日の試合では最上級生の意地を見せることが出来たのではないだろうか。夏の大会は、最上級生である3年生の奮起がチームの活力になるのは言うまでもない。
特に今年のPLはベンチ入りメンバーに3人の2年生、4人の1年生が名を連ねる。1年生が4人もベンチ入りするのはPL史上最多だ。下級生が多いと、お互い気を遣ったり余計な憶測が飛び交ったりして、チームの和を保つのはなかなか難しいこともある。それでも深海キャプテンはこう話す。
「レギュラーになるのは実力だから、(下級生が多いことは)仕方はない。その中でも、自分たち上級生がどれだけ試合で引っ張っていけるかだと思います。初戦は硬さがあってうまくいかないことが多かったけれど、今日は初戦より余裕を持って試合ができました。次の試合もこの雰囲気で、戦っていきたいです」。
ライバルの大阪桐蔭、履正社が1歩リードとも言われている今夏の大阪。そんな中、PL学園は昨秋から思うような結果を残せず、もどかしい時期が続いたが、ようやく“らしさ”を見せつつある。
今年は飛びぬけた選手はいないうえに、1年生ながら背番号6をつける中山悠輝、背番号13番ながら今日左翼のスタメン出場を果たした前野幹博など、下級生にスポットが当たりがちだ。だが、3年生が奮起を見せた今日の試合を皮切りに、PL学園は波に乗ることが出来るだろうか。