Column

あなたが変わるまで、わたしはあきらめない 井村雅代著 光文社

2014.11.10

読書のすすめ

■ Amazon.co.jpで購入する
■ 楽天ブックスで購入する
■ セブンネットショッピング

書評

 1984年のソウル五輪でシンクロナイズドスイミングが採用されてからメダルをもたらし続けたコーチ、井村 雅代さんの指導・哲学に触れられる著書です。何と出場したすべてのオリンピックでメダルを獲得するという偉業を成し遂げ(日本で6回、その後中国で2回)、今年10年ぶりに日本代表チームのコーチに復帰されるということでも話題になりました。スポーツを指導するということの難しさや楽しさ、そして「スポーツのゴールはよい人間をつくること」というゆるがない信念には非常に心打たれるものがあります。

 テレビなどで特集されている井村さんは「叱る代表」みたいにコワイ?存在として映りますが、ご本人は「叱っている感覚ではなく本当のことを言っているだけ」とおっしゃっています。井村さんが選手を叱るときに必ず意識している「3点セット」があるといいます。それは、

あなたが変わるまで、わたしはあきらめない 井村雅代著

1)相手の悪いところをはっきりと指摘すること

2)本当のことを言ったら、必ず次に直す方法を言うこと

3)最後にそれでいいかどうかを伝えること

「直す方法を言わなかったら、叱られっぱなし、自信なくしっぱなしで終わってしまう。人は失敗すると自信をなくすけれど、そこから這い上がったときに自信を得るわけですから」(P225より引用)。

 叱るということはその選手の可能性を信じることに他なりません。「人間は「ほっといてくれ」と言っても、絶対に今よりよくなりたいと思っている。だからその子のよくなりたいという向上心や、その子の中の可能性を信じるからこそ叱るんです。(中略)シンクロでいえば、「これ以上、練習ができません」「もう限界です」と言う子をよく見て、甘えか本当か、見抜かないといけない」(P237より引用)

「常に選手には120%を要求する」という井村さん。「もう出来ません」という選手を叱咤激励し、出来なかったことが出来るようになっていく姿がテレビの特集でも報道されていました。そして出来るようになって喜ぶのかと思ったら悔し涙を流す選手たち・・・。

「今まで努力していたものは何だったんだ。なんで出来なかったんだ」と。井村さんは出来なかったら才能がないとか、シンクロに向いてないじゃなく、「努力が足りないから」と選手たちに伝えるそうです。努力できる能力のことを「心の才能」と呼び、これを最大限に引き出すことこそが指導者の役目であり、勝負師に徹して選手を勝たせないと、選手に教えている教育者としての理論が通らないというぶれない思い。井村さんの熱い言葉が胸に迫ります。指導者の方はもちろん、スポーツにたずさわる全ての人にぜひ読んでもらいたい一冊です。

(書評:西村 典子

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.12

【春季新潟県大会】プロ注目右腕・茨木佑太が完封!元プロの芝草監督は素材、メンタル面も絶賛!

2024.05.12

【春季京都大会】センバツベンチ外の西村がサヨナラ打!新戦力の台頭目立つ京都外大西が4強進出

2024.05.12

プロ注目の200cm右腕・菊地ハルン(千葉学芸)がセンバツ出場校との交流戦でまさかの7失点…夏までの課題は?

2024.05.12

【和歌山】智辯和歌山が和歌山東を破って2年ぶり優勝、中西が1失点完投<春季大会>

2024.05.12

学法石川の好捕手・大栄利哉が交流戦で復帰! 実力は攻守ともに世代トップクラス!身長200センチ右腕を攻略し、完封勝利!

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.07

【鹿児島】神村学園は昨秋4強の鶴丸と初戦で対戦<NHK旗組み合わせ>

2024.05.07

【山陰】益田東と米子松蔭、鳥取城北が石見智翠館と対戦<春季大会組み合わせ>

2024.05.07

【北海道】函館大有斗、武修館などが初戦を突破<春季全道大会支部予選>

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>