志摩が生んだ大型右腕

野球では目立った実績のない全校生徒270名足らずの公立校に、「逸材」が隠れていた。三重県は志摩半島に位置し、英虞湾に面した水産高校。部員は3年生7名、2年生4名、1年生4名の計15名と少なく、過去6年で夏の大会初戦突破は1度のみ。それが今年、身長185センチの大型右腕が初戦の飯南戦(15日)で15奪三振をマークし快勝した。
昨夏は捕手だったこともあってか、大会が始まるまでは評判も聞こえてこなかったエース岩井翔太(3年)が、最後の夏にブレイク。この日、2回戦の四日市商戦でも力投した。

身長185センチ・体重85キロの数字が示すとおり、素晴らしい体をしていた。全身に筋肉がつき、均整がとれていて、太め感がない。
志摩半島という場所ゆえ、海がつくった、と言っては大げさだろうか。体躯だけなら県内選手で右に出るものはいないだろう。そして、その体をスムーズに使えて、むやみに馬力に頼ることがないのもよい。肩の可動域も広く、腕を回して上から投げ下ろしてくる。

ボールの強さ、球種の多彩さも「逸材」のそれだ。ストレートは自己最速136キロというが、もう少し速く見える。
この日は球場のスピードガンで135キロをマーク。終盤でも球速がダウンすることなく133~134キロを続けた。変化球はフォークが落ちて空振りが取れる。そのほか「タテ、横、遅い(スロー)の計3種類」(本人談)のカーブにツーシームもある。制球だって悪くない。3回裏に2点目を失い、なお相手打者に安打を続けられたが、そこから顔色が変わってのストレート3球三振は圧巻だった。

聞けば岩井は船越中学校時代、1年先輩に「三重のダルビッシュ」と全国に名を轟かせた山崎 正衛近大高専→西濃運輸)がいて、岩井は捕手として山崎のボールを受けていた。
船越中学校も全校生徒数100名に満たない小さな中学校だから、その「逸材輩出率」に驚かされる。高校進学に際し注目された山崎とは対照的に、「自分は注目されるような選手ではなかった」(本人談)岩井は、「小さい頃から釣りが好き。海に関する勉強ができるから」と、地元の水産へ進んだ。心なしか、マウンドでのパフォーマンスは先輩・山崎に重なる。山崎に力感をプラスした感じだ。

岩井は試合後、涙がとまらなかった。「このままでは終わりたくない。(硬式で)野球を続けたい」と誓ってくれた。まだまだ伸びしろは十分で、140キロならすぐ出る勢いだ。課題は一塁ベースへ走るときをはじめ、ややキレ不足に映るシーンがあることか。今後のトレーニング次第で、もっと大きく素質を開花させられるはずだ。

敗れた水産は、1番打者の松井悠真(3年)が4打数4安打と活躍した。塁に出たらすかさず盗塁を決め、リードオフマンとしてセンスを発揮した。ただ後続にあと一本が出なかった。

一方、勝った四日市商はエース田代雄大(3年)が9つの奪三振をマークし完封勝利。スリークォーター・サイドハンド気味の見にくいリリースから、スライダーが横に滑り落ちる。
終盤のピンチでも、右打者の外角へスライダーを配し、空振り三振で切り抜けた。分かっていても打てない球筋。自信をもって自分の決め球を投げられる、精神面での「裏づけ」。ゆっくりとモーションを始動させ、一球一球指にかけてコントロールし、見事なピッチングを披露した。
打線は2番井口康佑(3年)のタイムリーや敵失で3点を挙げた。

(文=尾関 雄一朗)