開星高等学校 白根 尚貴選手
第67回 開星高等学校 白根 尚貴選手2011年06月18日
高校に入学してすぐに即戦力としてベンチ入り。さらに、秋には1年生ながらエース番号をつけて中国大会を制覇。昨年は春・夏連続で甲子園に出場した。
この3年間、“エース”として、常に注目を集めてきた白根だが、これまでどんなことを感じ、チームにとって、どんな存在であろうとしてきたのだろうか。
今回は、3年生となった白根に「エースの役割」を聞いた。
エースの役割
エースとしてチームを牽引する白根
「絶対にチームを負けさせられない役目」
1年秋からエースナンバーを背負う白根尚貴に、自分の役目は何かと唐突に尋ねると、即座にそう返してきた。
「失点しても、最少失点に抑える。そして攻撃に繋げる。自分のピッチングでリズムを作って、相手に流れを渡さないこと」
とも、つけ加えた。
エースという立場は、白根にとっては慣れ親しんできたポジションでもある。小学校3年で野球を始め、6年生まではほぼエース級の扱いでマウンドに立ち、中学時代は「乃木ライオンズシニア」に所属し、3年間エースを務め、チームをけん引してきた。
開星に入学後も、高校生になってわずか半年後にエース番号を背負うことになった。その秋は中国大会で優勝。昨年は春夏連続で甲子園にも出場した。だが、自身の内容に触れると「まだまだな部分があった」と振り返る。
「今までは、自分のピッチングがうまくいかないと表情に出すことが多かったんですけれど、そういう時はあえて笑顔でいるようにしています。以前はマウンドでカッとなって打たれて、流れを止められなかったことが多かったですね」
1年生からマウンドに立ち続けると、普段なら見えるはずのことが見えなくなりがちになるのも事実。特に白根は高校入学時から実力が抜きん出ていて、”お山の大将“のような一目置かれる存在でもあった。気持ちのコントロールという課題は、克服できるようで、なかなか出来ない。昨年は目につくことがある度に、バッテリーを組んでいた先輩捕手の出射徹(現広島経済大)が苦言を呈してくれていた。
「でも、今年は自分が引っ張る立場。特別な感情があるわけではないけれど、やっぱり自分がエースなので」
最上級生になり、責任だけは果たさなければと思っていた。
気持ちの重要性を再認識
そして迎えた秋季大会の初戦の矢上戦。互いのエースが譲らず試合は投手戦となった。
0対0で迎えた8回の裏。3番の坂根に投じた、追い込んだ後の「落とし切れなかった」(本人談)フォークをスタンドへ運ばれ、0対1で初戦敗退を喫した。
夏の甲子園から帰ってきて、わずか1ヵ月後の試合。しかも、その甲子園では初戦の仙台育英を相手に最終回に味方のエラーで逆転されて白星を逃すと言う屈辱的な敗戦を味わい、再起を賭けたはずの秋の第一歩だった。
「ヒットが出ないまま、気が付いたら終盤になっていて…。終盤に1度だけあったチャンスを潰して、沈んだ気持ちを引きずったまま最終回のマウンドに立っていました。あまりにもあっけない負け方で、しばらく何を目標に練習していけばいいか分からない時期もありました」
だが、冷静に考えてみると自分の気持ちの弱さを再確認した試合でもあった。
「回が進めば進むほど、厳しいコースを突いて抑えようとか、難しい球をどんどん投げないといけんとか、気持ちだけが先走っていたんです。良い打者ほど特に。それで1人で熱くなっていて…。例えばホームランを打たれた打者でも、アウトコース主体にして長打を打たれないように冷静に投げれば展開が違っていたかも知れません。この試合に限らず、今まで自分は大事なところで点を取られているんです」
ラストサマー、再び聖地へ
昨年の甲子園もそうだった。センバツの初戦の向陽(和歌山)戦。3回までに三振を5個奪い、打者が一巡した4回に先頭打者に与えた死球から突如リズムを崩した。その後、四球で走者をため、下位打線に連続して適時打を浴びた。
夏の仙台育英(宮城)戦も、9回に1点をリードし、二死を取った後に安打、死球でまたしても走者をため、味方のエラー等で万事休す。自分のリズムが狂うことが、味方のリズムに多大な影響を及ばせてしまうことを、身をもって痛感させられた。
「自分のペースを貫いて、無難に打ち取ることが第一。でも今はさらに相手の考えをかいくぐるようなピッチングが出来るようにもなりたい。それぐらい、もっと気持ちに余裕を持てるようにならないといけないんです」
厳しいコースを突く投球は決して間違ってはいない。だが、それと同時に気持ちも巧みにコントロールしなければならない。昨秋から冬にかけ、昨年はなかった“長い時間”の中で、白根は1年以上マウンドを守り続けてきた経験や技術はさることながら、心の持ちようの大事さを考え続けてきた。
甲子園を目指し、1番を背負ってきた時間もあとわずか。
「最後の夏は集大成。自分がリズムを作って、チームに勝利をもたらすこと。その気持ちに変わりはないです」
心を奮い立たせ、夏の決戦の幕開けをエースは心待ちにしている。
(文・インタビュー:沢井史)