東京都高校野球連盟 武井克時 理事長
独占インタビュー 第48回 東京都高校野球連盟 武井克時 理事長2010年06月21日
今回の独占インタビューは東京都高校野球連盟の武井克時理事長です。長年、高校野球の監督を務め、現在は高校野球連盟にて大会運営に携わる武井理事長に、指導者から見た高校野球についてお話を伺ってきました。
監督になるまでの道のり
スタッフ(以下「ス」) なぜ、指導者になろうと思ったのですか?
武井理事長(以下「武」) 学校から甲子園を目指して、日体荏原高校に進学しました。そのときの3年生が選抜に出て帰ってきたときの入学ですから、一番厳しかったというか、力のあるときでしたね。
その中からプロに行く先輩もいたので、上手な選手がいっぱい育っていました。そこでは下積みが多かったんですけど甲子園に行けなかったです。やっぱり高校野球でやり残したことがあったので、指導者になって野球を教えたいなと。
「ス」 高校野球の指導者になるまで、どのような道のりでしたか?
「武」 体育教師を目指し、日体大に進んで2年間野球部をやり、3年からは都立高校でソフトボール部とか野球部とかでコーチをしていました。教員になるためには結構オールマイティにやらないとまずいですから。スポーツジムで少年の水泳指導などの体育指導を週3、4回行きまして、ソフトボールと野球のコーチを毎日行きました。
教員になって養護学校から都立久留米西高校に赴任したとき、野球が出来るぞと思ったのだけど軟式野球しかありませんでした。その4年後グラウンドの改築と共に、硬式野球部を作ったんです。
当時の練習風景
監督時代は常に工夫しながら練習を行った
「ス」 先生が最初に監督に就任されたころと最近ではトレーニングの内容など変わりましたか?
「武」 全然違いますよね。私たちの頃は肩を冷やしてはいけないとか、アイシングなんてとんでもない話でしたから。
私はひたすら根性論でやっていた頃が長かったですから、今思えば少し反省しています。ただ、やっぱり気持ちを動かすということでは高校生はやっぱり高校生でね。子どもの部分がたくさん残っていますから、どういう風にやる気や意欲を持たせるか・・・。その点ではだいぶ苦労しました。
「ス」 当時の練習で、オリジナルの練習方法はありましたか?
「武」 やっぱりいろいろ考えましたね。
今では当たり前だけど、昔は冬場のトレーニングでソフトボールなげさせたり、ソフトボール打ったり。やっぱり重めのボールを投げさせることで負荷を強くするとか、アメリカンノックとか一般的じゃなかったけど、ずいぶん最初の頃にやり始めましたね。
全然そういうことは知らずに自分でこういう練習いいなと思いながらやっていたことが、今の当たり前の練習になっていたりします。
「ス」 体育教師は色々な競技を教えますが、そういうことが野球の指導に活きることはなんでしょう?
「武」 私の親友がバレーボールの世界にいて、そちらの先生やトレーナーに話を聞いたりしました。レーナーの導入はアマチュアでは野球よりオリンピック関係の種目の方が早かったですから。
「ス」 そこからアイディアを集積していったと。
「武」 ただ、今でもこれで良しっていう練習はないのではないかと思います。学校によって施設も違うし、生徒の学力も違うし、環境が違うということは栄養のとり方も違うし、そうなると体格も違う。カルシウムをしっかりとらせようと思って毎日煮干しを一斗缶で買ってきて、ミーティングの時に目の前で食べさせてから解散なんてこともありましたよ(笑)
とにかく試行錯誤の連続でしたね。
近年の高校野球
「ス」 毎年一気に波に乗った公立校が勝ち上がってくることがありますが、共通していることってありますか?
「武」 共通していることは、指導者が熱心で研究をしている。
指導者が長い間研究して、尚且つ情熱を持ってずっと続けている、そういう方です。だから決して急に出てきた訳ではなくて、苦労されてずっとやってきて、そういう所にたまたまいい素材の選手が集まってきて、環境も整って結果が出てくる。どこでもそうだと思いますよ。
20年くらい前を顧みますとね、野球のレベルが底辺の都立高校っていっぱいあったのですが、今はそれがすごく少なくなりました。底が上がりましたね。注意しないと足元掬われるなって。
「ス」 なるほど。指導者の力も付いてで上に行きやすい土壌が出来て、甲子園が現実目標として設定出来る様になりつつありますね。
「武」 遙か夢ではなくて、近づいていけるというね。本当に頑張って行けば夢じゃなくなる状況だと思います。
「ス」 指導経験者から見て、そこに進めるかどうかの別れ際はなんでしょう?
「武」公立高校の場合は学力の問題もありますから、どういう子達のレベルがそろうか。球児が自分たちで考えてできるレベルなのか、テコ入れしなきゃできないレベルなのかで指導方法もまったく違いますよね。あとはもう本人の自主性とか主体性です。だからやらされているうちっていうのはなかなか伸びないですよね。
自分を持って、自分が野球をやっているという意識をして欲しいです。
大会運営の裏側
「ス」 東京都の理事長という役職で、運営側の苦労はなんでしょうか?
「東」 まず球場の確保ということが大変な苦労です。
東京に野球場が少なくて日程的なものをおさえたり、条件を満たしてあげたりすることが難しいです。また、整備が整っていない球場やグランドが多いですから。我々が一番考えていることは球児に一番良い状況でやらせてあげようって、それだけです。あとは観客を入れるための球場がほとんどないですからね。2、3000人くらい座ったらほとんどいっぱいでしょうから。やっぱりお客さんにも良い条件で観てもらいたいです。
「ス」 なるほど。実際現場において抱えている困難はありますか?
「武」 ゴミの処理です。球場を借りると、使用料を払ってゴミの処理もしなくてはいけません。そのために最低限の値段で入場料をとるのですが、どうしても地方に比べると東京は高いんです。その分負担をかけてしまい・・・。現在は、補助をやってくれている生徒さんも運営している先生方など、ボランティアの方々のおかげでもっているのです。
「ス」 球場のマナーはぜひ徹底しなくてはなりませんね。
「武」 ゴミは原則的には持ち帰りをお願いしていますが、それでも出た分は処理しなければなりません。
大会は全部手作りなんですよ。東京は今インターネットの運営もしていますが、あれも頂いた入場料の中で運営しています。もし資金難になるとああいうサービスもできなくなる。この場を借りて、再度来場者の皆様にはゴミの持ち帰りを徹底して頂ければと思います。
高校生にメッセージ
「ス」 球児に期待することはなんでしょうか?
「東」 やっぱり高校野球の精神じゃないけど、野球を通して仲間を作って楽しんでいくということ。それからルールがあるわけだから、その中でフェアにすること。これは社会のルールもまったく一緒。後は自分自身のたくましさとか、健康を勝ち取っていくとか、頑張る力を身につけるとか、そういうことなんじゃないですかね。
「ス」 なるほど。それでは最後に球児にメッセージをお願いします。
「東」 3年生は、高校野球最後ですから全てを野球にぶつけてやることが自分の人生が開く扉だと思います。今受験勉強しながら野球をしている生徒さんもたくさんいると思いますが、今の時期は野球にのめりこんで。終わった時点で切り替えればいくらでも間に合うので。集中するということが大事です。
1年生と2年生は3年生の姿をしっかり見てください。3年生の夏に向かう姿勢をしっかり見て、早く自分がどれだけ自主的にやるのかということを気がつくように。気づいた者勝ちですから。
「ス」 ありがとうございました。