経験を力に変えられるのが前 佑囲斗(津田学園)の強み。甲子園と日本代表の経験が成長を生んだ【後編】
U-18代表に選ばれ、完成度の高さを評価されている大型右腕・前 佑囲斗(津田学園)。最速152キロのストレートと切れ味鋭いカットボールをコンビネーションにした投球は完成度が高く、特に勝負所のピッチングは素晴らしいものがあり、「勝てる投手」を体現した投手だ。2年生秋から不動のエースになり、東海大会準優勝、そして3年の春夏は甲子園出場に導いた。
インタビュー後編ではそんな前に甲子園や日本代表で得た経験について語ってもらった。
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信頼する兄のアドバイスから始まった大エースの道 前 佑囲斗(津田学園)【前編】
高校日本代表の研修合宿の経験をしっかりと力に変えた
佐々木朗希らと並ぶ前 佑囲斗(津田学園)
前はさらなる活躍を目指して、冬のトレーニング期間に、走り込み、ウエイトトレーニングの頻度を多くし、パワーアップを目指した。技術的なことでは、回転数の高いストレートを投げ込むために、技術面を突き詰めた。
「意識していることは、強く立ってそこから綺麗に真っ直ぐ出すということ。そして最後に強く指をかけるように腕を振って投げています。
今では回転数の高いストレートを投げるといわれるようになりましたが、リリースを前にするということの意識付けがすごく効いていると思います」
そして変化球は得意球であるスライダー、カットボールもストレートより強く腕を振るイメージで投げて精度を高め、ピッチングのレベルを高めてきた。
センバツでは強豪・龍谷大平安と対戦し、練習の成果を発揮した。先発した前は延長10回まで無失点のピッチング。11回に2点を取られて、初戦敗退となったが、初の全国舞台は上々のデビューとなった。前自身も手ごたえを感じる投球だった。
「まだまだ自分を出し切れていない試合でしたが、その中で最後の最後まで諦めずに投げ切れました。今後に繋げられるいい試合だったと思います」
この試合の快投が認められ、高校日本代表候補に選出。4月、関西地方で開催された高校日本代表候補の研修合宿に参加。
そこで得たものは非常に大きかった。
「レベルの高い選手ばかり集まっている場所で、僕は三重県では凄い選手と言われていましたが、全国レベルで見ると、まだまだ全然だと改めて思いました。そこからまた自分の考え方が変わって、夏に向けてもっと成長しなければと感じました」
レベルの高い選手と交流して自分の立ち位置が分かったこと。そして奥川恭伸、佐々木朗希の超一流選手を間近で見たことも大きな学びとなった。
「両投手とも腕を振ることと、フォームもバランスも綺麗だったので、もっと自分もフォームを綺麗にして、自分が投げやすい姿勢を作らなければという課題が残りました」
そしてピッチング練習では、バランスを大事にしながら、リリースポイントの安定をテーマに投げ込みを行い、大会前の練習試合でも145キロ前後を計測。夏には150キロが出るかもしれないという手ごたえを感じながら、夏に臨んだ。
そして夏の三重大会では4試合に登板し、31回を投げ、38奪三振、決勝戦以外は無失点の好投を見せ、再び甲子園に導く。さらに自己最速の152キロを計測し、春よりもパワーアップした姿を見せたのであった。
自信をつけ、そしてライバルの存在に刺激を受けた日本代表の経験
JAPANのユニフォームで投球する前 佑囲斗(津田学園)
甲子園の静岡戦では1失点完投勝利で初の全国1勝。2回戦では履正社打線に打ち込まれ、敗退となったが、前は前向きに成長につながる試合だったと振り返る。
「コントロールのばらつきが目立ち、連打から失点を多くしたので、最後に課題が見えました。これからの成長に繋がるように頑張っていきたいと思います」
大会後、高校日本代表候補の研修合宿を経験し、目標にしていた高校日本代表に選出されて、念願のJAPANのユニフォームを背負った。ワールドカップでは3試合に登板し、9イニングを投げ、13奪三振 失点4(自責点1)、防御率1.00と主にロングリリーフとして活躍。特に二次ラウンドのオーストラリア戦では5回9奪三振の好投を見せた。前は自分の実力を発揮できたという思いはある。
「絶対に勝ってやる、日の丸を背負っているんだという気持ちで臨んだ大会だったので、残念な結果に終わってしまいましたが、しっかりと自分をJAPANでも見せられたのは良かったです。世界の打者はスイング力が全然違いましたが、同じ高校生なので抑えられないわけではないという想いでマウンドに立ちました。
オーストラリア戦では、しっかりとチームの悪い雰囲気を払拭して戦おうという気持ちでマウンドに立てたことが良かったと思います。5回だけでしたがチームに流れを持ってくるピッチングができたのではないかと思います」
そして春の研修合宿で佐々木、奥川のピッチングに刺激を受けた前は、またしても2人の存在を見て、「凄い選手はポテンシャルが違うので、自分もこれまで以上にストイックになって練習しなければならないと思いました。もっともっとレベルアップして、いつか追い越せる選手になりたいです」と決意を新たにした。
そして帰国後、プロ志望届を提出し、取材日の9月19日にはブルペンでのピッチングを再開している。そして前は決意を改めて語った。
「日本で1番高いレベルの場所でプレーする覚悟をしていたので、まだ入れるかは分かりませんが、目標に向けてもっともっと自分のレベルを上げてプロに入団できたらと思います。
プロ入りが実現すれば、将来的には、ローテーションに入って球界のエースと言われるぐらいの選手まで昇りつめることができたらいいなと思います」
前 佑囲斗(津田学園)
また前を指導してきた佐川監督も「計画的に練習に取り組めて、その目標を達成して、入学当初、120キロ後半だった速球が152キロまで速くなりました。そして二季連続で甲子園出場に導き、エースと呼ばれる存在にまで成長しました。津田学園から育った選手でもあるので、ぜひ頑張っていただきたいです。いずれはローテーションに入れる投手になってほしいですね」とエールを送った。
前のラストイヤーを振り返ると、レベルの高い環境で刺激を受けて、そこから自分の課題を明確にした。そして練習内容に変化をつけて、成長できた。経験を力に変えられるのが前の強みである。
プロ野球という過酷な環境でも、その姿勢を見失わず、のし上がっていきたい。
(取材=河嶋 宗一)
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信頼する兄のアドバイスから始まった大エースの道 前 佑囲斗(津田学園)【前編】