甲子園総括コラム ~選手から振り返る 第96回全国高校野球選手権大会~
捕手豊作年となった第96回選手権大会
優勝し歓喜する大阪桐蔭ナイン 写真提供:共同通信
試合日 | 名前 | 高校名 | 学年 | 投打 | 身長体重 |
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8/11 | 守屋元気 | 春日部共栄 | 3年 | 右右 | 174/74 |
岡田耕太 | 敦賀気比 | 3年 | 右右 | 173/80 | |
8/12 | 堀内謙伍 | 静岡 | 2年 | 右左 | 175/80 |
内藤大貴 | 大垣日大 | 3年 | 右左 | 173/71 | |
8/13 | 柘植世那 | 健大高崎 | 2年 | 右右 | 175/73 |
太田光 | 広島広陵 | 3年 | 右右 | 177/72 | |
8/14 | 清水優心 | 九州国際大付 | 3年 | 右右 | 185/88 |
8/15 | 吉田高彰 | 智辯学園 | 3年 | 右右 | 180/78 |
横井佑弥 | 大阪桐蔭 | 3年 | 右右 | 174/74 |
このうち、イニング間の二塁送球で1.8秒台を計測したのは守屋、岡田、清水、吉田の5人。
さらに実戦(二盗を阻止するスローイング、離塁の大きい走者けん制するスローイング)で2秒未満を計測したのは内藤の1.88秒(藤代戦の3回表)、太田の1.95秒(三重戦・(試合レポート)の4回裏、二塁けん制で)の2人もいた。プロでも実戦での2秒切りは難しいので、「強肩揃い」という表現に誇張はない。
彼らの多くは中心打者でもある。守屋、内藤は3番、岡田、堀内、太田、清水は4番、柘植は5番をまかされている。この打順で、たとえば岡田は5打数3安打2打点を挙げている。第5打席の2点タイムリーは、1ボール2ストライクからの変化球に対してヒザをクッションにしてタイミングを取り、左手のリードでレフト線へ運んだものだ。パワーとともに高い技術を併せ持たないとこういう打ち方はできない。
特徴的な攻撃を見せた敦賀気比、健大高崎、三重
捕手以外では敦賀気比の上位打線が驚異的な破壊力を見せた。とくに目立ったのが好球必打の姿勢。
1回裏の攻撃では4番岡田の二塁打が1ボールからの2球目、5番峯の2ランホームランが2ボールからの3球目、3回裏の7番平沼翔太のタイムリー二塁打は初球ストレート、5回裏の1番篠原涼の2ランホームランも初球ストレートと徹底している。技術云々を言う前に、積極的に打っていく姿勢を高く評価したい。
峯 健太郎(敦賀気比)
大会3日目に登場した健大高崎も見事な攻撃を見せた(試合レポート)。
2回までに3点先行される苦しい立ち上がりだったが、3回に2点、4回に1点、5回に2点と、短い間に得点を集中させた。2回の攻撃では1番平山敦規、2番星野雄亮が二盗を成功させ、「健大は走る」というイメージを岩国バッテリーの頭にしっかりと刷り込み、その後の攻撃を有利に運んだ。
やはり3日目の三重対広島広陵戦(試合レポート)は見事な走り合いが演じられた。
盗塁は両校合わせて1つしかないが、ここで言う走り合いとは打者走者の各塁到達。俊足の目安「一塁到達4.3秒未満」が、三重が5人8回、広島広陵が4人4回記録し、一塁へ5秒以上かけて走る不心得者も両校とも0人と、今大会で最も見応えのある走り合いとなった。
このうち1人で3回、4.3秒未満を計測したのが三重の1番長野勇斗。第2打席では1-1からのストレートを強烈に叩いてライト前に弾き返し、この振り抜いた打球で一塁到達は4.20秒という速さだった。健大高崎・脇本直人と並んで今大会を代表する外野手と言っていいだろう。
聖地で輝いた投手たち
2回戦16試合では投手が目立った。どんな選手がいたのか紹介しよう。
試合日 | 名前 | 高校名 | 学年 | 投打 | 身長体重 |
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8/15 | 吉田嵩 | 海星 | 3年 | 右右 | 181/85 |
8/16 | 松本裕樹 | 盛岡大附 | 3年 | 右左 | 183/80 |
青島凌也 | 東海大相模 | 3年 | 右右 | 177/76 | |
吉田凌 | 東海大相模 | 2年 | 右右 | 181/72 | |
8/17 | 山城大智 | 沖縄尚学 | 3年 | 右右 | 176/75 |
森田駿哉 | 富山商 | 3年 | 左左 | 183/79 | |
逢澤 崚介 | 関西 | 3年 | 左左 | 175/72 | |
平沼翔太 | 敦賀気比 | 2年 | 右左 | 178/75 | |
8/18 | 大井友登 | 東邦 | 3年 | 右右 | 176/71 |
藤嶋健人 | 東邦 | 1年 | 右右 | 176/75 | |
飯塚悟史 | 日本文理 | 3年 | 右左 | 185/76 | |
岩下大輝 | 星稜 | 3年 | 右右 | 191/78 | |
8/19 | 石川直也 | 山形中央 | 3年 | 右右 | 191/78 |
佐藤僚亮 | 山形中央 | 2年 | 左左 | 170/70 | |
岸潤一郎 | 明徳義塾 | 3年 | 右右 | 175/75 |
吉田 凌(東海大相模)
この中で前評判が立っていなかったのが吉田嵩、逢澤、大井、佐藤僚の4人で、2番手で1対5とリードされた4回途中から登板した吉田などはキレのいい縦割れのスライダーと、最速145キロのストレートを左肩の開かないフォームから投じ、どうしてこの選手が先発でないのか理解に苦しんだ。
この15人の中で最も心惹かれたのは青島と森田だ。
青島が所属する東海大相模には吉田凌、小笠原慎之介、佐藤雄偉知という140キロ以上のストレートを投げる超高校級3人が控える。当然、先発した青島の頭の中には5回くらいまで投げて2番手にバトンタッチするプランがあっただろう。
雨で足場の悪いマウンドにもかかわらず1回からこれでもかと腕を振って最速143キロのストレートと、ストレートと同じ腕の振りで投げる超高校級のスライダーを交え、盛岡大附を5回までホームランによる1点だけに抑えていた。かえすがえすも、なぜこのイニング限りでベンチに下げ、2番手をマウンドに送らなかったのか悔やまれる。試合レポートでは「金持ちが貧乏所帯さながらのやりくりやりくりをしているように見え」と批判した。
森田と逢澤は7日目の第3試合で投手戦を演じた(試合レポート)。
森田は最速144キロのストレートと、打者の近くで鋭く縦に落ち込むスライダーのコンビネーション、逢澤は最速141キロのストレートとスライダー、カーブを体ごと押し込むようなリリースで投げ、富山商打線を翻弄した。
7回表の富山商は先頭の3番坂本潤一朗が二塁打で出塁しながら捕手のけん制であえなく憤死、チャンスは途絶えたと思われたが、ここから四球を挟む3本のヒットで2点入れ、勝負を決した。
眠っていた才能を引き出した甲子園での熱戦
岩下 大輝(星稜)
3回戦から決勝までの15試合ではここまでに名前を挙げた選手が活躍した。面白いのはそれほどよく見えなかった星稜・岩下、山形中央・石川の両投手が非常によく見えたこと。
甲子園での経験と強豪相手というプレッシャーが、眠っていた才能を引き出したと私は思っている。
岩下は速いストレートはあるのだが、投げ始めからフィニッシュまで動作が一定のリズムで続いていき、投げに行くときの一瞬の静止がないという悪癖があった。これは上半身と下半身が割れないということで、高めへの抜け球を誘発する恐れがあった。
しかし、この八戸学院光星戦(試合レポート)ではテイクバックで一瞬の間合いを作れるようになり、ストレートが腕の振りから一拍遅れて出てくるようになった。八戸学院光星打線は9回まで3安打、1点となす術がなかった。延長10回に3四球、3安打で4点取られ8強進出はならなかったが、甲子園が成長を後押しした格好の見本として長く忘れられないと思う。
3回戦で同じく敗退した山形中央・石川も甲子園が成長を促した(試合レポート)。
健大高崎の波状攻撃で先発の佐藤僚が3回途中でベンチに下がる非常事態。しかし、そこから石川はよく耐えた。
ストレートの最速146キロは東海大四戦(試合レポート)の148キロに及ばないが、勝負どころで腕を振って投じられるストレートは迫力があった。具体的には5回裏の一死二、三塁のとき、7番柴引良介を見逃しの三振に斬って取った146キロは見事だった。
準々決勝以降では、準々決勝で見せた健大高崎と聖光学院の足攻がさすがだった。
聖光学院が日本文理戦(試合レポート)で記録した打者走者の全力疾走のタイムクリアは6人6回。健大高崎はタイムクリアこそ2人2回と少なかったが、足を警戒する大阪桐蔭バッテリー相手に4盗塁を決め、6回まで王者を瀬戸際まで追い詰めた(試合レポート)。
決勝(試合レポート)の三重対大阪桐蔭まで俯瞰して見ると、「打高投低」の大会と言って間違いない。
そして、準々決勝に進出した8校の顔ぶれは、東北=八戸学院光星(青森)、聖光学院(福島)、北関東=健大高崎(群馬)、北信越=日本文理(新潟)、敦賀気比(福井)、東海=三重、近畿=大阪桐蔭、九州=沖縄尚学と、近年著しい勢力図の変遷が今年も見られた。
来年以降は首都圏勢、明徳義塾を除く四国勢、沖縄以外の九州勢が上位に進出したとき、「伏兵が跳梁」と書かなければいけないかもしれない。
(文=小関順二)