Interview

第96回選手権地区大会は「波乱の大会」だったのか

2014.07.30

昨年春夏優勝校、浦和学院・前橋育英が姿を消す


左から高橋光成(前橋育英)・小島和哉(浦和学院)

 
7月に入って、甲子園を目指す高校野球の地区大会がそれぞれ週末を中心としてスタートを切る。そこから、2~3週間は、高校野球関係者やファンにとってはあっという間に過ぎていく時間でもある。

 ピーク時になると、1日に全国で400試合前後が行われることになる。その中には、優勝候補と言われる学校が思わぬ早い段階で敗れたり、プロ注目の投手が打ち込まれて敗退したりということもある。メディアの特性として、そんなことがあると大きく取り上げていくことになる。

 やはり、番狂わせは見る側としてはたまらない面白さを感じるものなのである。

 今年も、そんな現象が序盤から各地で現れていた。
埼玉では、昨春悲願のセンバツ優勝を果たした小島 和哉投手を擁していた浦和学院が早々に埼玉川口に敗退した。今春も県大会を制するなど、ここ何年も圧倒的な安定感を示しているだけに、よもや取りこぼしはないだろうというのが大方の見方だった。それだけに、ビックリする波乱でもあった。

 また、昨夏全国制覇を果たし、エースとして貢献した高橋 光成投手が残っていた前橋育英も、2試合目となった3回戦で健大高崎の前に屈した。
もっとも、前橋育英の場合は昨夏以降、秋季県大会春季大会はいずれも早々に敗退しており、シード権を獲得出来ていなかったということもあった。また、全国制覇を果たしたということで、これまでになかった非日常的なことが知らず知らずのうちに起きていたということもあったのではないだろうか。

 これに対して、健大高崎は昨秋からこの夏を目標として、甲子園に行くには前橋育英を倒さない限りあり得ないということを意識して取り組んできた。だから、組み合わせの妙で早目にあたる可能性が高くなったことでも動揺はなかった。むしろ、早い激突を望んでいたくらいである。
青栁 博文監督も、秋からの取り組みの成果を発揮できたことを喜んだ。そして、そのまま群馬大会を制して2度目の甲子園を手にした。

 健大高崎に敗退した後、荒井直樹監督は、「高橋光成には、学校にも新しい歴史を残してくれましたし、感謝の気持ちしかありません。全国優勝をした後も、今までと変わらない気持ちでやっていこうということは、常に言っていたのですが、やはりどこか違っていたのでしょうか。でも、これでまた今まで通りの普通のチームに戻れます」と語っていた。

 メディアからの注目度の高い高校野球の場合、一つ実績を作るとその後の時間はしばし非日常となることがある。そんな現象が知らず知らずのうちにこれまでのリズムを狂わせていくということになってしまっているのではないだろうか。

第96回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ

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[page_break:大混乱を見せた地方予選]

大混乱を見せた地方予選

 浦和学院にしても、前橋育英にしても毎年好チームを作り、高い意識の選手たちが集まっているチームである。
ただ、それが成果を出したことによって生じた非日常が、どこかでいつものリズムを知らず知らずのうちに狂わせていたということもあるのではないか…、そんな気にもさせられた。

 それは、昨春のセンバツ準優勝投手で、今年のドラフトで高校生投手としては間違いなくナンバーワンという評価の安樂智大投手を擁していた済美が、東温に敗退して愛媛大会もそうである。
比較的早い段階で、そんな顕著な現象があったことで、とくに今大会は波乱が多かったという印象を受けているということもあるのかもしれない。

 その愛媛大会は最終的には愛媛小松が初出場を果たした。絶対的な本命と目されていた済美の敗退によって、大会そのものも大混戦となっていったようだ。
愛媛小松は、かつて今治西を甲子園に導いた宇佐美秀文監督が率いるチームだが、春季県大会は初戦で松山聖陵に敗退し、大会前はそれほど下馬評には登っていなかったチームである。

 宮城大会では仙台育英東北という大きな2枚の壁を越えて、公立校の利府が初出場を果たした。
利府はかつて、21世紀枠代表として甲子園に出場を果たし、甲子園ではベスト4まで進出したという実績があるだけに、「仙台育英東北でなくても、宮城県勢は強いぞ」ということを十分の示してくれそうな期待感もある。

マウンドに集まる星稜ナイン

 また、東東京大会では過去10度、決勝進出を果たしながらその度に壁に跳ね返されてきた二松学舎大附が、ついになんと「11度目の正直」で悲願を達成した。
しかも、市原勝人監督も語っていたように、東東京最大の壁である帝京に対して、2度までリードを追い付いて延長の末に下したことに意義があった。
帝京の東東京大会決勝での連勝記録は7で止まった。
西東京でも、日大鶴ヶ丘がサヨナラ勝ちで甲子園を決めた。

 石川大会決勝では、9回表で0対8とリードされていた星稜が、一挙9点を奪う大逆転で甲子園出場を果たした。
こうした、劇的な形で悲願を達成した各校の戦いぶりが全国で光った。

 一方で、もちろん福島の聖光学院、青森の八戸学院光星をはじめ、作新学院明徳義塾、広島広陵に今春優勝龍谷大平安など常連校も少なくない。

第96回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ

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[page_break:高校野球の現場の二極分化]

高校野球の現場の二極分化

 今、高校野球の現場は大きく二極分化していって、その傾向が年ごとにより顕著になっていっているような気がしてならない。
二極分化というのは、甲子園出場を大前提として、その地域の中学の有望選手が入学してきて、甲子園出場はもちろん全国制覇を目指すというところと、地元の伝統の公立校など、地域の限られた範囲の中での生徒でチームを作っていくというチームである。そして、多くの場合が後者に属する。

 これに対して、多くの甲子園常連校と言われる学校が、目立つ存在、注目を浴びる存在となっていくのが、前者である。
学校によっては、全国から生徒が集まってくるところもあるのだが、それらの学校がその地区の高校野球をリードしていく存在であることもまた確かである。そして、全国的に注目を浴びる学校のほとんどは、この前者に属することになる。

 福島県などは、ここ何年かは聖光学院以外は勝ち上がっていくことが出来ない。今年も、結局聖光学院が栄冠にたどり着いている。
早い段階で有力校が敗退すると、メディアでも大きく扱われることもあって、強烈な印象を与える。とはいえ、現実的には全国を見渡してみると、例年バランスよく出場しているのではないかというところに落ち着く。今年もまた、トータル的には新鋭と常連校はバランス良く散らばったと言っていいだろう。

 近年、都立校の躍進が著しい東西の東京大会では、はプロ候補とも言われている鈴木優投手を擁する都立雪谷や、今春21世紀枠代表に選出されて甲子園出場を果たした都立小山台がベスト8まで進出したが、及ばなかった。
西では昨夏決勝進出を果たした都立日野や、一昨年ベスト4で今年もシード権を獲得していた都立片倉が4回戦で当たるのではないかと期待されたが、どちらも、そこに至る以前に敗退した。
下馬評で注目され過ぎると、その通りいかないものであると、夏の大会の難しさを改めて実感させられる現象だった。

 一方で、愛知大会では2日連続で同じ[stadium]岡崎市民球場[/stadium]で、延長15回引き分け再試合が続いた。連日の暑さの中での戦いながら、選手たちの頑張りが目立ったということだが、ただでさえ参加校が多くて、代表校決定が全国最後という愛知大会である。大会運営の高野連の日程を組む担当の人は頭を悩ませることにもなった。

 年々、暑さが増していくように感じられる日本の夏だが、そんな中で甲子園を目指す夏の熱さも、それ以上にヒートアップしている。それを見つめ、応援する私たちもまた、熱い思いで見つめていたい、そんな2014年の夏だった。

 そして、これが甲子園に引き継がれる一方で、ほとんどの学校で早くも新チームがスタートしている。一つの終わりが次の始まりでもあるのだ。これもまた、高校野球の魅力なのである。

(文=手束仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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