仁志敏久から学ぶ!キャッチボールのHow to
野球のキホンといわれるキャッチボール。なぜ大事なのか、その重要性について仁志敏久氏が解説します!
キャッチボールを行う目的
キャッチボールの説明をする仁志 敏久氏
キャッチボールを行う目的とは何か。まずはそこからお話しします。
キャッチボールは基本的にはウォーミングアップの1つです。ただし、それはしっかりとした基礎ができているプロや社会人、大学生の選手の場合です。よく「野球の基本はキャッチボール」と言われるように、高校生以下の選手はただの「肩慣らし」だけの時間にすべきではないと思います。
野球というのはボールを捕るスポーツですが、投げるために捕っているケースがとても多い。当然ですが、ゴロアウトは捕った後に確実に投げて完了します。
守備における一番の重要なポイントは「投げる」なんです。
ですから、投げ方から、正確性、距離感など多くを養えるキャッチボールを大事にすることは、考えている以上に試合の勝利に結びついてくるのです。
また、投げ方には自分の動作の癖が出ます。例えば前の肩の開きが早い投げ方をしている選手は、バッティングでも早く肩が開いてしまうことが多かったり、踏み出す足が開く選手は、走るときも同じような足の踏み出し方をしていたり。投げ方を整えるというのは、野球全般を良くする可能性がおおいにあります。
さらに言えば、小さい頃から指導者の方に「相手の胸に投げるように」と教わった選手も多いと思いますが、それは相手が捕りやすいボールを投げるという、思いやりの教えでもある。そうした人としての成長を促す一面もありますし、気配り、心配りというのは実戦で役に立ってきます。
キャッチボールというのは、やり方次第でいろいろな効果が見込めるのです。
意識するのは「軸」
では、キャッチボールをするときにはどこに気をつけなければならないか。
それは「体の姿勢」です。投げるという動作は体をひねる、回すという動きが特に重要なため、真っ直ぐ立って体の軸をしっかりさせなければ良いボールは投げられません。
軸が真っ直ぐであれば、肩の可動域は広くなって腕が上がりますし、踏み出す足も真っ直ぐに出していける。これが猫背になっていたり、腰が曲がった状態であったりするとそうはならない。
実際に試してみればよくわかります。背中を真っ直ぐに伸ばしたときと、猫背のときでは上げられる腕の高さが全然、違います。肩、腕を大きく使えれば、それだけ力を発揮しやすくなり、強いボール、遠くまで投げられるようになります。腕が上がらない状態でボールを投げるというのは、体への負担を大きくして故障にも繋がることも理解してほしいですね。
また、体の軸が曲がっていれば、その後の回転運動が難しくなり、ボールの制球も困難になります。コントロールを良くしたいときも、まずは姿勢を正す。その簡単な方法としては左右の肩甲骨を背骨に近づけるようなイメージで中に寄せるというものがあります。それから骨盤を少し立ててやるのも良いですね。
そして大切なのは、これらを日常から意識しておくということ。野球のときだけ姿勢を良くしようとしても、すぐに疲れてしまって続きません。普段、背中を丸めて椅子に座っていてはなかなか直りません。歩いているときもそうです。胸を張って、肩甲骨を中側に閉じることを心掛ける。一気に改善させようとするのではなく、習慣として残るように無理なく取り組んでほしいですね。
「軸」を確認し、自分のベストを見つけよう
体の軸を確認する作業としておすすめしたいのは、右投げなら左足を上げて「軸足だけで立ったときに2秒数える」ということ。
その間に軸を真っ直ぐに整える。加えて各部位の力がバラバラにならずに投げる方向だけに働くように一旦、落ち着けるようにして、下半身から上半身へと力を連動させることを意識するのです。
また、こうすると体を大きく使って投げやすいので、特にいつも体を小さくしか使わずに投げるキャッチャーや内野手は自分でも気づかないうちに段々と動きが小さくなってしまうものなので、それをリセットするつもりで体を大きく使って投げてみてください。
体の姿勢以外に投げ方でこうすべきというのは、軸足に乗せていた体重を踏み出した足にすべて移動して投げることくらいです。
投球動作を行う仁志 敏久氏
腕の位置や振り方というのは体の骨格も筋肉の質、量も個体差がありますから、こう投げれば大丈夫というものはありません。踏み出し方も必ずしも足から真っ直ぐ引いたラインの上に踏み出さなくてはならないというわけではありません。足のサイズくらいの幅に収まる軽いインステップ、アウトステップは特徴という解釈で良いと思います。いかに自分に合った投げ方をするかです。ですから、自分の投球フォームを探す、知る努力というのが必要になってきます。
アマチュア選手の場合、自分の姿はなかなか見ることがありません。そのため投げ方は特にそうですが、映像を撮ってもらって見てみると、「あれ、こんな形で投げているのか」と思うことが多い。映像や鏡などで自分のフォームをよく見て、プロの選手や他の人と比べたりしながらよく考えて、自分のベストを見つけてほしいと思います。
断定しては言えませんが、ボールの回転をチェックするのは良いフォームであるかを確認する1つの手段です。ちゃんとした握り方で、ボールに良い回転がかかっていれば投げ方も良い形になっている可能性が高い。
キャッチボール相手に見てもらったり、ボールの一部に色をつけたり、線を引いたりするとわかりやすいです。ボールに綺麗な回転を与えること、1回でも多く回転をさせることを意識するのもキャッチボールの1つポイントです。
「強肩」の定義
それから、僕が考える「強肩」の定義についてもお教えします。
野球における強肩とは、ボールを遠くに投げられるということではありません。「フォームを崩さずに40~50メートルの距離を強いボールで投げられる」のが強肩選手です。
キャッチボールで助走をつけて、山なりで少しでも遠くに投げようとする選手もいますが、試合の中ではそういう場面はほとんどありません。野球のフィールドの中というのは、今は広くても両翼100メートル程。それ以上、投げることは現実的にはないどころか、外野手でもカットマンを挟まずにバックホームするのは長くても定位置近辺です。山なりの送球は良いことがありません。先ほど話した体を大きく使って投げる、であったり、指のかかりを意識して、といった目的があるのなら良いですが、ただ山なりの遠投をすることで強肩になろうというのは間違った考え方です。
ある程度離れた距離で、綺麗な回転で、低く、強いボールを投げる。そういうキャッチボールをしておいた方が、試合の中では「強肩」になれるのです。キャッチボールでの距離も40、50メートルで十分と言えます。
「意味のある」キャッチボールの流れ
ここからは応用です。主に内野手向けですが、クイックで投げる練習もキャッチボールで行うのが良いと思います。どのチームでも取り入れていることでしょうが、意識する箇所が違うように感じるので、触れておきます。
見ていると、グラブや上体を速く動かそうという選手が多いのですが、大事なのは「足を踏み込むタイミングで捕球する」ということです。
しっかりと強く送球したいときは左足、近い距離でさらに素早く投げたいときは右足を踏み込むタイミングでボールを捕ると、早く持ち替えられてすぐに投げられます。これはゴロの場合でも同じですから、キャッチボールで踏み込むタイミングで捕るということを覚えると良いです。コツとしてはグラブで捕るというより、足で捕るというイメージを持つことです。
多くの選手がおそらく子供の頃からボールはグラブで捕ると教えられてきて、そのことばかり意識してきたと思います。しかし、プロの選手はグラブへの意識はまったくなく、グラブもあまり動きません。アマチュア、特に高校生くらいの選手だと大きく動かすので持ち替えが遅くなってしまうのですが、足で捕ることで向上します。
グラブトスを行う仁志 敏久氏
あとはスナップスロー。僕はアマチュア時代、右足をポンと着いたタイミングで捕って、そのまま頭を落として下からサッと投げるという練習をしていました。ちゃんと右足1本で真っ直ぐ立てないと、体を低くしたときに足が曲がってお尻が落ちてスナップスローにならなくなってしまうので、そこは注意してください。お尻の筋肉で支えながら頭を下げていって手首で投げる。スナップスローの動きを体に馴染ませるのには良い方法だと思います。
スナップスローと合わせてキャッチボールの終わりに組み入れてもいいのがグラブトス。通常の捕球、トスするときなど状況に応じてグラブの受ける箇所が変わるので、それを意識することと、ポケットに入る瞬間に神経を集中させる。そうすることでボールを掴む感覚が良くなります。
流れとしてはキャッチボールを始めて強いボールを投げられるようになったら距離を離して、それから戻ってきてクイック、スナップスロー、グラブトスというのが良いと思います。
基礎を身につけるのはもちろん、1球、1球、意味のあるキャッチボールをしてほしいですね。
(文・鷲崎 文彦)