スペシャリストになろう
この時期になると「もうあいつがレギュラーだな」とチーム内でも諦めモードになることでしょう。誰でも試合に出場したいと考えますが、野球でグラウンドに立てるのは9人です。
試合の中で交代があるので、地域によっては18、もしくは20名の選手が背番号をもらえます。ライバルに対して「自分のほうが上だ」と思っても、評価するのは監督です。
ここで、このコラムを読んでいるのは選手だけじゃなく、監督指導者も読んでいると思うので夏に向けて私の考え方を書きましょう。
チームの中で「この選手はうまい」という選手がいて、固定して使う指導者はたくさんいます。少し調子を崩しても「能力が高いから」という理由で、固定して選手を使い続けます。使われる選手は、どんなに調子が悪くてもミスをしても試合に使ってくれるので「出場しているのが当たり前」の感覚になります。
軽率な動き、簡単なミス……
特別扱いをすると能力ある選手もスキのあるプレーを連発します。伸びていく能力ある選手も三年生になって「あれ、意外に伸びなかったな」となります。特別扱いされずに試合に使ってくれない選手たちは「どうせダメなんだ」と意識が常に低い状態になります。
頑張ればうまくなるのに、可能性がないと思えば努力もしなくなることでしょう。特別扱いは、チーム力を下げて、選手の動きを全体的に悪くしていくのです。固定して使っているので、主力が怪我をした場合は控え選手が最高の準備をしていないのでガクッとチーム力が落ちます。
調子を崩した主力をいよいよ外そうとしても、控えとの差が大きいので「調子の悪い主力」に頼るしかないのです。これでは勝てる試合も苦しくなります。
私の選手起用は、「調子の良い選手を常に使う」ということを徹底して行います。過去の経験や活躍は過去であり、大事なのは今なのです。よって、前の大会で大活躍した選手でも、チームの流れに乗り切れない選手は試合には出られません。
今、調子の良い選手。前の大会で背番号すらもらえなかった選手がスタメンに起用されます。この「良い状態の選手を使う」ということを徹底すると、能力ある選手はうかうかしてられないので、意識の高い練習をしていきます。能力がさほどない選手も調子が良かったら使ってくれる（可能性はある）ので、意識高く努力をしていくことでしょう。
結果的にチーム力が上がり勝てるチームへと近づいていきます。本来競争とは、同じ条件下で行われるべきで特別扱いはチーム力低下に繋がっていきます。
さて、私のやり方は別として、大抵は選手を固定して使っているイケてない指導者が多く存在します。このコラムを見ている中にも「うちの監督のことだな」と嘆いている選手もいるはずです。しかしながら、嘆いていても背番号が手に入るわけじゃありません。
[page_breakベンチに入るために必要な要素とは]ベンチに入るために必要な要素とは
レギュラー選手でない原因は様々だと思いますが、「走れない」「守れない」「打てない」「球が遅い」などの監督が使おうと思えない理由があると思います。欠点を埋めようとしても時間の問題があります。本番までもう少しの今、欠点を埋めたとしても平均でしかありません。
今自分が持っている強み（長所）をどんどん全面に出していくことが重要になっていきます。
自己申告で戦術を記録係に告げる選手（大手前）
先発で出場する選手が決まっていたとしても、途中出場するためには「●●のスペシャリスト」になれば可能性は出てきます。
・守備は平均以下だけど、盗塁はスペシャリスト！
・右打者には打たれるけど、左打者にはめっぽう強い！
・打てないし足も遅いけど、守備は堅実！
強みを指導者に知ってもらえれば、その場面になれば出場機会を与えられるかもしれません。大事なのは「必要とされる選手となる」ということです。
バランスより、その道のスペシャリスト！
ということは、今している練習も、左打者に対して成果を出せる投手になるためには、ブルペンで左打者ばかりを立たせて練習するべきです。引っ張り打者に強くなる投手になるためには、引っ張り打者に対する配球だけを練習するべきです。バランスという考え方は捨てたほうがいいのです。
走者を置いた実戦練習でどう攻めていくのかを追求（向上）
対象方法の一例として引っ張り打者に対して投手が「どうするのか」を書きましょう。
引っ張り打者は、簡単に言えばドアスイングです。外から内側に巻き込んで振るようなスイングの軌道です。インコース甘めから真ん中付近（アウトコースの高めも少し甘ければヒットゾーン）が強いので、基本的にはインコースの厳しい球と、逃げ球（身体から遠ざかる変化球）が有効です。
噛み合わない球でファールが取れるので、引っ張りの右打者に左投手が対戦した時には、身体の近くに曲がっていく変化球がファールになりやすい。
もちろん甘くなったら一発長打はありますが、打てそうでファールになる「噛み合わない球」でカウントを稼ぐというのは、打ち取る方法のひとつです。
球が遅くても「使い方（配球）」でアウトにできるのがエントモ流弱者の戦いです。徹底して「●●のタイプには強い」という投手を目指して特化した練習をするべきです。
守れない打てない選手が「走塁で」と思うならば、巨人の鈴木選手みたいに代走で確実に盗塁を決められる選手になるべきです。
控えに回っている試合でも相手投手を観察して、癖をみつけて一発勝負（盗塁）の仕掛け所を研究するのです。
スタートも、ノーマルスタートだけじゃなく、ギャンブルスタート（投手が動く0.5秒前にスタートする盗塁）やディレードスチールなどレアなパターンの盗塁を磨いていきます。足が早くなくても「うまさ」で盗塁は可能になります。足のスペシャリストになれば背番号をもらうチャンスも出てきます。
右投手に対してはまったく打てないけど、左投手には抜群に強い・・などなど、自分の長所を短期間で意識して磨き上げていきます。こういった自分の特徴はストレートに監督に伝え、練習のときでも部分的にアピールしていきます。
「●●の場面ではお前に頼む！」
これが必要とされる選手です。バランスでは主力選手に負ける。最初からスタメンで出る力はなくても、大事な場面で活躍できる選手になればチームに対しても貢献できます。
チームのレベルをワンランク上げるためには、指導者がこういった「職人」を作るべきです。特徴ある選手がいるチームは、臨機応変に戦うことができます。また、全員が「やってやる」という高い意識を持っていれば、トーナメントで何度も訪れるピンチを乗り切れることでしょう。
今からでも遅くありません。固定して使うことなく、スペシャリスト育成を考えながら残されている練習試合を戦うことをおすすめします。
高校野球は、「最後までやりきる」ことが大切です。たとえ背番号がもらえなくても、最後まで自分の技量を高める努力をしつつ、役割としてのチームサポートをしていくことです。
最後までやり抜くことが、次の世界に飛び込んでも大きな自信となり【次の成功】に繋がっていきます。
最高の夏になるように、このコラムを見ている指導者＆選手には、最高の準備をして欲しいと思います。
（文＝遠藤 友彦）
