イチローを支える3つの頼れる『自分の力』
イチローを支える3つの頼れる『自分の力』2012年08月27日
7月23日、イチロー外野手がヤンキースへ電撃移籍した。イチロー自身も言う『一番勝ってないチームから、一番勝っているチーム』へのトレードである。
日米の多くのファンに衝撃を与えたこの移籍劇からイチローの持つ3つの頼れる『自分の力』を探ってみる。
第一の力 『CSバランス』
第一にイチローは、『CSバランス』を取ることにたけている。スポーツでピークパフォーマンスを出す際に多くの選手が経験するプレーに集中して時間すら忘れてしまうのをフロー状態と呼ぶ。
CSバランスとはそのフローが生じるのに最も重要な条件である。Cはチャレンジであり、Sは自分が持っているスキル(能力)のことであり、そのバランスが適切に取れている状態を作れるとフロー状態に入れる。
下の図で説明すると、(A)の段階ではまだ自身の持つ能力に対して挑戦課題が高すぎるので不安感を覚える。しかし練習を続けるとうまくその課題をこなせる状態(A1)になり、プレーに没頭でき楽しくなる。しかし、その課題を変えないと能力は上がってくるので練習がつまらなくなってしまう。そこで、課題のレベルを上げると(B)のまた不安な状態がやってくるが、今度は適切なレベルに課題を設定すればいつか克服できるとわかっている。そして、練習をして、また(B1)のフロー状態に入っていく。それは、“やればできる”という自信にもつながっていく。
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(参照・Csikszentmihalyi, M. (1975). Beyond boredom and anxiety: Experiencing flow in work and play, San Francisco: Jossey-Bass)
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イチローはこの自分の能力に見合った適切な課題を作り出すのがとても上手なのであろう。そして、イチローは今CSバランスをかつてのような個人の成績ではなくチームの結果に求めているのではないか。そして、リーダーとしてチームをチャンピオンにするという挑戦をする選択をしたのだ。
しかし、いくらイチローといえども銀河系軍団のヤンキース、しかも厳しいニューヨークのメディアやファンのもとでプレーすることに不安はなかったのだろうか。
第二の力 『自分スイッチ』
2つ目のイチローの頼れる『自分の力』は『自分スイッチ』である。イチローは、環境や他人の影響を受けずに自分の心にスイッチを入れ、どのような状況でも“一生懸命、楽しく”出来るのである。イチローの言葉で言うと『結果による自信ではありません。そこに至るまでの自分の在り方に自信を持つことが出来た』のである。
イチローにとっては今回のヤンキースへの移籍もチームメイトやマスコミなどの外的要因で判断を揺らがすことなく、今の自分にとっての挑戦とは何かを的確に決断する。移籍後もたとえ試合に出ないことがあったとしてもチームをワールドシリーズに牽引すべく、自分で自分にスイッチを入れいつも自分らしくいられるのである。だから、『(外的要因による)怖い物はなかなか出てこない』のである。
第三の力 『感謝する力』
▲日々使うグラブにも感謝を。
最後の頼れる力は『感謝する力』である。イチローの移籍会見は『まずはファンの皆さんに感謝の思いをお伝えしたいと思います』で始まり、一体いくつの感謝を伝える言葉が出てきたことか。感謝する力もセンスが必要である。そしてセンスは意識することで磨かれる。
普段からイチローはバットを握り、グラブを手にしてそれを作った職人に感謝しエネルギーを湧き立たせる。球場に足を運んでくれたファンを見て感謝し、いいグランドコンディションを作ってくれたキーパーに感謝する。そして、そのすべてを自分の戦うエネルギーに変えているのだ。
そのイチローの感謝の想いに対して、ファンもスタンディングオベレーションで答え、イチローの「僕はこの11年半のマリナーズでの経験を誇りに思い、胸に秘めてこの先、前進していきたい」という想いにつながっていく。
(文・布施努)