プロから学ぶ! 宮崎キャンプに潜入!
宮崎県でも行われたプロ野球のキャンプ取材。実際に足を運んで見に行くことができる球児も、まだプロのキャンプを見にいった経験がない球児にも、ぜひ読んで欲しい「キャンプレポート」!今回は高校野球のライター陣が、プロのキャンプ地で発見したことを綴って(つづって)くれました。プロのキャンプ練習や雰囲気、取り組みから、高校球児が参考になるヒントとは?今回はドットコムでもお馴染みのライター陣、氏原英明氏、加来慶祐氏によるレポートをお届けします!
キャンプレポート 「1年を戦うための形を作る」
“プロのキャンプを取材してきました!”
毎年2月1日が正月のようなものだ。
「謹賀球春」
プロ野球12球団が一斉にキャンプインする、まさにその日。例年、沖縄や宮崎の各キャンプ地を巡り、注目選手などの取材を行なうのが個人的な野球シーズンの開幕となる。
今年は昨年の日本一球団、福岡ソフトバンクをはじめ、大型補強で巻き返しを図る読売ジャイアンツを中心に取材するため宮崎へ。今季の台頭が期待される選手や移籍、復帰で新しいユニフォームの袖を通した野球人たちの現在に触れてきたというわけである。
毎年のキャンプ取材で感じることは、プロ野球はとにかく「反復練習」だ。それはすでにスターの地位を確立している選手や、誰もが名前を知っているベテラン選手であっても変わらない。基本に立ち返るのだ。
まずは1年を戦っていくための“形”を作っていくのが春季キャンプ。打者ならティー、ロングティーでひたすら振り込み、オフの自主トレから作ってきた血豆を何度も潰していく。選手個人の打撃は年々、極端な言い方をすれば日々進化していくものなのだ。その日その時で刻々と変わっていく感覚を逃がさないためにも、とにかく振るしかない。
超一流ほど基本はブレない
“横浜DeNAベイスターズ2グンキャンプ地”
面白いのがサブグラウンドだ。選手がひとり、担当コーチとともに立っている。広大なスペースをわずか数人で使い、ひたすら捕球体勢、送球体勢の形をネットスローで作っているのだ。コーチが転がす簡単なゴロ取りのように見えるが、少人数で代わりがいないため、プロ野球選手と言えどもヘロヘロ状態である。
捕手でいえば、「フライを追う際、どのタイミングでマスクを投げるのか」というようなことを練習している。タッチアップの偽装スタートにまつわる走者やカットマンの動きなど、試合中に起こりうること細かなシチュエーションに備えた練習も抜かりはない。
もちろん、守備時のサインプレーなど企業秘密的な練習は我々もシャットアウトされるが……。
高卒新人の多くは基本どおりのプレーを体現するための体力が備わっていないため、ランやサーキットトレーニングでひたすら体力強化に取り組む。しかし、何よりもまずは基本(形)だ。キャンプ前半に新入団選手のケアのために帯同していた、あるスカウトがこんなことを言っていた。
「もともと運動能力の高い選手たちがドラフトで指名され入団しているのだから、あとは“形”をしっかり作っていくだけです」
基本ができて、初めて応用に進むことができる。中学生や高校生など若年層には、この順番を履き違えている選手が多い。捕球、送球といったプレーにとくに目立つが、基本の形ができていないのに“見た目上の形”を意識して、一足飛びにレベルの高いプレーを求めようとする。前出のスカウトが言う。
「数字を数えるのと一緒。1がないのに、2、3と先には進めないでしょ。だったらまずは、確実に1へとしっかりと進むこと。何年もプロの第一線でやっていようと、ゼロに立ち返り、最初の一歩を踏み出そうとするのが春季キャンプなんですよ」
相手の胸をめがけて投げる。打球の正面に入る。そして、振る。走る。超一流ほど基本はブレない。汗まみれの反復練習を見ながら、今年も球春到来に酔いしれるのだった。
(文=加来 慶祐)
キャンプレポート 各球団の雰囲気の違いとは?
“広島カープを応援するのぼり”
ある高校の監督がこんな話をしていたことがある。
「小学校から社会人やプロまで、どこの野球を見ても、そんなにやっていることって変わらないんですよね。違いがあるとしたら、考え方だと思う」
つまり、「意識」と言った方が良いのかもしれない。色の違いはあるにせよ、プロ野球の各球団がやっていることに大小はない。取材で受け付けを済ませると、その日の練習メニューが報道陣に配られるが、どの球団も似たり寄ったりだ。早出で練習をする選手が決められていて、ひと足早く練習をし、普通どおりの時間に出てきた選手たちはダラダラとアップを開始する。
ダラダラと言っても、悪い意味ではなく、選手たちは自分の身体と自問自答をしながら身体を動かしているから、そう映るだけのものだ。高校野球の監督が見たなら、「ダラダラやってんじゃねー」という罵声でも飛んできそうだが、この意識があるかどうか、非常に重要なのだ。
その中で、各球団で違いがあるとすれば、練習の空気ではないだろうか。今回はセリーグの数球団を回ったが、そのうちのひとつ、中日の練習ではあまり声を出す選手はいない。コーチも同じだ。黙々とノックを打ち、選手も黙々と受ける。最低限の声は出すが、必要以上の声がない。だが、これは練習に活気がないのではない。ノックに専念しているから声を出す必要がないのだ。
高校の練習でも同じだが、ノックをして、エラーをしたとすると、周りから叱りの声や罵声が響かせる光景をよく見かける。実は、これをしてしまうと、そのミスが終わってしまうのだ。なぜなら、どうして捕れなかったのか、どうしたら捕れるようになるのかと、考えた先に上達が見えてくるからだ。
しかし、高校野球の指導者の多くはそうしない。怒声を響かせることで、選手たちに考える時間を奪い取ってしまうということに、気づいていないのだ。「コラー」と指導者が怒り、選手は帽子をとって「すいません」と直立不動を決める。そこに精神的な成長はあっても、技術的な成長はない。
中日ドラゴンズの強さの理由を垣間見る
“中日ドラゴンズの一風変わった練習とは”
実は、プロでも、こういう違いがある。中日の練習には声が少ない。つまり、ノッカーの余分な罵声が少なく、練習に打ち込む空気が如実に出ている。この環境が中日をセ・リーグ連覇に導いた一因なのだろう。
「予想外やったよ」そう言ったのは、偶然、サブグラウンドで出くわした中日のあるスカウトだ。遊撃手・吉川大幾をアマ時代に担当し、その様子を見に来たそうだが、スカウトが予想外と言ったのは、吉川の守備力向上だった。
「バッティングはまだまだやけど、守備があんなに上手くなるとはな…。監督は変わったけど、今年も、選手たちはよう練習しとる。これは、落合さんが作った大きな財産やろな」。
落合博満前監督が作った財産――。それは黙々と練習に打ち込むことを当たり前としたことだ。中日の選手たちは、決められたメニューでも自発的に行動している。周囲からの過剰な罵声がなく、選手らは自身と向き合い、黙々と練習に打ち込んでいるのだ。
「勝ててないチームは、練習しとらんやろ?そう思わんか?」とスカウトに水を向けられたが、全くその通りだ。
ただ、それは中日以外のチームが練習をしていないのではない。意識に違いがあるだけなのだ。
いかに、選手たちが黙々と考えて練習に打ち込ませることができるかどうか。いかにして、自身と向き合わせるかどうか。そうなった時、精神的・技術的成長が見られるというわけだ。それは、プロに限らず、今の野球界に求められていることなのかもしれない。罵声や怒声が行きかっていると、周りで見ている方には活気があるように思えるが、実は逆効果なのだ。セ・リーグ連覇の中日のキャンプで学んだ一幕である。
広島キャンプで目を引いたのは投手陣のピッチング練習だ。
キャンプはと言うと、ピッチャーが多くの投げ込みをしている光景が目に浮かぶが、この球団は強制力が少ない。例えば、練習を見学した日は、エースの前田健太や新人の野村祐輔、7年目の斎藤悠揆がピッチング練習を行ったが、長時間、斎藤がブルペンにいたのに対し、前田健や野村はそそくさとブルペンを去って行った。
自主トレからキャンプまでの報道だと、やれ「何球を投げた」だの紙面に躍るが、実際、あの報道に何の意味もない。多くの球数を投げればいいというわけではないし、投げることにだけ価値を見出すのは、すごく無責任なことだ。ピッチャーがどこに価値をおき、どういう姿勢で取り組んでいるか、そこに意味はある。
そういった観点でいえば、広島のキャンプには投手陣の意思が尊重されたものだった。エースとはいえ、まだ6年目の前田健や新人の野村が40球程度でピッチングを終えるのだ。こういう意識こそ、あるいは、それをよしとした環境こそ、大切なのではないのか。
「夏の大会で、体力をつけるために、投げ込みを200球行っている」という高校野球に指導者をみかけるが、選手が意思を持たずに、やらされた時点で、それは積み重ねにはならない。いかにして、意識をもって取り組むか。広島のキャンプはそのことを伝えていた。
「僕は多くの投げ込みをする意味が分からないですね。投げ込んで良くなるのなら、どんどん投げ込みますけど、絶対にそうはなりませんから」
広島のある投手が以前に言っていた言葉である。