投球前のウォームアップ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
少しずつ日中の時間も長くなり、寒いながらも皆さんそれぞれのチームで練習に励んでいることと思います。シーズン間近とはいえ、まだまだ外気温が低いため、ウォームアップ不足は思わぬケガをもたらすことがあります。そこで今回はウォームアップの確認と、特に投球前にどのような準備をすればいいかについてお話をしたいと思います。
ウォームアップの目的と流れ
投球障害予防のためにも投球前の準備は入念に行おう
メイン練習に入る前に必ず行うウォームアップ。文字どおり体を温め、より良いプレーが発揮できるようにすることと、思わぬケガを防ぐことを目的としています。ウォームアップを行うと体にはどのような変化が見られるのかを再確認しておきましょう。
1)体温・筋温が上昇し、筋肉や腱などの柔軟性を高めて、関節可動域(関節の動く範囲)の増大につながる
2)神経の伝達能力が高まり、目や耳といった感覚器からの情報をすばやく動作につなげられるようになる
3)心拍数と呼吸数が少しずつ増えることで、心臓や血管など循環器系への急激な負担を避ける
4)メンタル面の準備として精神的なゆとりを持つことができる
一般的なウォームアップの流れとしてはまず軽く体を温めるためにジョギングなどを行い、そこからストレッチで筋肉や腱などの軟部組織を伸ばしつつ、関節の可動域を広げるようにしていきます。そのときに今日の自分の状態をしっかりチェックするようにしましょう。「今日は昨日と比べて体が硬いな」とか「右は動きやすいけど左は動かしにくい」といった小さな変化を見逃さないようにし、必要に応じてストレッチやエクササイズを追加しながら状態を観察します。その後、ランニングドリル、体のキレを意識したダッシュなどを行い、キャッチボールや全体練習へと移行します。
投球前に必要なコンディショニングとは
特にピッチングなどである程度球数を投げる場合を想定してみると、一般的なウォームアップに加えて、投球動作をスムーズに、再現性を高くできるような準備をすることが必要となってきます。それぞれの筋肉の柔軟性を高めることはもちろん大切ですが、その他にも下肢から上肢にかけて力の伝達に必要な股関節周辺部の柔軟性、胸郭を含めた体幹部の安定性とひねり動作に必要な柔軟性、肩関節を支える腱板筋群(いわゆる肩のインナーマッスル)の安定性などが必要となってきます。必要なものは個人によっても変わりますが、全体のウォームアップでその日のコンディションを確認し、投球の準備として行うようにしましょう。
[page_break:投球前のコンディショニング]投球前のコンディショニング
胸郭の動きをスムーズにするためにもひねりを加えたストレッチを行おう
《股関節の柔軟性を高める》
投球動作は軸足から踏み込み足へという一歩の移動によって、力を下肢から上肢に伝達し、最終的にボールに伝える動作です。そのため股関節が十分な可動域を持ち、かつ内旋や外旋といった動作がスムーズに行えるように準備していきましょう。ウォームアップの中でもできるエクササイズとしてはフロントランジやサイドランジなどがあります。フロントランジでは、踏み込んだ前足は十分に股関節を屈曲させられるように体重を乗せ、後ろ足は太ももの付け根にある腸腰筋をストレッチするようにします。サイドランジでは膝と足先を同じ方向に向けながら、太もも内側にある内転筋などをより意識して伸ばすようにしましょう。また股関節のスムーズな動きにはお尻部分の筋肉の柔軟性も必須です。寝転がって膝を抱えたり、逆4の字に足を曲げてお尻を伸ばすストレッチもオススメです(参考ページ:股関節の硬さを克服しよう)。
《胸郭の動きを改善する》
ひねり動作に必要不可欠な胸郭の動きもチェックしてみましょう。ウォームアップでよく行われるキャリオカは、胸郭の動きを高めるために欠かせないエクササイズの一つです。上半身はしっかりと正面を向いた上で、下半身をひねって足の入れ替えを行います。上半身と下半身の動きが骨盤を境に分断されることで、胸椎の回旋動作を引き出し、スムーズな動きをつくり出します。股関節を大きく使って地面の反力を推進力につなげる一連の動作は胸郭だけではなく股関節の柔軟性にも貢献します。また四つんばいになって片手を頭の上に置き、そこから肘を上に挙げて体幹をひねる胸郭のストレッチもぜひ行いましょう(参考ページ:野球のプレーに欠かせない回旋動作を担う胸郭の働き
)。
《肩甲骨帯の動きと腱板筋群エクササイズ》
投球動作は肩関節、肘関節に繰り返し外的ストレスがかかる状態です。なるべく肩や肘に負担をかけないためにも投球前に肩甲骨の動きを意識したエクササイズを行っておきましょう。肩甲骨を引き寄せる、ひろげるといったエクササイズはチューブを使うと意識しやすく、何も持たない状態でもできる簡単なエクササイズです。また投球動作はつねに投げ下ろす動作を伴うため、肩の前側が縮み、肩の後ろ側が引き伸ばされます。こうした体の使い方を考慮して背中側の筋肉をつかった引く動作をチューブなどで行うことも肩関節への負担を軽減させることに役立ちます。また関節を安定させる役割を持つ腱板筋群はチューブトレーニングが一般的ですが、500mlのペットボトルで代用したり、ボールや負荷なしで行うエクササイズなどもありますので、投球前後のコンディショニングとしてぜひ取り入れてみてくださいね(参考動画:自宅で出来る!簡単ストレッチ&セルフコンディショニング VOL.1) 。
【投球前のウォームアップ】
●投球動作を繰り返してもケガにつながらないように準備をすることが大切
●全体のウォームアップでは筋温を上げて柔軟性、関節可動域を高めよう
●股関節の柔軟性を意識してランジ動作や足のスイングなど行う
●ひねり動作につながる胸郭の動きをキャリオカやストレッチなどで高めよう
●肩甲骨の動きを意識したエクササイズを取り入れよう
●肩関節の安定性を高めるためには腱板筋群へのアプローチも大切
(文=西村 典子)