Column

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】

2021.08.03

 甲子園出場49校が決まった。夏になると、大会前には、圧倒的に優勝候補だと思わせる学校が出てくる。10年の興南、12年の大阪桐蔭、15年の東海大相模、18年の大阪桐蔭、19年の星稜。ただ今年は優勝候補筆頭と呼べるチームがいない。ただ、上手く噛み合えば、優勝候補になるチームが10校ある。そんな学校と理由を紹介したい。まず前編では5校を紹介したい。

優勝チームは今年のセンバツ決勝進出した東海大相模、明豊と似たチーム

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
小畠一心(智辯学園)、池田陵真(大阪桐蔭)、幸修也(明豊)、中西聖輝(智辯和歌山)、田村俊介(愛工大名電)

 今春センバツの決勝戦、東海大相模vs明豊は、令和を象徴するようなゲームだった。複数投手を敷いて、守りを中心に固める。少ないチャンスをモノにして、接戦を制する両校の戦いぶりは令和のチーム作りの模範を示していた。

 かつて夏勝ち上がるには打てないと勝てないといわれた。今は「打撃」「守備」「走塁」「投手」「メンタル」戦術の5要素が揃わないと勝てない時代となった。少しでもミスすれば、試合を落としてしまうほど夏の戦いは怖い。

 また酷暑の甲子園。投手1人で勝てるほど甘くない。その意味での強いチームとは、どんな場面、ロースコア、どんな相手にも複数投手を使えるチームを指す。点差がつかないと他の投手を起用できないチームは複数投手制を使えているとはいえない。

 球数制限、戦術の多様化により、1人のスターピッチャーで頂点まで勝ち上がれる時代ではなくなった。この夏もきめ細かく、メンタルが強い学校が優勝するのではないだろうか。

[page_break:大阪桐蔭が優勝候補筆頭とはいえない理由]

大阪桐蔭が優勝候補筆頭とはいえない理由

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
池田陵真(大阪桐蔭)

 この世代がスタートした時から大阪桐蔭を優勝候補に挙げる声が多かった。センバツ初戦敗退を喫し、激戦区の大阪大会を勝ち上がってきた粘り強さは特筆すべきものがある。

 まず戦力的には、剛腕左腕・松浦慶斗に復活の兆しが見え、制球力が高い竹中、伸び盛りの速球派右腕・川原、別所。この4人だけでも、出場校トップクラスのものがある。あとは関戸康介の復活を待ち望むだけだ。

 打線も驚異的な勝負強さを持つ主将・池田陵真、強く振ることで長打力アップ、送球時のステップを改善して超強肩となった4番・花田旭、勝負強いだけではなく、チーム打撃もしっかりできる左のスラッガー・前田健伸、伸び盛りの強肩捕手・松尾汐恩、盗塁もできて、長打力もあるスイッチヒッター&ショートストップ・藤原夏暉、積極的な打撃で切り開く二塁手・繁永晟、超俊足の外野手・野間翔一郎、調子を取り戻せばクリーンナップも期待できる宮下隼輔は球際も強く、強肩を誇る三塁守備も光る。

 打線は狙い球を絞り、好投手に対してもしっかりと安打を重ね、確実に進塁し、スクイズや犠牲フライで着実で点を取る。1点に対するこだわりも強く、雑な攻撃には感じない。

 こうして並べると優勝候補筆頭と思うかも知れないが、これほどの戦力でも、準々決勝の金光大阪戦では8回まで大苦戦、準決勝の関大北陽戦では8回裏に勝ち越され、延長14回裏にも2点差に迫られた。決勝戦の興国戦では3点を先制しながらも9回表に、同点に追いつかれた。

 中押し、ダメ押しがあれば、もっと楽に勝てるだろうなと思う試合がいくつかあった。準決勝、決勝を見ると、守備面でもやや不安を覚える。隙は感じられ、この傾向が続くと、優勝候補には挙げられるが筆頭とはいえない。

 ただ2019年の履正社のように、甲子園に入って内容が大幅改善されるケースもあるので、それができれば、優勝候補筆頭に挙がるかもしれない。

 西谷監督は苦しい試合に勝ったほうが糧になると話した。甲子園では大阪大会と比べても進化したな、準々決勝からの3試合が糧になっているなと思う試合運びを期待したい。

[page_break:苦しみを乗り越えてワンランクレベルアップした明豊]

苦しみを乗り越えてワンランクレベルアップした明豊

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
幸修也(明豊)

 センバツ準優勝の明豊の評価が非常に高い。まず投手ではセンバツで不調に終わったが、直球の球速&球威が改善し、攻めの幅が広がり、決勝の大分舞鶴戦で完封したエース・京本眞、右サイドから140キロ前後の速球、切れのあるスライダーを投げ込み、奥行きのある投球ができるようになった財原光優、伸びのある速球を投げ、安定感抜群の投球を見せる左腕・太田虎次朗と層が厚い。

 この3人の他にもう1人、勝負できる投手がいればいいなと思った展開で、1年生右腕の森山塁が出てきた。躍動感あるフォームから140キロ中盤の速球を投げ込み、その勢いは京本にひけを取らない。心強い投手が入ってきた。

 さらに打線は、堅守で、勝負強く、ここぞという1本が期待できる主将・幸修也、高い打撃技術を誇る黒木日向米田友、攻守で著しく成長を見せた大型捕手・簑原英明と、センバツを経験した野手も土壇場でも力を発揮できるメンタルの強さがある。

 そんな明豊も九州大会準々決勝敗退、その後も苦しい試合が多かったが、そこから立て直して、総合力が高いチームへ成長した。

智辯学園も安定感が高い

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
小畠一心(智辯学園)

 選抜ベスト8の智辯学園も期待できる。不調に終わったが、左腕エース・西村王雅は切れのある速球とスライダーを投げ分け、投球を展開。エース・小畠一心も、好調時は140キロ中盤の速球を投げ込むが、奈良大会では130キロ後半ながらもスライダー、フォークを器用に投げ分け、負けない投球ができるようになった。

 この2人に、2年生の長身左腕・藤本 竣介が台頭したのが大きい。130キロ前半の速球に、サイド特有の曲がりが大きいスライダーで翻弄する。手札が増えたのは大きい。

 打線は「つなぎ」を意識して、全国トップクラスの強力打線から、さらに怖い存在となった。高校通算35本塁打のスラッガー・前川右京は本塁打0本に終わったものの、1番打者として出塁することを意識し、打率.643を残した。

 2番・谷口綜大は対応力が高く、体勢を崩されてもヒットにできる打撃技術があり、攻守充実のショートストップ・岡島光星、勝負強さは天下一品の右のスラッガー・山下陽輔、捕手ながら走攻守三拍子揃う植垣 洸、打撃技術はチーム内トップクラスの三垣 飛馬、強肩センター・森田空、堅守のセカンド・竹村日向とスタメン野手全員が嫌らしいのだ。

 それぞれの選手が勝つためにはどんな打撃をすればいいのか、その状況を理解できるようになったのは大きい。

 投手力が高い大阪桐蔭明豊と比べると若干失点は多くなりそうだが、それを補うほどの攻撃力の高さがある。

[page_break:戦術の幅が広い智辯和歌山]

戦術の幅が広い智辯和歌山

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
中西聖輝(智辯和歌山)

 智辯和歌山といえば、強打と継投策を駆使する大型チームという印象だったが、今の智辯和歌山はさらに奥行きが出てきた印象だ。これは元プロの中谷仁監督の手腕が非常に大きい。

 エース・中西聖輝はリリーフ時に140キロ後半の速球、切れ味抜群のスライダーで圧倒する剛腕。決勝戦で好投した伊藤大稀も140キロ前半の速球(最速147キロ)、切れのあるスライダーで勝負する右腕、2年生ながら140キロ台をマークする右腕・塩路柊季、やや変則的なフォームで打たせて取る投球が長ける左腕・高橋 令と投手陣の層の厚さは全国トップクラスを誇る。

 また打線はこの1年、小園健太市立和歌山)を攻略するために練習してきたため、対応力も高い。ドラフト候補に挙がるスラッガー・徳丸天晴が注目されがちだが、好打者で走塁技術も高い大仲勝海、バットコントロールが長けた左打者・宮坂厚希、守備力が高く、勝負強い打撃を見せる高嶋奨哉、来年のドラフト候補として期待されるスラッガー・岡西佑弥渡部海と怖い打線だ。

私学4強のライバルをすべて倒した愛工大名電

今年の甲子園で全国制覇を狙える10校は?優勝候補筆頭がいない理由と大会予想を徹底展望 【前編】 | 高校野球ドットコム
田村俊介(愛工大名電)

 今年の愛知は全国でも最もレベルが高いといわれた。その本命の1つである愛工大名電が大会を制した。その勝ち上がりぶりは文句なしだ。準々決勝で東邦、準決勝で中京大中京、決勝で享栄と私学4強のライバルをすべて倒しての優勝は見事としかいいようがない。

 投手陣では高校生離れした完成度を誇る右腕・寺嶋大希、140キロ後半の速球を投げ込む野嵜健太の右腕2人に、投打の柱・田村俊介がいる。

 投手・田村は140キロ前後の速球、切れの良い変化球で打たせて取る投球を見せる技巧派。打者としては高校生トップクラスの打撃技術で好投手からも打ち崩せる頼れる左打者で、そのほかには宮崎海有馬伽玖の主軸は長打力があり、遊撃手・伊藤基佑も抜群の守備力を誇り、ヒット性の打球を阻止する。

 戦術の幅も広く、粘り強い試合運びで勝ち上がることができる。

(文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.25

筑波大新入生に花巻東、國學院栃木、北陸の甲子園組! 進学校からも多数入部!

2024.04.25

【静岡】夏のシード16校が決定、聖隷クリストファー、常葉大菊川はノーシード<春季県大会>

2024.04.25

【春季四国大会逸材紹介・徳島編】阿南光にエース吉岡 暖を支える「もう1人のドラフト候補」 徳島商は春季大会チーム最多打点をあげた「恐怖の6番打者」

2024.04.25

【北海道】昨秋全道ベスト8・知内は八雲と初戦!<春季全道大会支部予選組み合わせ>

2024.04.25

捕手から最速152キロ右腕へ。村上泰斗(神戸弘陵)は“球界人気理論”を生かしたマエケン流フォームでドラフト候補へ急成長!<高校野球ドットコム注目選手ファイル・ コム注>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.21

【神奈川春季大会】慶応義塾が快勝でベスト8入り! 敗れた川崎総合科学も創部初シード権獲得で実りのある春に

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!