Column

日本一のキャッチボール

2010.04.15

技術ノート

日本一のキャッチボール 2010年04月16日

初めに

 全国には様々な工夫を凝らし、技術習得のために、取り組んでいる学校がある。すべての指導方法が、すべての選手たちの技術力向上につながるとは限らない中で、日々、試行錯誤を繰り返しているのである。
 ○○高校の練習がいいらしいぞ!▽▽高校は、最近、選手が伸びてるな、どんな練習をしているんだろう?

  しかし、だからといって、それを自チームに取り入れれば、すぐに上達するというのは大間違いであるし、また、その練習が適合しているか否かは、すぐに分かるものではない。なるべく多くの指導メソッドに触れあう中で、何が良いかは指導者本人が理解しなければいけない。

 ここでいう、『技術ノート』で紹介する練習はあくまでも、方法論の一つにすぎない。それをどのように解釈するかは読者次第であるということを忘れないでほしい。

 指導をするのは指導者。よその学校がやっていることの真似事ではいつまでも成果は現れない。いかに、指導者本人が会得するかにかかっていると思う。

日本一のキャッチボール 【取材高校:尽誠学園】

下山 優 監督(尽誠学園)

  尽誠学園が取り組んでいる一大テーマである。

  といっても、尽誠学園が、よほどレベルの高いキャッチボールをしているかというと、そういうわけではない。もちろん、低いわけでもないのだが、この言葉には深い意味が込められている。就任4年目になる下山優監督が力説する。

 「キャッチボールは野球の基本だという言葉の意味がどこにあるかということなのです。キャッチボールは相手の胸に投げなさいと教えられますが、なぜかっていうと、受ける側が次の行動に移りやすいからだと思うんです。

でも、これは完全に投げ手側の話ですよね。今度、受け手側の立ち場になって、来たボールが胸に来なかった時、どうするかと言ったら、自分が次のプレーをしやすいところに動いて捕りましょう、と。野球の中で振りかぶってボールを投げるのはピッチャーだけあって、野手は必ず、ボールを捕球してから送球という一連の動きが入ります。その動きをキャッチボールで大事にしていけば、すべてがつながってくるのではないかということなんです」

ゴロを捕ってから、ボールを投げるまでの動作。 
フライを捕ってからボールを投げるまでの動作。
送球を受けてからボールを投げる動作。

これらすべてがキャッチボールの基本である、『相手の胸へ投げなさい』というものからきているととらえている。だから、尽誠学園のキャッチボールでは、すべて、実際のグラウンドの中での動きを意識したキャッチボールを実践している。「相手にボールを投げる前に、実際の動きをイメージしてボールを捕球して投げなさいと選手たちには話します」と下山監督は言う。


 ただ、下山監督は、ボールを送球することにおいての細かな技術指導はしない。よほど極端に癖のある投げ方は例外として、「ひじを高く上げろ」などの技術的な話はしないのだ。言うことがあるとしたら、たった一つのことだけ。

「右投げの選手は右足に体重が乗らないと投げられない。左の選手は左足に体重が乗らないと投げられない。必ず、ボールを捕りに行くときは、右足、左足というリズム(右投手の場合)を作りなさいといいます。つまり、ボールを右足で捕りに行きましょう、と」。

 写真(1)〜(3)を見てもらうと、実に分かりやすい。 
ボールを取ろうとしている彼が、グラブにボールが入る瞬間、右足に体重を乗せているのが分かると思う。これが下山監督の言う「右足でボールを捕りに行く」ということなのだ。この時点で、ボールを投げるための動作が始まっているために、次の動作に移りやすく、これを、右足に体重を乗せないままにボールを捕球していると、ワンテンポ遅れてしまうのだ。

これはノーバウンド送球だけではなく、すべての捕球動作につながってくる。ゴロを受ける場合でも、右足に体重を乗せる意識があれば次に移りやすいし、そうした捕球をするという意識付けがあれば、捕球に対する丁寧さも養われるというものだ。

 ここで、話を最初に戻ることができる。
 キャッチボールとは、相手の胸に投げることが基本である。でも、そのことの意味は、次の動作に移りやすいということである。そういう投げ方、捕り方をしていると、実践となってきたときに、普段のキャッチボールが生きてくる。キャッチボールの練習から次の動作へ移りやすい捕り方をして投げていると、ノックやカット、捕球しての動作につながってくる。

 まさに、「日本一のキャッチボール」を目指す意味は、ソコにある。

 下山監督は言う。
「ノックをしていて、守備のミスが起きました。なぜ、起きたのか? カットプレーで、もたつきました。なぜ、起きたのか? いつもキャッチボールでそういう動きをしてないからじゃないのか、という話になる。ミスが起こったことに対して、すべてキャッチボールにフィードバックさせる。どんなキャッチボールをしているのか?っていう指導をすることで、答えが出てくるんです。楽な指導といわれるかもしれませんが、そこが大事なのだと強調したいんです」


 この取り組みにはいくつか副産物がある。
ボールを捕球して、軸足に体重を乗せてボールを投げるという原理は、実は、打撃でも一緒だということが分かってくるのだ。下山監督は証言する。

「来るボールに対して、どのように右足で入って行くか。この動きはボールに対してひきつけて打つという動作に似ていると思うんです。実際、遠くから呼び込んで捕球する選手、近くでしか捕れない選手がいますが、遠くから呼び込んでボールを捕球できる子はバッティングでも間の取り方が上手ですし、ボールが来てからパっとグラブを出して捕球するような選手は、バッティングでも瞬間的に打ってしまいます」

 また、下山監督はバッティングの中での押し手の使い方があまり上手くない選手には、キャッチボールで、その修正方法を身に付けさせるという。写真(4)-(5)がそれだが、右手を使う動作を覚えさせるために、右サイドスローでボールを投げることにより、その動きを身につけさせるという。この練習は右投げ左打ちで、左手の使い方が上手でない選手にもやらせる場合がある。これはキャッチボールだが、「バッティング練習」である。

日本一のキャッチボール

日本一のキャッチボール

尽誠学園が目指す「日本一のキャッチボール」。

単なるキャッチフレーズではなく、ひとつの練習理論である。

キャッチボールで野球は上手くなる

【文=氏原英明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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