Column

三田松聖高等学校(兵庫)

2012.09.28

野球部訪問 第78回 九州文化学園高等学校(長崎)

▲三田松聖高校 校舎の外観

 JR福知山線で大阪から約40分。新三田から二つ先の相野駅。そこから約10分の場所に三田松聖高校はある。
 遠くに六甲山系や北摂、丹波の山並みが見渡せる緑豊かで静かな土地柄だ。

 三田松聖高校は、学校法人湊川相野学園が設置。2003年までは湊川女子高校だったが、2004年に共学化し、現校名に改称し、その年から野球部やサッカー部などを創設した。
野球部のグラウンドは校舎から約3分。道路を挟んで200メートルほどのところにある。サッカーゴールなどもあり、「他部と共用なんです」と原智徳監督は説明してくれた。

 

身の丈にあった野球をしながら、強豪の壁を破る

▲三田松聖高校野球部 原智徳監督

  ここ最近の三田松聖は、兵庫県内での躍進が目覚ましい。

 2011年春に県大会で初めてベスト8に進出し、夏の大会のシード権を獲得。その夏は、4回戦まで勝ち進んだ。
 新チームとなった秋は、エースとなった中辻神司(当時1年)を擁して、県大会で3勝。準々決勝で、後の選抜大会に出場する洲本に1点差で敗れたが、春に続いてベスト8となった。
「学校中から大きな期待を持ってもらうようになりました」と原監督は実感する。

 ところが、今年は壁にぶち当たった。春の大会では丹有支部予選決勝で敗退。ノーシードで臨んだ夏も、初戦で敗れた。

 新チーム。エースの中辻が残り、どこよりも練習をした自負があったが、支部予選で敗退。8月末に、秋の戦いは終わってしまった。
「ミスが出てしまった」と主将となった濱田真伍(2年)は悔しさを話す。原監督は、
「相手チームも中辻対策で様々なことをやってこられる。正直、勝てるという自信があったので、ショックは大きいです。今はガマンの時なのかもしれません」と結果が出なかった2012年の戦いを振り返った。

 ただ、結果が出ないこととは別に、原監督が大事にしていることがある。それは、『選手を育成する』という大方針だ。取材に伺うと、3つの基本的な方針を話してくれた。

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[page_break:育成システムと食育]

一年間の育成システム

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▲器具を使ったウェイトトレーニングの様子

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 原監督によると、今年から作られたのがこの育成システムだという。

 軟式出身者やケガを抱えている選手、そして大型選手のために、1年次の1年間を育成の時間に費やすというのもの。具体的には、今年から学校で作られた『スポーツ選抜クラス』に所属しない選手がまずこの育成チームに入る。
 チーム本体の練習とは完全に別メニューで、集中して自分のための練習を行えるのが長所だ。

 育成チームには専門の指導者がつき、体づくりやリハビリ、基礎トレーニングなどに練習の大半を使う。
ボールを使ったいわゆる実戦的な練習はほとんどしないというのが特徴で、「他校ではない取り組みだと思います」と原監督は強調する。
 さらに、「本体と分けるのは、ケガの防止、練習意欲の向上」と指揮官は唱える。即戦力という形ではなく、育成という目的のために、基礎を自分のものにしていくのだ。
 ただ、全ての選手が1年間このチームに居続けるというわけではなく、8月の新チーム結成時に、本体に入る選手もいるという。あくまでも選手の個性、成長を重視してのものだ。

食育の徹底

▲マネージャーがつくってくれたおにぎり

 「同じ中学校の先輩から、体だけはしっかりと作っておけよと言われて入学しました。これだけ食べるとはビックリしています。とにかくキツイ!」とエースの中辻。主将の濱田も「こんな練習もあるのかなと思いました。食べても食べても、肥らない。(最初は)苦しかった」とコメントする。食育は、選手たちに大きな衝撃をもたらしているようだ。

 食育といえば、2005年に『食育基本法』が制定された。それによると、生きるための基本的な知識であり、知識の教育、道徳教育、体育教育の基礎となるべきもの、と位置づけられている。

 三田松聖では、下村尚文コーチが食育指導士に免許をとり、その担当となっている。

 授業終わりの平日練習では、まず開始前の午後4時ごろにまず食事を摂る。これは選手それぞれが弁当などを持ってきてのもの。
 さらに練習中の午後6時ごろにはおにぎりを間食として挟む。これは選手が持ち寄った米を炊き、女子マネージャーが握る。
 取材に伺った時も、バックネット裏の小屋の前にある炊飯器から、ご飯が炊ける良いにおいがしていた。
女子マネージャーは現在2人。2年生の土井美咲さんと高見さやかさんが、一個一個丁寧に握り、各選手名前を書いたサランラップで包み完成。

 食育ではさらに、プロテインやクレアチンなども補給する。入学時からの2年半あまりに、20キロ変わる選手もいるという。

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[page_break:独自の投手育成]

独自の投手育成

▲キャッチャーと内野陣

 原監督が最も心血を注ぎ、「自信がある」と話すのが投手の育成だ。

 基本的には『誰でもトレーニング次第では球速は伸びる』という考え方。それに基づいて、ストレッチや投球動作の神経回路の開発、筋力トレーニングに多くの時間を費やす。
 またグランドでやるトレーニングだけでなく、週一回はジムでのトレーニング。さらに、水泳やスタジオでのダンスなど、広範囲に渡った指導を行っている。
そして、色んな方面からアクセスして、それぞれの選手に応じた育成方法を見出していくのだ。

▲投手陣(左から野々下彰斗、松本洸樹、中辻神司、谷本恋生)

 現エースの中辻は、「テークバックを小さくするフォームに直して、入学時からその年の夏までに、劇的に球速が伸びた」(原監督)という選手だ。

 指揮官は、「選手を見ていたら、ここ直した方がいいというのがわかる」とも続ける。積極的に選手に合ったフォームを模索して、形にしていくのが大事だ。
 さらに、投手の練習で多くなりがちな投げ込みも、あまり行わないのが三田松聖流である。

▲クリーンアップ(左から茨木智也、辻琢磨、東知輝)

 原監督は話す。

 「きちんとした投球フォームを作ってから、マウンドに上げるようにしています。フォームが出来ていない間にいくら投げ込んでもよくならない。投げないと投手は不安な気持ちになるかもしれないが、ボールは極力握らせないようにしています。それに不思議なもので、投げ込みを多くすると、バッターが打ちやすくなるんですよね。今年の中辻がそうでした。ですので、今は原点に戻ってやっています」

 原監督によると、同校に入学する選手は、中学時代に出来あがっていない選手が多い。つまり、将来性豊かでその分、時間がかかる選手が多いのが特徴だ。

「しかし、その点に存在価値を見いだしていきたいと考えています」と、高校でも目の前の試合だけでなく、将来に伸びてくれれば考えで指導を行っているという。

 さらに、「ピッチャーの育成に関してのメニューは引き出しを多く持っています」と指揮官は強調して話してくれた。

[page_break:強豪校にはない取り組みで勝負したい]

強豪校にはない取り組みで勝負したい

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▲三田松聖高校野球部 集合写真

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▲三田松聖野球部 濱田真伍キャプテン

 チームとしての平日練習は午後4時から7時半くらいまで
選手のほとんどは自宅からの通いだという。

「最近の親御さんは、家から通わせたいという方が多い。ウチは、大阪からでも(長くて)1時間半ほどで通えます。それと、大阪方面とは逆に向かってくるので、(朝の)電車が混まない。それも生徒にとっては良いのではないでしょうか」と原監督は通学も教育の一環と考えている。

 さらに本文である学業も忘れてはならない。野球部では、英検2級などの検定試験を積極的に受けている。

 報徳学園東洋大姫路育英、それに今夏の代表である滝川二。“歴史と伝統ある強豪私立”が君臨する兵庫県。

 原監督は、「(伝統ある)強豪校にはない取り組みで勝負したい」と話す。そして、「全国のまだピックアップされていない人材を掘り起こしたい」と指導者としての夢も語った。

 高校野球という器(時期)だけでなく、3年後、4年後を見据えた選手育成を目指す三田松聖。兵庫県の高校野球界に、まだまだ新しい息吹を吹き込む存在になる。

(文=編集部

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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