高校野球のドラマチックな展開の1つに、ジャイアントキリングがある。大方の予想を覆す大番狂わせは、毎年多くの野球ファンを熱狂させるが、昨夏に大きな話題となったのは選手権広島大会の3回戦、広陵と英数学館の試合ではないだろうか。
U-18代表の内海 優太外野手や今秋のドラフト候補・真鍋 慧内野手(2年)らを擁し、春はセンバツに出場した広陵。その圧倒的な戦力から、夏も広島の大本命と目されていたが、英数学館の粘り強い戦いの前に屈することとなった。
大金星を挙げた英数学館。お世辞にも野球の強豪校とは言えず、恐らく初めて名前を聞いたファンも多くいただろう。
一躍、高校野球ファンの注目を浴びることになったが、その裏には東海大相模でコーチを務めた指揮官のユニークなチームづくりがあった。
選手の長所を探すことが変革の第一歩

英数学館ナイン
英数学館は広島県福山市に校舎、グラウンドがある。小中高一貫教育も行っており、2018年には硬式野球部の臨時コーチに元広島東洋カープ投手の北別府 学さんが就任したことで話題になった。
チームを率いる黒田元監督は、阪南大高(大阪)を卒業後、学生コーチとして東海大へ進学。巨人・菅野 智之投手や広島・田中 広輔内野手とは同級生で、大学卒業後は東海大相模(神奈川)で2年間コーチを務めた。
2016年度から英数学館に赴任し、2018年度から監督に就任すると、選手の長所を見つける指導で、チームの土台を作ってきた。
「当時は、東海大相模のメンバー外の選手たちを見させてもらい、その経験は本当に大きかったように感じます。私が見させてもらっていたのは、Bチームにも入れないたまに試合に呼ばれるかなくらいの選手たちでした。それでも一生懸命に練習するし、よく見ると誰でも何かしら一芸、長所を持っていることに気が付きました。
私が英数学館に来た時は、部員も少なく全力疾走もできないし、声も出せない。別に冷めていたわけじゃないけど、中学時代にレギュラーだった選手も少なく、ちょっと適当な雰囲気がありました。でも、そこを否定的な目で見るのではなく一人ひとりの長所を探して、どうしたら選手たちが変わっていくのかをいつも考えていました」
東海大相模と違い、野球エリートなんて誰一人いない。自信のない選手たちに、少しでも前向きな気持ちで野球に取り組んでもらうため、黒田監督は選手への接し方から見直した。
「自信ない選手たちなので、悪いところをいっぱい見せてくれるんですよ。選手としても、人間的にも足りてないところがいっぱい見える。それを指導するのは簡単ですが、自信のない選手に指摘して、『やっぱり俺はダメなんだ』と思わせても、その子の未来は何も変わりません。だったら良いところをとことん見つけてあげて、『俺って下手だと思っていたけど、この部分は長所なんだ』と気づかせてあげるんです。
子どもって面白いなと思うのが、前向きになるだけで短所が一気に改善したり、相乗効果で他の能力が伸びたりするんですよね。英数学館に来て、一番楽しいのはそこなんです」