元ヤクルトのOBが後輩指導に尽力 甲子園通算22勝・関西で起こっている変革の数々
2022年の夏の甲子園に出場した創志学園(岡山)の指揮官として、東海大相模(神奈川)の監督だった門馬 敬治氏が就任したことは、高校野球界にとって大きな話題となった。岡山県の高校野球の勢力図にどんな影響を及ぼすのか、2023年は岡山から目が離せない。
既におかやま山陽や岡山学芸館といった年々力を付けているチームもあれば、倉敷工などの実績ある学校もひしめく地区だったが、甲子園通算22勝を挙げている関西の存在も忘れてはならない。
元プロであり、先輩が意識するのは練習を飽きさせない
県内でも有数の実績を持つ学校として知られ、昨年秋の県大会でもベスト8まで進出。2014年夏以来の甲子園に向けて練習を積み重ねている。取材した当日は打ち込み日で選手らは木製バットを握って、一心不乱に振り続けていた。その姿を見ながら「結構振っている方だと思いますけど、プロはもっと振りますよ」と話すコーチが1人いた。
同校OBであり、2021年より後輩指導にあたっている元ヤクルトの上田 剛史氏である。
高校時代には4度の甲子園を経験。2006年のドラフトでヤクルトに高校生ドラフト3位で入団すると、2020年までヤクルト一筋で活躍。関西が誇る偉大なOBである。
チームをまとめる主将である川合 錬磨内野手(2年)も「憧れですし、目標です」という。上田コーチは、選手へ発破をかけつつも、時には自らスイングを見せるなど、身ぶり手ぶりを交えて、これまでの経験を伝えていた。
指示を出すメニューも豊富だ。引き出しの多さはさすがといったところだが、「メニューをマンネリ化させない。練習を飽きさせない」ことを注意しているという。
取材当日は学年ごとに打ち込みと振り込みの2班に振り分けていたが、打ち込みについてはティー打撃しないときは、トレーニングをやらせていた。ティー打撃も、ただ打つのではなく、途中でタイヤ打ちを交ぜるなど、マンネリ化させない工夫をこらしている。「全員が何か練習をやっている状況を作りたい」という上田コーチの考えを実現させた形で、練習量を確保している。
[page_break:木製バットは練習試合から。14年以来の甲子園へ先輩を超える]木製バットは練習試合から。14年以来の甲子園へ先輩を超える
ただ練習量を積んでいるわけではなかった。スクワットスイング、大股に開いて体重移動のスイング、さらには軸足1本で何度か跳んでからスイングするなど、とにかく足を使いながら練習していた。
川合主将は「飛距離を伸ばすためにも、全身のパワーを使えるように練習をしている」という。これは指導している上田コーチもポイントにしていたところで、川井自身も「腕を使う感覚はあまりなく、回転で腕がついてくる」イメージでスイングしているという。
体幹や下半身を使って振ることを重要視しているからこそ、後輩にも練習を通じて腕だけではなく、足など全身を使ってスイングすることの重要性を伝えている。
何気なく使っていた木製バットは、関西高にとって大事になっている。
「金属バットは詰まっても飛ぶのでごまかしが利く。腕に頼るのではなく、足を使って正しい軌道でスイングすることを覚えてもらう意味でも、芯を外して痛くても木製バットでしっかり振るようにさせています」
徹底ぶりは練習だけにおさまらない。練習試合でも木製バットを使うことが決められていて、金属バットはほとんど使わない。川合主将は「(金属バットを)使いたいと思うことはあります」と苦笑いをするものの、「公式戦で勝つことが目的ですから」と甲子園に行くために必要なことだと受け入れ、毎日振り続けている。
夏休みから積み重ねてきた成果もあってか、「県外の強豪校にも力負けしません」と上田コーチは取り組みに対して手ごたえを感じている。川合主将も「相手とも打ち負けることなく戦えています」と自信を深めていた。木製バットを使った打力強化は引き続き行われるだろう。
「自分は4回出場できましたけど、高校野球をやっている以上、甲子園は目指してほしいですし、出場できれば今やっている練習も『やっていて良かった』と思えるはずなので、子どもたちにも甲子園を味わってほしいんです」
後輩たちへの思いを上田コーチが話す時は、元プロ野球選手ではなく、同じ関西のグラウンドで汗を流し、甲子園までたどり着いた「先輩」だった。同時に、高校野球界に尽力する1人の指導者、野球人としての熱い思いも伝わってきた。
秋の8強を超えて、2014年以来となる甲子園出場へ、「上田コーチの世代が最強だと言われているので、それを超えたい」と川合主将は話した。先輩とともに、岡山の高校野球の覇権を再び握るため、まずは春季大会で結果を残す。
(取材=田中 裕毅)