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大阪公立校で32年ぶりの聖地へ 阪神・矢野監督の言葉を胸に65人の大所帯で挑む桜宮【後編】

2022.01.20

 阪神・矢野燿大監督の母校として知られている桜宮。スポーツ健康科学科が設置されるなど、部活動が盛んな学校で、野球部も1982年春に甲子園出場経験がある。近年も昨春と昨秋の大阪大会で4強入りを果たすなど、公立の雄として存在感を示している。その秘密を探る後編では、夏への思いと取り組みを紹介する。

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ソフトボール打ちで打撃向上へ

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ソフトボール打ち

 昨年秋の準々決勝では履正社と対戦。2019年夏の甲子園優勝校を相手に接戦を演じたが、「向こうのミスにつけ込めなくて、ちょっともったいない試合でした」(北風監督)とあと1歩及ばず、2対4で惜しくも敗れた。

 履正社との試合で北風監督が感じた課題は、変化球への対応だった。好投手のキレのある変化球に対応するためには、正しい打ち方を身に付けなければいけない。その一環として行っているのが、ソフトボール打ちだ。

 投手が山なりに投げたソフトボールをゆっくりとした動作で打ち返し、遅い打球を投手の頭の上に飛ばすことができれば、良い打ち方ができているということになる。これは、「ゆっくりとした動きで正しい動きができないと、速い動きをしても同じ」という北風監督の考えから行われているものだ。春以降に、このユニークな練習の成果が出るか注目される。

 投手陣は、高木と秋にエースナンバーを背負った松原 冴介投手(2年)が軸になる。ともに北風監督に適性を見込まれて、内野手から投手に転向しており、伸びしろを感じさせる右投手だ。

 秋は背番号10ながら主戦を務めた高木は身長164センチと小柄で、ストレートの最速も129キロだが、伸びのある球を投げ、抜群の制球力を誇る。両サイドに投げ分けることができ、打たせて取る投球が持ち味。1年秋に投手に転向する前は二塁手を務めており、「牽制の時のターンなどで足が素早く動くなと感じました」と内野手時代の経験が生かされている部分もあるようだ。

 松原は最速130キロのストレートと曲がりの大きいカーブの緩急を使った投球が光る。昨秋の履正社戦では2番手で2回を投げ、無失点に抑えている。この結果は自信になった一方で、「その時はカーブが良かったのですが、ストレートが少し浮いていた部分がありました」と課題も感じながら練習に取り組んでいる。

 背番号1を争う2人は良きライバル。「ストレートの球も良くて、いい自分の刺激になっています」と高木が松原について話せば、「1人で試合を投げ切る力は見習いたいです」と松原も高木の実力を認めており、互いに切磋琢磨しながら成長を続けている。

[page_break:「比べるのはチームや敵ではなく、昨日の自分」]

「比べるのはチームや敵ではなく、昨日の自分」

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山本昂奨主将

 部員は1、2年生だけで65人いるため、投手に限らず競争は激しい。メンバー争いが過熱してギスギスした雰囲気になってもおかしくないが、多くの選手が進学の決め手に雰囲気の良さを挙げるほど、チーム内での人間関係は良好だ。その秘訣について山本はこう話す。

「北風先生がよく仰っているんですけど、仲間でありライバルというところでやっているので、チームメイトに上手くなってほしいという気持ちを持ちながらも、しっかり自分も上手くなる、というそのふたつの気持ちを持つことによって、いい関係でやっていけてます」

 誰かを蹴落とすのではなく、チーム全体のレベルを引き上げる中で自分もより上達する。そんな考え方で個々が取り組んでいるからこそ、雰囲気のいいチーム作りができているのだ。

 それを体現しているのが阪神の矢野監督かもしれない。取材の数日前に矢野監督が母校へ講演に来ていて、「比べるのはチームや敵ではなく、昨日の自分」という言葉が高木には印象に残っていたという。「昨日の自分よりも上手くなる」という精神が代々受け継がれていることが、公立校ながらも激戦区の大阪で上位に進出するチーム力を作り上げているのではないだろうか。

 目指すは夏の甲子園初出場だ。今春の甲子園出場が確実な大阪桐蔭金光大阪など強豪私学の集うハイレベルな大阪で、甲子園を目指すのは簡単ではないが、北風監督は本気で甲子園を狙えるチーム作りを目指している。それを実現するためには守り勝つことが大事だと指揮官は話す。

「もちろん打たないと勝てないですけど、守りでミスが出てしまったら、追いつく点も追いつけなくなってしまうので、いつも思っているのは守りから攻撃ということですね。3、4点以内の勝負で4対3とか3対2とか5対4とかで勝つというのをいつも頭に入れてます。私学に勝ってる時って、だいたいそれくらいのパターンなんです。ベスト4の常連にならないと、甲子園が見えてこない。甲子園出場を狙ってやっていきたいと思います」

 大阪府の公立校が甲子園に出場すれば、1995年春の市岡以来、夏に限れば、中村 紀洋(元近鉄など)を擁した1990年の大阪渋谷以来となる。激戦区の頂点を目指す彼らの戦いぶりに注目だ。

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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