タレントを活かす組織的な野球を実践する埼玉の新鋭・昌平の確かなチーム作り【前編】
全国でも有数の激戦区として数えられる埼玉県。今夏はブロックの準決勝で敗れたものの、夏5連覇という結果を残している花咲徳栄。そのライバルとなる浦和学院や春日部共栄などなど実力校がひしめき合っている。
そんな埼玉で3季連続ベスト8進出。そして今夏はそれ以上のベスト4という結果を出して、勢いに乗っているのが昌平だ。社会人野球・シダックス時代に名将・野村克也氏の下でプレーをした経験を持つ、黒坂洋介監督を中心に数年で一気に勢力を拡大した昌平の今に迫った。
確かな知識に基づく声掛け
昌平の練習中の様子
今年は勝負できる1年だった。1年生春から起用し続けた千田泰智主将や高校通算47本塁打のスラッガー・渡邉 翔大。さらに吉野哲平に角田蓮、そして2年生スラッガー・吉野創士とタレントが揃っていた。
黒坂監督も「新チームスタート時は千田、渡邊、吉野哲平。そして角田の4人が中心でした」と発足時のことを振り返る。その上でまず新チームで徹底してきたことは声掛けによる意思統一だ。
「今も内野には伝えましたが、自分だけがわかっていてはダメだと。その人だけがそのつもりになるのではなくて、投手を中心に意思統一ができているのか。そのための確認で声掛けをするという感じです」
例えば牽制1つを取り上げても、アウトを取るのか。それともランナーの様子を見るものか。はたまた間をとるために牽制をするのか。同じプレーでも意味合いの違いだけで、動き方は変わってくる。黒坂監督はそこの統一感を作るために声掛けが必要だと考えている。
ただ、声掛けといっても、そのプレーに対しての知識がなければ正しい指摘、的確な声掛けというのは難しい。その点に関して、黒坂監督はこのように語る。
「野村さんの言葉にありますが、『豊富な知識がピンチを救う』というのがありまして、座学に関しては多くの時間を使ってきました。それに加えて選手たちが本やインターネットで調べてきた情報をミックスできればと思っています」
新チームがスタートし、同じことを何度も繰り返し伝えることもあった。選手たちの理解度を見て不足していることを黒坂監督が何度でも伝え、選手たちが理解できれば次のステップへ進む。状況を見ながら段階的に伝えた知識に加えて、選手個人で調べてきた知識を掛け合わせてで、選手たちの知識を蓄えてきた。
選手が自ら知識を養わせたことで、昌平の練習はとても意味のあるものだった。
昌平は実戦的な練習が多い。そこで、選手たちの声に耳を澄ませると、まず捕手からランナー、アウトカウントを守っている選手に伝える。そこから守っている選手から次々と場面を想定した声が飛ぶ。さらには、主軸打者が打席に立っている打者へタイミングが遅れているのか、遅れていないか。その指摘がとても具体的なのだ。
タレント力ではなく、いわゆるシンキングベースボールで、昌平の実力を底上げしてきたのが伺える。
[page_break:選手同士で伝えあうことで統一感を作り上げた]選手同士で伝えあうことで統一感を作り上げた
練習中のミーティングの様子
しかし意思統一という観点においては、現在の昌平は3学年で81名の大所帯。意思統一させるのも一苦労だ。そこに関しては「永遠のテーマですね。ただ、好きな野球をやるうえで、チームで目標を掲げて同じ方向へ動いていく雰囲気作りは、選手たちから作っていくものだと思っています」と黒坂監督は考えている。
経験豊富な世代だったからこそ、自主性をもって練習には取り組めていた。そこから主体性をもって選手間で問題提起をして、解決をしていく。選手間で練習の質を高めていくことが必要だと考えながら練習に取り組んできた。
実際に新チームスタート時は千田主将を筆頭した中心選手4人に対して「仲間に『どうしてそれが出来ない』というのではなくて『こうやってやるんだ』と伝えるのも役割だ」と相手の気持ちに立ってフォローする重要性を伝えていた。確かに吉野哲など主軸打者たちがチームメイトへアドバイスする姿は頭ごなしではなく、丁寧に説明していた。
また新チーム発足時は走塁に力を入れていた昌平は、この世代に関しては千田主将と角田の2人に黒坂監督はレクチャーを任せた。それだけ全幅の信頼を寄せている証でもあるが、選手間で教え合うことでチームの一体感を築き上げてきた。
この取り組みは千田主将にとって大きなプラスがあった。
「それまで監督の近くでやってきたことを自分たちで教えることで理解度は深まりました。また周りが見えるようになって、目配り気配りは出来るようになって。プレーにもいい影響がありました」
選手たちの間で指摘し合える風土を経験者たちから自然とできるようになったことで千田主将は「チーム全体の知識への理解度は高まりました」と手ごたえを感じていた。黒坂監督も「理解度は相当なモノでしたし、上手くいっていますね」と納得の表情だ。
では、なぜ昌平は走塁から力を入れていくのか。その答えを黒坂監督に問いかけると、深い内容があった。
「走塁のことを考えると研究熱心になります。アウトカウントやボールカウントを考えたうえで、相手のスキをつく。どうやって攻撃をしていくのか。色んなことを考えるようになります。そこで気づいたことを、今度は守備ではやらせないようにしようと言うことになるんです」
野球は表裏一体のスポーツである。特に走塁はその一面が出やすい。走塁で培った意識や知識を攻守に還元する。こうすることで、ピンチを救う豊富な知識をさらに積み重ねていこうとしていたのだ。
今回はここまで。後編では秋季大会から自粛期間までのチームの歩み。そして独自大会への想いを伺いました!後編もお楽しみに!
(取材=田中 裕毅)
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