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「打倒・明石商 中森俊介から10点取る打線へ」育英(兵庫)野球部訪問【後編】

2020.01.10

 春13回、夏6回の甲子園出場経験があり、1993年夏には全国制覇を成し遂げた育英。兵庫県の高校野球を代表する名門校だったが、2005年春を最後に甲子園から遠ざかっている。それでも昨夏は2年生主体でベスト4と躍進。今後に期待を抱かせる結果となった。

 本気でセンバツを狙いに行った秋は3回戦で報徳学園に0対1で敗退。甲子園で戦うことを目標にしていたこともあり、落胆は大きかったが、下を向くわけにもいかない。20年ぶりに夏の甲子園を目指す伝統校の現在地に迫った。

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「復活を目指す兵庫の伝統校」育英(兵庫)野球部訪問【前編】

秋の敗退から下半身強化

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しこふみのトレーニングに励む育英ナイン

 秋に向けては守りでミスをしないことをテーマに夏休みから練習を続けてきた。右横手投げのエース・石澤拓大(2年)は旧チームから主戦として登板し、抜群の安定感を誇る。彼の持ち味を発揮するためにも守備力を高めて、守り勝つ野球で15年ぶりのセンバツ出場を目指すことにしたのだ。

 経験値で優位に立つ育英は神戸地区予選Dブロックを初戦の須磨友が丘戦で苦しみながらも、順当に通過。決勝戦では強敵の滝川第二を7対3で下した。

 県大会では初戦で篠山鳳鳴を8対1の8回コールドで破る上々の出足。ベスト8をかけた3回戦で報徳学園との大一番を迎えた。

 この試合では石澤が3安打1失点と完璧な投球を見せたが、打線が県内屈指の好投手である坂口翔颯(2年)の前に2安打無得点。0対1で敗れ、センバツ出場が絶望的となった。

 「センバツに行って勝負することがチーム内での共通目標であったので、どん底に叩き落されたような感じですね」と敗戦直後のチーム状況について振り返った安田監督。秋を勝ち抜いて甲子園で戦うことを現実的に考えていただけにショックは大きかった。

 敗因は明らかに打力不足だった。報徳学園戦が紙一重の試合だったことに間違いないが、「勝ったとしても頂点に行くにはまだまだ足らなかったと思います」(安田監督)と認めざるを得なかった。そこで安田監督は夏に向けて思い切った策に打って出る。

 一つは秋季大会が終わった10月頭から冬場にやるようなトレーニングを始めたことだ。下半身強化を目的にスイング量や走る量を増やして、体を苛め抜いた。特に選手たちがキツいと感じているのがしこ踏みだ。取材日にもしこ踏みは行われていたが、延々と同じ動作を繰り返しているうちに選手たちは苦悶の表情を浮かべていた。

[page_break:木製バットの取り入れ、明石商・中森から10点を]

木製バットの取り入れ、明石商・中森から10点を

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木製バットで打撃練習に励む育英ナイン

 もう一つの策が練習試合で木製バットを使用することである。木製バットは下半身を連動させて打たないと、金属バットのように打つことはできない。卒業後も野球を続ける意向を示している西川もバットの違いを感じ、成長できた点があったと話す。

 「金属は詰まっても飛びますが、木はちゃんとした出し方とか芯で捉えないと飛ばないと思ったので、そこが違いかなと思いました。木はバットを内から出さないと飛びません。自分はバットが外から遠回りしてしまう癖があるので、内から出すことが身についたと思います」

 課題を明確にして、徹底した打撃強化を図っている育英。春、夏の戦いを見据えて、安田監督は思い切ったプランを思い描いている。

 「ウチが倒さないといけないと思っているのは明石商神戸国際大附報徳学園です。その3つに勝つには何か一つでは無理だと思っています。3連勝を目指す中で1試合くらいはノーガードの打ち合いになると思うので、明石商の中森(俊介・2年)君から10点取ることを本気で狙っています」

 育英にとって近畿大会に出場した報徳学園明石商神戸国際大附がライバルになることは間違いないだろう。石澤に安定感があるとはいえ、これらの相手を全て抑え込むのは難しい。その中で中森や坂口を相手にしても打撃戦に持ち込める打線を作ることを目標としている。

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左から多田優斗、藤田星龍、美澤真斗

 打線を再構築するにあたって安田監督がキーマンに指名したのが藤田星龍(2年)と美澤真斗(1年)だ。1年夏から5番を打つなど、期待値が高い美澤を1番、秋はリードオフマンとして活躍した藤田が2番に座り、秋は2番を打っていた多田を夏までのように下位に回すことができれば打線に厚みが増すと安田監督は考えている。春にはどんなオーダーになっているのか楽しみにしたい。

 2000年代に神戸国際大附、2010年代に明石商といった新鋭校の台頭もあり、育英が甲子園に姿を見せなくなって久しい。OBや地元の高校野球ファンは名門復活を楽しみにしていることだろう。安田監督もそうした想いを全て受け止めて教え子たちに向き合っている。

 「伝統ある高校の監督を任されていますので、責任感を背負えるのを背負って自分はやっていますけど、今の子たちに押し付けてもわからないです。早く甲子園の景色を体験させてやりたいという気持ちでやっていますし、地域の方に甲子園に来てもらえるようにと思っています」

 本気で甲子園を狙って敗れた秋を経て、更なるパワーアップを目指す育英。久しぶりの甲子園出場を成し遂げる日はそう遠くはないはずだ。

(文・馬場 遼

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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