Column

最後の日まで野球をやらせてあげたい。上尾高校をまとめる監督の熱い思い 上尾(埼玉)【後編】

2019.06.09

 かつて、昭和時代の後期、埼玉県の高校野球を引っ張り続けた上尾。1958(昭和33)年に学校創立と同時に創部し、5年後に甲子園初出場。75年夏には東海大相模を下してのベスト4進出も果たしているが、その実績以上にひたむきな戦いぶりが全国の高校野球ファンを魅了した。

 しかし、84年夏を最後に甲子園から遠ざかっている。それでも、昨夏の北埼玉大会では決勝進出。昨秋の県大会もベスト8と着実に古豪復活の兆候を示している。そんな上尾のグラウンドを訪ねた。

 後編では夏へ向けた思い、そして髙野監督のチーム方針に迫っていく。

令和の新時代に昭和の匂いを漂わせつつも、新生上尾は意気高らか【前編】

上尾の歴史を背負う選手たちが語る、今すべきこと【中編】

投手陣は自己管理

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夏への思いを語る寺山大智君

 昨夏は背番号18でベンチに入り、新チームでは背番号1を背負ってチームの柱として投げていた寺山大智君は、「昨夏は、3年生のエースがいたんですけれども、自分としてはいつでも行けるような準備はしていました。新チームでは、経験を生かしたいと思って自分しかいないという思いで投げていった」ことが、秋季大会ではケガを誘発してしまい、冬の間はむしろ左ひじのケガを完治することがメインとなってしまった。

 それでも、焦ることなくゆっくりと自分の調子を上げていくなかで、却って最後の夏へ向けて作っていくという意識が育って行った。

 上尾の投手陣は、高野監督の方針でもあるのだが、1週間の練習メニューということで言えば、週末の練習試合に向けて自分で調整プランを作って実行していくということになっている。だから、投げ込み練習や球数なども敢えて決められてはいない。「試合で投げていくのが一番の練習」という考え方でもある。そういう意味では、投手陣は特に自己管理が大事になってきている。もちろん、寺山君もそんな自覚を持って取り組んでいる。

 寺山君自身も自分自身は力で抑えていく投手ではないという認識である。しなやかな左腕というタイプで、「三振を獲るというよりも、得意のスライダーとチェンジアップで、相手をかわしていく、球の出し入れが自分の持ち味」という自覚がある。それだけに、コースが甘くなっていかないことを一番心掛けているという。夏本番まであと1カ月ちょっと、その精度を磨いていくことが今のテーマとなっている。

[page_break:バッティング投手だって、手伝いじゃない]

バッティング投手だって、手伝いじゃない

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3年生たちに熱く語る髙野監督

 髙野監督は今年のチームは、絶対的なチームリーダー不在だという。だから、チームの主将という役割は今のところは交代制で、正式には、大会登録ギリギリになって決めていくということだ。

 その一方で、3年生だけでも32人いるので、確実にベンチ入りを外れる選手が10人以上出てきてしまう。練習の合間にも、そういう可能性のある選手たちにも小まめに声をかけていく。「バッティング投手だって、手伝いじゃない。投げる者は、それはそれで自分の練習なんだ。だから、投げながら、自分の球を磨いていけ」というようなことを伝えている。

「高校野球は、実質わずか2年とちょっとしかないじゃないですか。だけど、その間にも、高校野球っていうのは、野球を通じていろんなことを教えてくれますよね。だから、最後の日まで野球をやらせてあげたいんです」

 その思いは熱い。

「1年生が2学年上の3年生と関わることも大事ですし、3年生が1年生に声をかけてあげることも大切なことです。レギュラーかどうかということではなくて、野球を伝えていくこと、野球を通じていろんなことを学んでいくこと、経験していくこと、それが大事だと思います。この夏も、1球1球、一つひとつ大事にしていきたい。そういう思いを伝えていきたい」

 令和の新時代に、昭和の匂いを感じさせながらも、今の時代の高校野球を貫いている。今年の上尾も、きっといい夏を過ごしていくに違いない。

(取材・手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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