ブレずに歩み続けた先に甲子園の扉が開く! 橿原学院(奈良)【後編】
前編では、智弁学園から大阪体育大に進んだ谷車竜矢監督が、橿原学院ではどんな指導をされているのか、指導方法や理論について話を伺いました。後編では、理想とするチーム像からどんな練習をしているのか、そして春の目標を語ってもらいました。
自分で考えて行動し続けることが正解への最短ルート
ノック中の様子
「10対0で勝つ」
それが理想だと谷車監督は考える。それを実現するためには打力強化が一番大事だと考えてしまうが、さらに話をしていくと、意外な言葉を聞くことができた。
「『ピッチャーは何を打たれたら嫌だろう』とか『バッテリーは何を考えているだろう』などの考え方の部分を大事にしました。」
今のチームは元々打力ある選手が多いこともあり、振る力などのベース部分には問題がなかった。だからこそ選手たちには技術ではなく、打席の中での考え方が必要だったのだ。
「練習試合は練習ですので、打席が終わった後に『どうして今こうなった?』と話をしてその場で教えています。」
この秋は県大会の初戦で敗れた分、多くの練習試合を組むことができ、試合中は一切サインを出さず、選手が試合でやりたいことを全部任せてみた。盗塁をしたければ盗塁すればいいし、初球から打ちたかったら初球から打てばいい、と失敗してもいいから思い切ってプレーができるような環境にした。
のびのびとやった中で得られたことを、その場ですぐに反省会を開くことで吸収する。この積み重ねが正解に近づく近道であり、その道を一歩一歩前進するためには、自分で考える習慣をつけ、練習から前向きに取り組む姿勢が必要なのである。
ただ考え方の以前に振る力などベース部分が劣っている場合は、バットを振るようにして、しっかりと振る力を付けさせている。
力をつける際に、マスコットバットを使って筋力をつけるのはどの学校でも普通のことだ。だが、谷車監督は試合の時のマスコットバットの使い方を問題視している。
鍵は軸足にあり
ティーバッティングの様子
マスコットバットといえば冬場に使うことはもちろんだが、試合前やネクストバッターズサークルでも使う選手が多い。重たいバットを振ってから打席に入ることで、スイングスピードを一時的にアップさせることが狙いだ。だがここに落とし穴があることを谷車監督は感じていたのだ。
「重いバットを振ると体が重いバットの振り方を覚えたままバッターボックスに入ることになるので、バットがボールに対して最短距離で出せない。その結果打てないのではないか、と思っています。」
重いバットだと、どうしても一度バットが下に落ちてからスイングに入りやすい。そうするとほんの少しでもボールへのアプローチが遅れる。それで打てなくなっている可能性があると考えたのだ。
そこで思い切ってやったのが、500グラムくらいの軽いバットを振ることだった。
たしかに軽いバットを振ると、打席の中ではバットが重く感じる。だが確実にボールへのアプローチは最短になる。その結果として確実にミートできるというわけだ。
常識では考えられない発想だが、実に理にかなっている。智弁学園でキャッチャーを務めた谷車監督の頭の良さを垣間見たが、智弁学園で培ったのはそれだけではなかった。
智弁学園で築き上げた打撃論。それはこの一言に凝縮される。
「強いチームのバッターはボール球を打たせようとしても軸足がブレないんです。そこが崩れなければある程度しっかり振れるので、ヒットが出るんです。」
泳がせれば、打者はボールに対して当てるだけで終わってしまい。まともなバッティングをすることができない。そのことから、軸足がバッティングにおいてどれだけ大事なのか、ということがハッキリ見えてくる。
裏を返せば、バッテリーは緩急や内と外の出し入れなどでいかに軸足を崩すか、そこがポイントなのだ。
強打の智弁学園や天理は軸足がぶれることなく打撃ができていると感じており、甲子園に行くためにもより一層軸足がブレない打撃ができるよう、選手には軸足の大切さを話している。
[page_break:ベスト4常連、それこそが甲子園の扉を開く]ベスト4常連、それこそが甲子園の扉を開く
橿原学院
「10対0で勝つ野球」を実現するため、ブレない軸足が必要だということが見えてきた。そのためにも現在は体幹トレーニングなどで安定した体の軸を作っている。
しかし10対0を叶えるためにはただ打つだけではなく、相手打線をシャットアウトする守備も必要である。そのために必要なのがカバーリングだと考えている。
「エラーなくパーフェクトで守れるのが一番ですけど、球がイレギュラーするなどグラウンド運もあるので、エラーは絶対出てしまうんです。だからミスした後の対策をちゃんとしてくれればいいんです。」
時々、ホームではなく少し前からノックをすることで、ファールゾーンを意図的に広げてカバーリングの練習をし、エラーした後の対策をしている橿原学院。
大会は1つのエラー、1つのイレギュラーなどの不測の事態から流れが大きく変わることが良くあるが、カバーリングがしっかり徹底されていれば傷口は小さくて済む。打撃だけでなく、カバーリングの良さで守り切る橿原学院にも注目したいところだ。
秋は県大会の初戦で敗れた。だがそれでも目指す場所は甲子園であり、そのためにも一日一日を大切に、それぞれチームで必要な技術を伸ばしてほしい、と選手に望む。
そんな谷車監督の未来予想図は、いずれ夏のベスト4の常連、つまり智弁学園、天理、そして奈良大附に続く4強に肩を並べるようになりたいと語る。それは奈良大附のこれまでを知っているからだ。
「奈良大附属さんが何回も決勝にいって、智弁学園に負けとか、あと1勝で甲子園というところを長年やられてきた。だからこそ今回のようなことがあると思います。
うちにはまだその歴史がないので、まずはそのレベルまでなんとか持っていきたいなと思っています。」
そう話した直後に、「奈良の公立校が強いので(笑)」とここで再び笑顔を見せてくれた谷車監督。夏に大輪の花を咲かせるため、橿原学院は冬の寒さに負けずにしっかりと根を張り、春先に急成長する準備を進めていく。
編集後記
この取材を通じて感じたのは、谷車監督が本当に高校野球を愛しているということ。そして野球に対して熱い監督だということだった。しかしただ熱いだけではなく、その裏には確実な理論が構築されており、根拠を持って日々練習をしている。
橿原学院をどう指揮していくのか、これからが楽しみで仕方ない
(文・写真=編集部)