感謝の気持ちこそが全ての土台!渡辺正雄監督・人間としての魅力に迫る! 大分商【後編】
前編と中編の2回に分けて大分商野球部の選手育成の方法を、監督である渡邉正雄氏に話を伺ってきた。最後となる今回の後編では、選手の秘める可能性と監督自らが大事にする心構えを中心に迫ります。
指導者としての原動力
大分商・渡邉正雄監督
「この無限の可能性のある子達がどう、大分商で野球を通じて僕と関わっていってくれていったことで、何か伸びてくれればいいなってそこしか無いですね。」渡邉正雄監督の人間的魅力はこの言葉に詰まっている。出会えた縁に感謝してなんとか成長の手助けをしたいという思いが伝わってくる。
「この子達の、野球が上手い下手とか言うよりも、常に表情だけは見ているようにしています。どうしても公立高校で学校ですし今日はちょっとうまく行っていないのかなぁという表情が自分なりにあったなら声がけも当然していきますし、ここは触れないほうがいいかなぁと言うときは当然ふれないようにします、そのへんうまく、本人たちの状況を見ながら、性格を見ながらしてますね。」
そう、渡邉監督は大分商の大所帯の全員に目を配っている。それは、各人のターニングポイント(成長ポイント)を見逃さないようにするためで。
そんな自分のことを親身になって、寄り添ってくれた指導者のもとには巣立った生徒たちが戻ってくるのは自明の理だろう。
その証拠に渡邉監督はこのようなことを言ってくれた。
「プロに入っている子も慕って来てくれますし、やはり後輩のために何かしてくれようとしてくれますし、森下(森下 暢仁・明治大学)なんかもそうなんですけど、戻ってきた時にもうとにかく後輩に投げさせてくださいって。」
そんな、森下に渡邉監督はあるお願いをしている。
「森下、申し訳ないけどいろんなやつに話しかけてくれ、高校生なので自分から行けないときも、森下が一言「がんばれよ」って言ってくれたら。それで一日頑張れるじゃないですか。」
森下が投げて、それを受けるキャッチャーがいる。そこで声をかけてもらえる選手がいる。その中でレギュラーかどうかは関係なく接していける雰囲気を作る。渡邉監督が考える、選手の気持ちを考えた心配りである。「選手への気遣い」→「信頼関係」→「卒業後、また戻ってきてくれる」この素晴らしいサイクルは、伝統ある大分商野球部に好循環が生んでいる。
懐の深い人間性
大分商・渡邉正雄監督
渡邉監督が自分自身に求める要求は計り知れない。どんな生徒、どんな人間がきても受け入れられそうなキャパを作ろうとしている。
「育った環境って今、もう複雑ではないですか、組織に入れた時に馴染むもの、馴染まないもの、出ようとするもの、ひこうとするもの 色々いるので、そこを上手く、みんなでフォローできるどんなパターンの生徒がきても受け入れられるキャパを作ろうと、どんな人間が来ても対応できるようにしたいと思います。」
全ての人間に対応することは大人であれど非常に難しい。それでも、渡邉監督ならできてしまうのではないか?と思わせてしまうのは、その懐の深さだろう。
「僕はしょっちゅう間違えるんで、間違えたら間違えたでごめんって。だから自分のプライドなんか一切ないですし、伸びしろのある、この無限の可能性のある子達がどう、大分商で野球を通じて僕と関わっていってくれていったことで、何か伸びてくれればいいなってそこしか無いですね。」
選手の成長のために、自分のプライドを捨てられる指導者がどれだけいるだろうか? 渡邉監督の選手への取り組みが、選手、今まで卒業してきた生徒との信頼関係の基盤になっていることは明らかである。
[page_break:ターニングポイントを見極める嗅覚]ターニングポイントを見極める嗅覚
大分商・渡邉正雄監督
「高校生って、やっぱ自分の我を出したいじゃないですか、そこに何もかかわらなかったら、本当の自由だけで終わってしまうので、唯一僕の中で自信をもって言えるのはそこの、あっここのポイントだなって思った時に、絶対に妥協しないので、そこのポイントだけは絶対に本人たちに伝えますね。」
毎日選手の成長するタイミングを考えながら選手の顔を見ている渡邉監督だからこそ言える言葉である。
「いくらうまくいかない時に、色々ガミガミ言ったところで上手くいかない。でも、いい縁ができて、いい流れになったときって何言っても上手くできる。2ヶ月かかってもできなかったことが、1週間でできることって高校生だったらいっぱいあるんですよ。森下 暢仁みたいに128キロだったピッチャーがいきなりポイントを掴んだことで145キロぐらい投げるピッチャーだって出てくるわけですよ。この瞬間と出会えることが楽しくて。」
渡邉監督は、選手の成長した話を嬉しそうに話してくれた。取材を通して大分商のポテンシャルを感じた。今後も、多くの生徒が大分商に入学し野球部の門を叩くだろう。その時渡邉監督と出会いどのような化学変化を起こすのか? 今から想像するだけでワクワクする。
さて、敢えて最初の一文に戻りたい。
「この子達にかかわらせてもらっている それがやりがいですね。大分商で野球を通じて僕と関わっていってくれていったことで、何か伸びてくれればいいなってそこしか無いですね。」
人との関わり合いに感謝できる、これこそが渡邉監督の最大の魅力だろう。
(文=田中実)