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報徳学園 (兵庫)「基本」土台に、試合と「直結」し「魂」を出し切る

2018.03.07

 兵庫県西宮市にある聖地・阪神甲子園球場から市内を7キロほど北に車を走らせた武庫川沿い居を構える報徳学園高等学校。過去春21回・夏14回の甲子園出場。うち1974年センバツ、1981年夏、2002年センバツは大谷 智久投手(早稲田大トヨタ自動車~現:千葉ロッテマリーンズ)を擁し頂点に到達するなど、1932年の創部から現在に至るまで全国的な強豪として知られている。
 しかしながら、そんな名門の練習環境は決して恵まれているわけではない。では、彼らはなぜそんな環境でも「名門」「強豪」であり続けられるのか?今回は報徳学園の守備を中心にスポットを当て、球児の皆さんにも参考になる強さの形成方法を探っていきたい。

名門・報徳学園の練習環境、意外にも……

報徳学園 (兵庫)「基本」土台に、試合と「直結」し「魂」を出し切る | 高校野球ドットコム
グラウンドはラブビー部と共用で使ってる

 兵庫県西宮市の武庫川沿いにある近畿地区私学の雄・報徳学園。2017年は永田 裕二監督の勇退大会となったセンバツでベスト4入り。今年も侍ジャパンU-18代表の小園 海斗(2年・遊撃手)をはじめ、有望選手たちが頂点への研鑚に励む。
 ただ、聖地での勝負強さから「逆転の報徳」の異名も持つ名門の威光を前に、身を正してグラウンドに足を踏み入れた筆者の前に広がっていたのは、意外ともいえる光景だった。

 レフト側へ縦長のグラウンドにおいて、野球部専有のスペースは内野ダイヤモンドのみ。センターからライトのスペースは先の第97回全国高等学校ラグビーフットボール大会で、ノーシードからベスト8入りしたラグビー部が共用。さらにその奥はサッカー部がボールを蹴る。よって打撃練習はバックネットに向かって打ち込むのが日常風景である。

 室内練習場もない。雨が降った際の練習はセンター後方にある自転車置き場を活用しての羽根打ちやトレーニング程度。教室の1室を使ってのトレーニング施設は整っているとはいえ、専用球場・室内練習場を持つ他の強豪校と比べて圧倒的なハンデを抱えている。

 しかしながら、昨年4月からチームを率いる大角 健二監督は極めて前向き。「他の部とはメニューによって、時間を分けて使いあっています。これでも外野を人工芝にしてから、砂埃が上がらなくなってよくなったと思いますよ」。確固たる自信が言葉に宿っている。

 そんな自信を生み出すベースとなっているのは報徳学園の伝統である確立された基礎練習、さらに実戦に直結させるノックがある。幸いにも取材日の練習は1年生を中心とした守備が主体。ここで彼らの成長過程を探っていくことにしよう。

[page_break「実戦直結への」報徳流基本守備]

「実戦直結への」報徳流基本守備

報徳学園 (兵庫)「基本」土台に、試合と「直結」し「魂」を出し切る | 高校野球ドットコム
基礎練習を大事にする報徳学園の守備練習

 内野ノック、外野ノックが始まった。内野ノックは別メニューの選手が、外野ノックは大角監督がノッカーを務め、最初のメニューは内野手は捕球→一塁送球。外野手は背走含めた捕球までの基礎練習。ここで選手たちは「報徳流」基本守備を改めて体内に刻みこむ。

 では「報徳流」基本守備とはいかなるものなのか?内野守備はこの選手に語って頂こう。昨年は侍ジャパンU-18代表としてWBSC U-18ワールドカップでも好守を連発した小園 海斗(2年・遊撃手)。彼は朝練習で積んでいる基礎練習2つを明かしてくれた。

 「1つは置いてあるボールに3メートル先からダッシュし、最後に細かくステップを刻んで捕球態勢に入る練習。もう1つはゴロを転がしてもらって捕球する練習。自分は中学時代、守備が得意ではなかったんですが、入学後にこれをやり続けたことで守備がうまくなりました」

 「基本練習ではラダーを使った足さばきも教えています。その上で『バウンドを合わせて、次の送球に備えてほしい』と捕球練習では言っています。いい捕球がいい送球につなげるためには、次の脚が入ってこないといけないですから。
 ですから、1年生のシートノック・ケースノックの場合もまずはランナーをアウトにする意識を持たせた上で、ゴロ取りのような打球に対しては形を意識して投げるように話をしています」大角監督が小園のコメントに補足を加えてくれた。

 では、そこでミスをした場合はどうするのか?外野ノック中、大角監督はミスを絶対におざなりにしない。すぐに選手に対し、その原因を発言させ、修正法を的確に指摘する。

 「ミスを意識づけた上で、二次ミスを防ぐ。ミスをした次のプレーが大事。たとえば送球が抜けた次の送球がワンバウンドであれば、これはOKです。『抜けたミス』を意識しているのですから」

 外野手の基礎練習も内野手同様「次への意識」が植え付けるものばかりだ。

 たとえば誰もが一度は悩む背走について。まずは三角形の底辺ライン上に右脚と左脚を置き、自分の左後方に打球が飛んだ時はすばやく左脚を後方に引いて、右脚を打球方向に向ける。いわゆる「入れ替え」の練習を報徳学園では徹底して行う。

 「外野手は内野手にお尻を向いてさばくと送球までに時間がかかる。ですから、少しでも早く打球に追い付き落下地点までのロスを少なくするためには、打球の頭を追って先に入ることが必要なんです」指揮官の弁はごもっともであるが、そこにクローズアップすることは実は少ない。

 よって、外野手の基礎練習には捕球練習だけではなく、明確に「三塁ベース」という的へ送球する練習もメニューに組み込まれている。

 「ベース送球の際は7~8割の力でワンバウンドでどこへ落とすかの練習をします」(大角監督)。練習試合でも投手が120球投げたら、守備のタイミングも120回取るように、基礎練習から「実戦直結」を志す。ここに報徳学園の強さが潜んでいる。

[page_break厳しい状況設定で「球際の強さ」を出す]

厳しい状況設定で「球際の強さ」を出す

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プレーに「執念」を求める大角監督

 内外野の基本練習が終わると様々な状況を設定した中でのシートノック。ここでも大角監督が求めるものは明確だ。1球ずつ「状況判断」についてのアドバイスが飛びつつ、「執念」なきプレーに対しては厳しい檄が放たれる。そこには10年ほど前、大角監督がコーチ時代に東洋大姫路と対戦した時の実体験も基になっている。

 

 「東洋大姫路の選手はピンチの時に形はどうであれボールを止めに行ってアウトにした。一方でウチの選手はバウンドを合わせにいってそれがエラーにつながった。そこでセンスだけではなく、精神的な違いを感じたんです」

 加えて、報徳学園には『報徳魂』という執念で野球をするベースがある。「2005年・片山 博視(東北楽天ゴールデンイーグルス~ルートインBCリーグ・武蔵ヒートベアーズ選手兼任コーチ)がエースだった時に、佐古という選手がいたんですが、彼は1球目をエラーしたとしても、2球目は絶対にエラーしない。気持ちを前面に出しつつ同じ失敗を絶対にしない。彼は最後の夏でも攻守に一番の活躍をしてくれました」。これが理想の姿である。

 

 ちなみに昨年6月には、27連続ノーエラーを課すシートノックや、10分間で区切って一度ダッシュ系を入れ、息の上がった状態で続行する紅白戦も導入した。すべては「平常心でない状態=緊迫感」を練習から出すため。「緊迫感のある中で自分も守備がうまくなった」小園の言葉も、そういったベースがあってこそである。

 よって1年生によって行われたランナー付きノックでも1年生たちには公式戦さながらの緊迫感が張り詰めていた。必死になってボールを追い、走り、声を出す。その先に見えるレギュラーを目指し、ネクストヒーロー候補生たちはユニフォームを汚して、アピールを続けていた。

冬の修正と「報徳魂」で夏の頂点へ

 とはいえ、勝負の世界は実に厳しいもの。昨年は夏の兵庫大会準決勝で神戸国際大附に1対2、秋の兵庫県大会3回戦では明石商に1対4。名門には2季連続甲子園出場を逃した歴然たる事実が突き付けられている。

 「秋は『負けないチーム』ではなかった」(大角監督)。そこでこの冬、報徳学園はセンターラインの強化に着手した。捕手には競争を促し、4つのポジションでコンバートを敢行。特に中堅手は秋の兵庫大会とは全く違った選手が入りそうだ。

 「この冬は個の能力を上げ、身体を作ることに割り切った練習ができている。あとはそれが成果として実感できるようにしたい」報徳学園では「松坂世代」の捕手として1997年春から4季連続甲子園を経験。立命大では高校に続き主将も歴任し、14年間コーチ・部長として研鑚を積んできた指揮官が近未来の展望を述べれば、小園ははっきりとその最終到達点を発した。

 「夏は全国制覇します」。その土台を完全なるものとするために。報徳学園は基礎を大事に、試合と練習を直結し、そして「報徳魂」を持って武庫川べりの冬を駆け抜ける。

(取材・文=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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