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通算180本塁打のスラッガー・浅村栄斗(東北楽天)が大阪桐蔭に入学した意外なワケ

2020.03.07

 

 現在、数多くの逸材をプロ野球に輩出する大阪桐蔭。その中でトップレベルの活躍を見せているのが、浅村栄斗(東北楽天)だ。2013年に110打点を挙げ、最多打点を獲得。2018年は127打点を挙げ、5年ぶりの打点王を獲得し、10年ぶりのリーグ優勝を達成した。2019年に東北楽天に移籍し、自己最多の33本塁打を記録。現在、通算180本塁打、通算1317安打を記録し、いずれは2000安打を狙える大打者へ成長した浅村。そんな浅村の高校時代について名将・西谷浩一監督に語ってもらった。

努力家の兄の存在が大阪桐蔭入学につながった

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大阪桐蔭高校時代の浅村栄斗(東北楽天)

 2005年夏、甲子園ベスト4入りし、全国トップレベルの実力を発揮した大阪桐蔭。当時から大阪桐蔭は選手が行きたいから必ずいけるチームではなく、大阪桐蔭の指導者が合否を判断し、1学年20人程度の入学者を決める。常に全国制覇を目指している西谷浩一監督なので、当然、中学生を見る基準も厳しくなる。その目線だと、中学時代の浅村の評価は、「良い選手だけど、争奪戦になるまでの選手」ではなかった。

「平田(良介・中日)、中田(翔・北海道日本ハム)、森(友哉・埼玉西武)が当時からプロに行く光るものを持っていましたが、逆に浅村は目立たないほうの代表例でしたね」

 そんな浅村と大阪桐蔭が縁を持つきっかけになったのは兄・展弘さんの存在があった。
「浅村のお兄ちゃんは、中村(剛也・埼玉西武)、岩田(稔・阪神)と同級生でした。努力して一般で入ってきた選手でした。残念ながらベンチ入りはできませんでしたが、とても努力家で、チームのために尽力してくれました。その努力が奈良産業大で花開き、首位打者とベストナインを獲得したんです」

 中学3年の時、浅村父が西谷監督に連絡して、浅村のプレーを見て、入学させることを決めた。
「中学の時点では、プロに行くような選手にはまだなかったです。実際に努力家のお兄さんの存在がなければ、見に行くことも、合格させることもなかったかもしれません」

 入学すると、浅村の身長が伸びていることに気づく。日々成長している姿を見て西谷監督も楽しみな選手に映った。
 1年秋には内野手が少ない事情もあり府大会からベンチ入り。だが、「まだプレーが雑でした」と判断され、近畿大会からベンチを外れ、選抜でも出場がなかった。

 しかし夏にかけて打撃が急成長。まだ下位だったものの、7割近い数字を残し、プチブレイクを果たす。

 さらなる飛躍と2年連続の選抜を目指して臨んだ秋季大会だったが、PL学園に7回コールド負けを喫してしまう。厳しい冬の練習に入ったが、浅村は甲子園出場とプロ入りを目指して、練習に取り組んでいた。そしてターニングポイントとなった出来事があった。

[page_break:プロの先輩・西岡剛のメッセージが浅村を変えた]

プロの先輩・西岡剛のメッセージが浅村を変えた

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大阪桐蔭・西谷 浩一監督

 大阪桐蔭OBはプロ・アマに限らず、多くの選手がグラウンドに帰って練習を行う。その期間は西谷監督は現役選手にとって大きなモチベーションになると話す。2007年オフ、当時、千葉ロッテのスタープレイヤーだった西岡剛(現ゴールデンブレーブス)もグラウンドに訪れた。

 西岡は練習をする中、プロ志望の浅村の動きをつぶさに観察していた。そして直接指導ができないため、西谷監督を通じて
「西岡は『プロにいきたいけど、今のままでは厳しい。プロはそんな甘いところではないよ』と話したんです。そのことを話してから浅村の意識が大きく変わりましたね。夏の急成長につながったと思います」

 そして最後の夏は甲子園で大爆発。打率.552を記録し強打の1番打者として活躍。華麗な守備を見せる大型遊撃手として評価をグングン高めていき、埼玉西武から3位指名を受け、プロ入りの夢をかなえた。西谷監督は
「お兄さんと西岡の存在がなければプロ入りはなかったかもしれません」と振り返る。改めて浅村は人に恵まれた選手だといえるだろう。

 西谷監督は浅村のプロ1年目、ブレイクを予感させるプレーがあったという。それはルーキーイヤーのフレッシュオールスター(札幌ドーム)だ。
「第1打席はショートゴロでしたが、当てに行ったものではなく、しっかりと振っているんです。これはすごいことで、高校生が大学以上のステージにいくと、打撃がどうしても小さくなる。プロは高校と比べると5段階上ですから、やはりそうなりますよね。ただ浅村は空振りを恐れず、高校時代よりもスイングが大きくなっていました」

 この試合は無安打に終わったが、西谷監督の目論見通り、浅村はプロ5年目の2013年に打点王を受賞し、現在は通算180本塁打を放つスラッガーまでに成長した。ここまでの活躍について、
「あの1年目の振りは西武さんの育成スタイルだと思いましたし、これまでの活躍は西武さんに育ててもらったものだと思います」

 オフにグラウンドに訪れる浅村を見ると、「年々、体が大きくなっていますね」と体格面の成長ぶりに驚く。

 昨年、プレミア12代表にも選ばれ、世界一に貢献した浅村について、「子供たちにとっては憧れの大先輩なので、これからも子供たちが喜ぶような選手であってほしい」とメッセージを送った。

 2008年夏の甲子園で魅せた浅村のパフォーマンスは世代トップレベルとも呼べるような活躍だった。しかし大阪桐蔭に入るまでのエピソードを聞くと、トップレベルに上り詰めるには「志の強さ」が一番大事なことだと教えてくれる。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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