<2025年全国高校野球選手権愛知大会:豊橋東12―1猿投農林(5回コールドゲーム)>◇29日◇1回戦◇豊橋市民球場

 豊橋東は、前身は明治時代に開校した豊橋高女で、今年で創立120年という歴史を有する伝統校だ。地域では愛知四中~豊橋中~時習館に対する人気校でもある。野球部としても、かつて、筑波大を経て中日ドラゴンズで活躍した藤井 敦志選手などを輩出している。今春の東三河地区一次リーグでは1勝3敗ともう一つ振るわず、二次の順位決定トーナメントへ進むことができなかった。昨秋も、一次リーグを突破できなかったため、この夏にかける思いは強いであろう。藤城賢監督は、「ここへきて3年生がきちんとまとめてきた。そういうことができる生徒たちだと思っています」と信頼している。

 この日は、先発した野口 雄翔投手(3年)は、4イニングを投げて4回に打たれた二塁打一本のみで無失点に抑えた。その後も、豊橋東の投手陣はしっかりと投げて継投の完封。

 打線も、毎回得点で加点していった。3番藤井 吏翔選手(3年)は、4打数4安打で二塁打2本。打点も3と大活躍だった。4イニング12安打を放ち12点をもぎ取った。

 豊橋東の藤城賢監督は、試合後選手を集めて一言かけるのを常としているが、トーナメントの大会の場合、勝ったら「次だね」と、声をかけるようにしている。この日もそのひと声をかけたようだ。そして「3年生を全員出せたのはよかった。点差が開いたら、余裕を持ってそういう使い方もできますからね」と、喜んでいた。

 猿投農林は農林校という学校の立場上、今の時代は生徒確保もなかなか困難なところなのだろう。それでも、しっかりとチーム構成ができるくらいの部員は維持されてきている。昨秋からの新チームも合同チームではなく単独で組むことができて大会に参加してきた。千葉経大付で質の高い野球を経験してきた渡邉 健吾監督が、しっかりとした丁寧な指導でチームを育ててきていると言えよう。昨秋は西三河地区予選で勝つことはできなかったが、この春は岡崎商に乱戦の末ながら勝利を果たした。

 比較的、部員が集まっていることに関して渡邊監督は、こう言っている。

「特に中学を回って勧誘するということはしていないのですが、猿投農林で、みんな楽しく野球をやっていることを、SNSなどで発信しておくことで、それを見た中学生が関心を示してくれるということで、集まってきてくれています」

 SNSは、基本的にはマネージャーが管理しているのだが、その内容に関しては渡邉監督が主に書いているという。こうしたマメな作業の成果もあって、野球未経験者も入部してくることがあると言う。「ボクは、体育教員ですから、できない子に呈してできるように教えていくことに喜びを感じます。全国で、どうやって一つでも上に行くのかということを目指してやってきましたが、今は、こうして地区大会で一つ勝つことの難しさを感じながら、その一つを勝つ喜びを得ることの方があっているような気がします(笑)」と、語っていた。高校時代には、丸 佳浩外野手(現・巨人)が1年下にいて、甲子園でいかに一つでも多く勝つのかということを目指してきていた。しかし、今は地区大会やブロック予選での一つの勝ち得ることの喜び、それを生徒たちと味わいたいという思いである。

 この日は、試合ではチームとしてはあまりいいところは見せられなかった。それでも、ひたむきに楽しく野球をやっていこうという姿勢は十分に示すことができたのではないだろうか。コールドの敗戦ではあったが、秋の新チームへ向けては、十分に価値のある戦いだったのではないだろうか。