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”学校の品位”を問われ出場辞退、選考委員がモメて「議論4日間」…センバツ選考 「本当にあった変な話」

2024.01.25


かつては前年優勝校の特別枠もあった

今年3月18日開幕(阪神甲子園球場)の第96回選抜高校野球大会(センバツ)から、出場枠が東北と東海は1枠増え、中国・四国の追加の1枠がなくなり、21世紀枠も1枠減った。このように、今はセンバツの出場枠を事前に知らされているが、かつてはそうではなかった。

まだ、インターネットなどなかった昭和の時代、一般の高校野球ファンはセンバツの出場校が決まる選考委員会の日の夕刊で、地域ごとの出場枠を知り、夕方のニュースで出場校を知った。

70年代末の野球雑誌のセンバツ出場校の予想記事をみると、前年の出場枠が書いてあるだけだ。記念大会で出場校が32校から36校に増えた98年の第70回大会の「サンデー毎日臨時増刊」のセンバツ大会号に書かれた選考経過を読むと、出場校を決める選考委員会では、まず32校の出場枠は前年と同じとし、秋季大会の内容から北海道、近畿、中国、九州に4校の増枠分が振り分けられたとなっている。20世紀のセンバツは、出場枠が正式に決まるのは、選考委員会の当日であった。

センバツは1924年に始まるが、そもそも戦前は秋季大会などなく、地域別の配分という発想はなかった。アマチュア野球の有力者たちが集まり、地域性に関係なく、強い学校を選ぶ。愛知県や和歌山県からは1大会で4校選ばれたこともあった。

戦前の旧制中学は5年制。1930年代ごろの夏の地方大会の参加校数は600校台であったが、地域的に実力の差は大きかった。力のある学校は限られており、有力校の招待試合や選考試合などを通して力をチェックし、決められたようだ。ただ選考委員会の議論が紛糾することもあり、決定に4日間を要したこともあったという。

なお、戦後間もない1948年までは、前年度優勝校の優先枠もあった。ただし「前年度選手の3分の2以上が卒業した場合は、その出場権を選考委員会に付し、出場の可否を決定する」となっている。3年制ならば、この規定に該当する学校は多いだろうが、47年までは5年制の旧制中学であったため、これに該当して審査の対象になったのは1度だけで、そのチームも前年の優勝チームのバッテリーが残っていたので、問題なく選出された。

飯田長姫の優勝がセンバツのあり方を変えた

戦後になると、各都道府県の高校野球連盟が整備され、秋季地区大会も行われるようになった。また12月以降の冬場を非シーズンとして試合が行われなくなったので、必然的に、秋季大会の結果が重視されるようになった。といっても全国からあまねく代表が選ばれたわけではない。

かつては北海道、東北、北陸といった寒冷地は、ほとんど選ばれなかった。今日のように室内練習場があるわけではなく、交通も新幹線はもちろん、高速道路網なども整備されていなかったので、寒冷地はまさに雪に閉ざされていた。

そうした寒冷地にありながら、1928年の夏の甲子園大会で優勝した松本商(現・松商学園)は例外的な存在であった。54年のセンバツ第26回大会では、松商学園のある長野県から飯田長姫(現・飯田OIDE長姫)が出場した。全く無名の飯田長姫であったが、身長157センチで「小さな大投手」と呼ばれた光沢毅の好投で、強豪を次々と破り優勝した。

飯田長姫の優勝は、寒冷地を冷遇していた、これまでの選考を見直すきっかけになった。北海道は関係者の努力により38年の第15回大会から出場しているが、これまで1度も出場したことのなかった東北からも、飯田長姫が優勝した翌年から出場するようになった。さらに57年の第29回大会では、王貞治投手を擁する早稲田実業(東京)が優勝し、優勝旗が初めて箱根の関を越えた。

そして第30回大会からは20校を基準数とする地区割りが決まった。これは、北海道・東北2、関東(東京を含む)3、中部(北信越を含む)3、近畿6、中国2、四国2、九州2といったもので、第30回大会は23校が出場したので、増えた3校は、中部、近畿、九州に振り分けられた。なお関東の3校のうち2校は、早稲田実業、明治という東京勢だった。

かつてのセンバツは、近畿と東京が優遇されていたのは確かで、東京決戦となった72年の場合、出場27校のうち、関東が4校、近畿が6校で、関東のうち2校は優勝した日大桜丘、準優勝の日大三であった。

昔は尋常じゃないぐらい厳しかった出場校の「品位」

センバツの出場校は、83年の第55回からは32校になり、その後は記念大会などを除けば、この出場校数が定着した。20校の基準数から出場校数が増えるたびに出場枠が、各地域に振り分けられた。ちなみに、第55回大会の地区別の枠は、北海道1、東北2、関東4、東京2、東海3、北信越2、近畿7、中国3、四国4、九州4だった。この大会は、池田が前年の夏に続いて優勝しており、四国に多く割り当てられている。そして、2000年の第72回大会では、北海道1、東北2、関東5、東京2、東海3、北信越2、近畿7、中国3、四国3、九州4で、第55回大会と比べると、関東が1増、四国が1減になった以外は、変わっていない。

なおセンバツでは、秋季大会の結果が良ければ無条件で選ばれるわけでない。78年に発行された「別冊1億人の昭和史 センバツ50年~大正13年から半世紀の全記録」(毎日新聞社刊)で、当時の日本高校野球連盟会長で、その絶対的な存在ゆえに「佐伯天皇」とも呼ばれた佐伯達夫氏は、「『センバツ』は高校生らしい『品位』と『校風』を競う大会である」と記している。

もっとも当時の野球の強豪校には、地元ではガラが悪いと評判の学校もあり、「どこが品位だ」と言われる学校もあったが、この規定は出場有力校には大変なプレッシャーになっていた。実際、野球部とは関係のない教師の飲酒運転で出場できなかったこともあり、地元から甲子園に移動する途中で、野球部と関係のない生徒の不祥事で出場辞退となったケースや、一般生徒の不祥事が開会式の前日に明らかになり、開会式当日の朝に出場辞退を表明したケースもあった。

2000年以降も野球部員の不祥事で出場辞退になったケースはあるものの、連帯責任への疑問や批判もあり、今日では、可能な限り出場の機会を奪わない方向に向かっている。

この記事の執筆者: 大島 裕史

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