謎多き準硬式野球の世界!使うボールは「見た目は軟式、中身は硬式」<新連載・田中裕毅の『ジュンコードットコム』>
野球界は硬式、軟式の2つがあることは、みなさんもご存じだろう。実はもう1つ、可能性に満ち溢れた知る人ぞ知る世界、「準硬式」がある。
2023年のドラフトでオリックスから5位指名を受けた高島泰都投手(滝川西出身)。社会人野球の王子からの加入で、即戦力右腕と評価されているが、実は明治大学時代、準硬式の世界で過ごしてきた選手である。
ほかにも、中京大の準硬式出身、道崎亮太投手(東邦出身)が独立リーグ「⽇本海リーグ」の富山サンダーバーズへの入団が決まっている。
隠れた逸材が潜む準硬式の世界。2023年は甲子園で大会を開催するなど、その裾野は徐々に広がりつつある。
この「準硬式」の世界の面白さをこの連載ではお伝えしたい。
準硬式で使うボールはどんなもの?
硬式・軟式・準硬式……。違いはボールにある。
そもそも準硬式の試合で使われるボールはどんなものなのか。
なかには重さや大きさが硬式球と同じで、構造が空洞になっているKボールと同じものと考える人もいるだろうが、球の構造に違いがある。
表面そのものはゴムで覆われている。だから硬式球のように縫い目というものはなくて、見た目は軟式球だ。しかし中身は、以下の条件に則して適度にコルクの粉末と樹脂を混ぜて糸を巻き付けた芯が詰まっている。硬式球とほぼ同じ構造なのだ。
直径:71.5~72.5cm
重量:141.2~144.8g
反発力:50.0~70.0cm
※参照:全日本大学準硬式野球連盟
まとめると、「見た目は軟式、中身は硬式」。それが準硬式球である。だからどちらの要素も詰まっている球であるところから準硬式野球には「ハイブリッドベースボール」と別称もある。
球の違いは分かった。でも大事なのはプレーの感覚だ。特に表面がゴムになり、縫い目もなくなったことは投手にとって様々な影響がある。硬式経験選手たちはこう話す。
「どうしても縫い目がない分、指先でかけにくい」
「なかには硬式と同じ感覚で変化球を投げられない」
事実、硬式に比べ、およそ5キロ球速が出にくいと言われている。こう書くとネガティブな印象を持ってしまうかもしれない。しかし、準硬式の利点は体への負担の軽さにある。
上述の通り、準硬式の重量は140g前半。硬式球は141.7g〜148.8gで、数字ではあまり差がない。しかし、実際に投げてみると、準硬式球は軽く感じる。実際、強豪校出身の選手がケガを抱えていたことがあって、大学準硬式を選択するケースは多い。体への負担を減らしながら、準硬式の舞台で活躍した選手を、私もたくさん見てきた。
また球速が出にくいと言われているものの、取材をしてきた中で、ほとんどの選手がスピードアップに成功している。なかには13キロも最速を更新する選手が現れるなど、努力次第では、十分適応できるのだ。
一方でバッターは硬式と同様、金属バットでプレーすることが許されている。もちろん、高い意識を持つ選手は木製バットを使っている人もごくわずかいる。ただほとんどが金属バットでプレーしているので、正直、飛距離は出やすい。
とはいえ、一番は手にしてプレーしてみることだ。硬式よりもずっと手軽に、楽しむことができる。また、準硬式の試合もぜひ見てもらいたい。その迫力に驚くだろう。
取材・文/田中 裕毅(準硬式野球評論家)
小学3年生から中学生までは軟式野球。高校での3年間は硬式野球をプレー。最後の夏は控え捕手でベンチ入りを果たす。
大学から準硬式野球で3年間プレー。大学2年、3年生のとき、チームは清瀬杯大会に出場し、自身はベンチ入り。さらに3年生の1年はチームの主務として、選手登録やリーグ戦運営に携わる。特に春季リーグはリーグ委員長として、試合日程の調整をはじめとした責任者を任される。