大阪桐蔭vs近江
前田悠伍伝説の始まり。決勝戦でも快投を見せ、防御率0.00で終える!
前田悠伍(大阪桐蔭)東京スポーツ/アフロ
<第94回選抜高校野球大会:大阪桐蔭18-1近江>◇31日◇決勝◇[stadium]甲子園[/stadium]
決勝戦は圧倒的なスコアとなったが、誰に焦点を当てるのか。やはり涼しい顔で近江(滋賀)打線を抑えた大阪桐蔭・前田悠伍投手(2年)しかいない。
先発を告げられたのは決勝戦当日。近江打線の印象について前田はこう語る。
「粘り強い打線という印象がありましたので、粘って最後に甘い球を打たれるので、コースに投げ切ることを意識しました」
滋賀県出身で、湖北ボーイズから評判だった前田。負けられない思いがあった。
「決まったときから地元のチームでしたので、絶対に負けられないと思いました」
この日も投球が冴えわたる。
高回転の140キロ前後の直球に、右打者、左打者ともに投げ分けができる魔球・チェンジアップであっさりと空振りを奪う。ボール先行になることも少なく、ボール先行になってもすぐに立て直し、2ストライクに追い込む。追い込んでからは前田の勝ち。コーナーギリギリに直球、スライダー、チェンジアップを投げ込んであっさりと三振に奪う。コーナーギリギリに決めるスライダーはずっと練習をしてきたようだ。それを公式戦の場で表現できるのは、素晴らしい。
7回を投げ、11奪三振。1点を失ったが、エラーによる失点で自責点は0。今大会13イニングで、23奪三振、防御率0.00の快投は見事だ。
テンポも素早く、相手の間合いにさせない。かといって同じリズムではなく、間合いを変えながらじっくりと投げることができている。
昨年、防御率0.00でセンバツ甲子園優勝投手となった石田隼都投手(東海大相模ー巨人)のような高度な投球術を高校2年にして実現している。
「同じテンポではなく、少しずつ変える。そうすれば三振に繋がると思っています」
またこうした好投は正捕手の松尾汐恩捕手(3年)の存在が大きい。
「自分の投げたい球が松尾さんとほぼ同じで、気が合うといいますか、強気な気持ちが似ていると思うので、気持ちの部分を引き出してくれていると思います」
松尾さんから掛けられた言葉で印象的な内容がある。
「気持ちで行けということですね。三振を取る球の時は大きい声で呼んでくれるので、そういう声やジェスチャーは心に刺さるので感謝の気持ちです」
確かに松尾は大きなジェスチャーをしている。前田の快投は松尾との共同作業、地道な投球練習から成り立っているといえる。
冷静なマウンド裁きに多くの高校野球ファンが驚いている。前田は平然と語った。
「自分に与えられた試合を投げ抜く。自分はマウンドに上がったものがエースだと思うので、ベストを尽くすじゃないですが、できることをすべてを出し切った感じです」
泰然自若に自分のパフォーマンスを表現する。怪物・前田悠伍は、残り1年半。どんな伝説を作っていくのか。
[page_break:近江、決勝戦大敗。投手育成が急務も信頼を勝ち取るのは投手陣の心がけ次第]近江、決勝戦大敗。投手育成が急務も信頼を勝ち取るのは投手陣の心がけ次第
山田陽翔(近江)東京スポーツ/アフロ
<第94回選抜高校野球大会:大阪桐蔭18-1近江>◇31日◇決勝◇[stadium]甲子園[/stadium]
第94回選抜高等学校野球大会の決勝戦は大阪桐蔭(大阪)が18対1で近江(滋賀)に勝利した。近江は多くの課題を背負う試合となった。
改めて近江の課題がつきつけられる決勝戦となった。前日の試合で170球を投げ、さらに死球を受け、打撲の山田陽翔投手(3年)が先発。足の状態を見ながら、多賀監督と話をして先発が決まった。
しかしブルペンからボールが走らない。それはマウンドになってもほとんどが130キロ台。これまでのセーブではなく、疲労の影響でストレートが走らないものだった。そして3回途中まで投げて4失点。相手の主砲・松尾汐恩捕手(3年)にホームランを打たれたところで降板。この降板は山田が直訴したものだった。
「あそこで降板したのは、これ以上迷惑をかけられないので、監督に『交代してほしい』ということを伝えました。あの打者、松尾くんのところで最後にしようと思っていたところで、打たれました。あのあたりまでだったかなと思っていました」
そして多賀監督は今回の決断を間違ったと語る。
「先発に山田を起用しましたが、結果的に今日は無理だったということで、回避すべきだったと思いました。ここまで来たので何とかという気持ちがありましたが、彼の今後、夏はもちろん、将来を見たら、先発は間違いだったと思います。
普段からの主将としてチームの大黒柱として、責任感から来る気持ちで先発を志願しましたが、ブルペンの状態から本来ではなかったと本人も言っていて、3回にホームランを松尾君に打たれたときに私へ交代の連絡があったので、彼にとっては大事に至らなくてよかったと思います」
ある意味、45球で終わって良かったと思う。18失点してしまったが、山田自身が自分の才能を守る上でも良い決断でもあったし、今後の近江高校にとっても。
多賀監督は今後の課題を語る。
「改めて野球は投手だということですね。それを甲子園で何度も経験している中で、今日も相手を抑えられない。守備でも投手を盛り立てられず、ちぐはぐで一方的になったので、夏に向けて山田に次ぐ投手を育てることが決勝戦で鮮明になったので、しっかり育てたいです」
多賀監督は山田の精神力の強さ、人々の魂を熱くさせるような凄い投手と何度も絶賛をしていた。それは間違いない。こういう状況でも山田は「自分たちに力がまだまだなくて、決勝まで来て体力がない試合で足りないものだらけだったんで、見つめ直して夏もう一度挑戦したいと思います」と課題を語るところは頭が下がる。
山田も主将として、投手陣の台頭を期待する。
「投手1人では難しいことを痛感しました。あとは近江打線は集中打が出るので、強みを生かせる試合展開、攻守がかみ合うような試合運びができればと思います。あとは選手同士で言うのが一番の刺激なので、高い意識をもつ環境をもって、高い目標に向かっていくのが鍵だと思うので、選手の意識だと思います」
もし近江がセンバツに出場していなければ、第二の投手育成移行はもっと遅かったかもしれない。これから始まる県大会では、第二投手育成へ向けてアクセル全開になるのではないだろうか。
多賀監督の信頼を勝ち取り、厳しい場面を投げられるまでの投手になるには、山田以外の投手陣の心がけ次第である。
(記事:河嶋 宗一)