試合レポート

近江vs浦和学院

2022.03.30

野球小僧がそのまま高校3年生になったよう。多賀監督、11回2失点の大黒柱・山田を絶賛。初の決勝進出へ

近江vs浦和学院 | 高校野球ドットコム
山田 陽翔(近江)東京スポーツ:アフロ

<第94回選抜高校野球大会:近江5-2浦和学院>◇30日◇準決勝◇[stadium]甲子園[/stadium]

 絶対的なエースを擁する近江(滋賀)と、投手陣の層の厚さならば全国トップクラスの浦和学院(埼玉)の一戦。

 近江のエース・山田 陽翔投手(3年)は昨夏、滋賀大会、甲子園の熱投の影響で肘を怪我した。あれほど短期間で球数を投げ、力みまくった投球フォームだったこともあり、ケガをしたのはある意味、当然だったといえる。山田は故障前の投球フォームはリスクが高いと、フォームを改善。さらに、力感を抑え、省エネ投球ができるようになった。山田と多賀監督の間で、あるエピソードがある。多賀監督はこう振り返る。

「冬の成果が出るのは4、5、6月。僕はセンバツに選ばれると思ってましたから、山田には『センバツは5試合お前で行く』と年明けの最初の練習の時に伝えた。山田も『今取り組んでいるフォームができれば絶対にいけます』と。やってくれると思っていた。それに応えてくれている」

 最初は選出漏れとなったが、代替出場で、決勝まで勝ち上がってきた。しっかりとオフシーズンにフォーム固めと、トレーニング、投球練習に励んでいた証拠だろう。

 立ち上がりは静かな入りだった。130キロ後半の速球、130キロ前半のスライダー、ツーシーム、フォークなどを駆使し、浦和学院打線を3回まで無得点に抑えていた。4回表、2本の適時打を浴び、2点を失うが、その後はギアを上げる。

 5回表には、140キロ前半の速球、切れ味鋭い変化球を武器に2三振を奪うなど、追加点を許さない。多賀監督も「調子が上がってきた」と手応えをつかんできたところで、5回裏に死球を受けた。それでも切れ味鋭い変化球を軸とした投球術で、浦和学院には単打を与えても連打を許さない投球で無失点投球を継続した。

 5回裏に足に死球を受け、マウンドに上がるまでは足を引きずりながらも投げる時になれば、気合で浦和学院に立ち向かう。山田はこう語った。
 「強気で行くしかないと思ったので、捕手の大橋には『いつも通りで大丈夫や』と声をかけた。大橋も強気のサインを出してくれた」と感謝する。

 打線もそれに応え、7回裏にスクイズで同点。そして山田が「大橋のことをすごく信頼している」と語る正捕手の大橋 大翔(3年)が延長11回に、カーブを捉え、左翼席へサヨナラ3ランを放ち、見事に決勝進出を決めた。

 多賀監督は試合後の取材で、
 「甲子園という舞台が彼をそうさせていると思うのですが、彼には何度も感動させられる場面が多くて、甲子園の試合中にこんなに涙が止まらない試合はないです」と涙ながら山田を絶賛した。

 優勝候補である浦和学院を破ったことについて、「明日を考えず『今日、この一戦に』という思いでしたが、今終わってこの準決勝という舞台で素晴らしいゲームをできたということが何よりも嬉しいです。格上のチームに束になって魂でぶつかってくれたことが嬉しい」
 選手たちを称え、さらに野球選手・山田についてはこう表現した。
「魂がこもったマウンドさばき。野球小僧がそのまま高校3年生になった、そんな彼のマウンドさばきは素晴らしいと思います」

 甲子園で山田を見た高校野球ファンすべてがそう思うだろう。山田は西宮市内の病院で診察した結果、左足関節外果部の打撲症と診断された。骨には異常がなく、決勝の出場については、当日朝の様子をみて判断する。

 準決勝で170球投げた影響で、規定により山田が決勝戦で投げられる球数は116球。文字通り総力戦で大阪桐蔭に臨む必要がある。


宮城抜きでも大接戦。浦和学院の投手力の高さ、チーム作りの正しさを実証する準決勝に

近江vs浦和学院 | 高校野球ドットコム
金田 優太(浦和学院)

<第94回選抜高校野球大会:近江5-2浦和学院>◇30日◇準決勝◇甲子園

 試合には敗れたが浦和学院(埼玉)のチーム力の高さ、投手力の高さは、存分に発揮した。

 ここまで3試合登板の宮城 誇南投手について、森大監督は起用する考えはなかった。

「今日は宮城については投げさせない。それは最初から決めて、それ以外の投手で頑張るんだぞ、ということで準備させました。理由は、コンディションの問題でして、彼は春先、他の投手よりコンディションづくりで遅れていたので、決勝まで行くなら4戦目は投げさせないつもりでした。選手には準々決勝に勝って、夕食後のミーティングで全員に伝えました。そこで先発は浅田と話していました。だから準決勝は他の投手で勝つぞ、ということで準備させました」

 先発となった浅田 康成投手(3年)は、この冬の練習や紅白戦、練習試合でしっかりとアピールし、ベンチ入りを勝ち取った投手だ。コンパクトなテークバックから135キロ〜140キロ前後の快速球を投げ込む。両サイドにきっちりと投げ分ける。120キロ前半のスライダーの切れ味が素晴らしく、ゲームメイクができる。先発4回まで1失点に抑える力投を見せ、かなり収穫があったといえる。

 5回表からは左腕・芳野 大輝投手(3年)が登板。冬場の練習からでも伸びのある直球を投げていて成長が見えた。キレの良い130キロ前半の速球を投げ込んでいたが、初登板からか緊張が見えた。山田 陽翔投手(3年)に死球を与えたのを見て、森監督は「バランスを崩していたので」と降板を決断する。

 遊撃手の金田 優太投手(3年)が登板となった。金田は右スリークォーターから常時130キロ後半の速球、スライダー、カーブを投げ分け、ゲームメイクした。延長11回裏にサヨナラ3ランを打たれたが、投打の働きは文句なしだった。森監督は甲子園で投げることに価値があると語る。

「私も現役時代、背番号10で先発しましたが、甲子園で先発することにどれだけ価値があるか。浅田、芳野、頑張った金田は感じられたと思います。もちろん、宮城も投げられず、山田は4連投ということで悔しい思いがあると思うので、もう1度みんなで夏に向けて準備して、夏の甲子園に戻ってきたいと思います」

 監督に就任して新たな取り組みを行い、選手たちはメキメキと成長。それを実感しながらも相手の山田を見て、全国制覇するための課題が見つかった。
「超攻撃野球というテーマ、走攻守で最後まで逃げない姿勢でやり切ったことは、今後の夏に繋がった大会だと思います。

 春のセンバツを前に、すべては夏のためだと話していました。だから春はベンチを含めて全員で勝ち取るんだぞと。その点では今日は良かったと思いますし、良い課題になりました。特に監督になって半年ですが、監督の目で接して、取り組みは甲子園で発揮できましたが、最後に勝ち切るには山田君のような気迫のこもった選手に、気持ちというか気迫が最後に決めることを感じましたし、それを感じさせてくれた甲子園は素晴らしい場所でした」

 そして山田についてこう絶賛した。
「170球投げても球の質を落とさずに投げ切れるのは、夏の経験者であり、世代のトップクラスだと感じました。
 5回に死球が当たってから山田君はギアが上がりました。気迫が違いました。
 うちの選手も最後まで食らいつきましたが、同じ野球人として彼の気迫に感動しました」

 

 多くのことを得た浦和学院。選手の将来を考えながら大会を通して成長していくナインの姿は頼もしかった。ハイレベルな競争を経て、どんな選手たちが夏の大会でグラウンドに立つのか、楽しみだ。

(記事:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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