西尾東vs科技高豊田

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テンポのいい投球が特徴的だった西尾東・柘植君

　科学技術学園高校豊田、通称「科技豊田」は、トヨタ自動車が運営する企業内のトヨタ工業学園認定訓練校というのがベースとなっている。学校のあり方としては、企業内学校というか、そんな形に近いけれども、職業訓練校は学校教育法ではなく、職業能力開発認定法に基づいているので、高校卒業資格が得られない。しかし、高校卒業資格を得られるように同時に科学技術学園高校（通信制）に入学して高校卒業資格が得られるように配慮された学校ということで、特殊とも言える。部活動も参加には積極的で、在校生は必ず部活動に参加することとなっている。過去には、2019年（令和元）春の第140回全三河大会で豊川を下して優勝したという実績もある。

　対する西尾東は、近年躍進著しい西三河の公立校として注目度も高い。ここ10年の間に夏の愛知大会の3度を含めて、県大会でベスト4進出以上が4回。第100回記念大会の東愛知大会では決勝進出を果たして、甲子園出場に手がかかった。そこまでのチームを作り上げた寺澤康明監督が、県の人事異動で今春、西尾東を離れた。そして、後任となったのが、一昨年に一色から異動してきた野田圭佑監督である。「1年間、寺澤先生と一緒にやって、西尾東イズムを出来る限り吸収した」という思いでこの春からチームを引き継いでいる。そして、この秋になって、全三河大会で決勝進出を果たしており、あと一つ勝ってタイトルを獲りたいという思いであろう。

　そんな両校の対決は興味深かった。初回、いきなりどちらも1点ずつを奪って、激しい点の取り合いが予想されるような展開で始まった。試合前のシートノックも、ベンチ前の声出しも非常に元気のよかった科技豊田。その勢いのままというか、いきなり先頭の浅井君が左翼線二塁打するとバントで進めて、3番今野の左越打でかえす。ソツのない得点だった。これに対して、西尾東も先頭の松本が内野安打で出るとバントで進め、3番牧野の右翼線二塁打でかえして同点。同じような形で点を取り合った。

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終盤は掴まってしまったが好投した科技豊田・杉本君

　ある程度、点を取り合う展開になっていくのかと思われたのだが、2回以降、展開はまったく違ってきた。両投手の好投で、試合は引き締まった。西尾東の柘植、科技豊田の杉本、両投手が歯切れよくテンポのいい投球をしていったというところもあったが、両校の守りも難しい打球を巧みに処理するなど、しっかりとしているところを示していた。こうして、1対1で試合は続いていった。

　均衡を破ったのは5回の西尾東。先頭の6番横井が左中間二塁打すると、一死後、志賀も中越え二塁打して二塁走者をかえした。

　さらに西尾東は7回、この回先頭のパウエルが力で運んだ右越えソロで追加点。バットスイングが強いので、打球が当たってから伸びていくという感じだ。右打者ながら、右翼方向で打球が伸びていくのは素晴らしい。そして、この本塁打で勢いづいた西尾東は、なおも失策で出た走者をバントで進め、四球後二死一、三塁となって、1番松本も左翼線へ二塁打してこの回2点目が入った。こうしてリードを3点差と広げていった。

　勢いづいた西尾東は、8回にも3番牧野の左前打から始まって、二死二塁から代走で途中出場していた磯谷の右前打と、近堂の右越え二塁打で2点を追加してリードを決定的なものとした。そして、このリードで余裕も得た柘植は、9回も三者凡退で抑えて西尾東としては大会3度目の優勝に輝いた。

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最後の打者を三振に仕留めて思わずガッツポーズの西尾東・柘植君

　柘植は、「最後の打者は三振を取りに行こうと思っていた」と言うが、その通りに三振で仕留めたのは見事だった。決して球威やスピードがあるというワケでもないのだが、自分で投球のテンポを意識しながら、時にはクイックなども交えながら投げていく工夫をしている。こういう投手が、しっかりと投げていって頑張れるところにもまた、高校野球の面白さというか、無限の可能性があるとも言えようか。柘植は、この試合での好投を自信としてさらなる飛躍を期待したい。「冬には、もっとスピードを上げられるようにトレーニングして、球種ももっと増やしていきたい」と思いを述べていた。

　野田監督は、「この大会では、何が何でも結果を残したいと思っていた」という思いで挑んでいた。それだけに、優勝という最良の形を得られたことはよかったといえよう。「この日は、この大会でも一番いい内容の試合だった」と野田監督は喜んでいたが、「チームとしては、打撃を重視しています。これは、前任の寺澤先生も目指していたことだと思うんですが、それを引き継いでいきながら、何とかいい成果を挙げたいと思っていました。今日のこの結果は、寺澤先生が一番喜んでくれているんじゃないでしょうか」と、全三河大会での3度目の優勝に安堵しながら、強い西尾東を維持していく方向性も示してくれた。この日の結果で、西三河の「公立の雄」という位置づけは十分に示していくことができたのではないだろうか。

　なお、個人表彰もある全三河大会だが、殊勲選手賞としては西尾東の柘植。敢闘選手賞としては科技豊田の杉本が選ばれた。そして、打撃成績としては1位が、この日も8回にタイムリー二塁打を打っている西尾東の近堂で5割ちょうど。さらに、パウエルと志賀と3位まで西尾東勢が続いた。

　このあたりも、野田監督の目指している「打っていきながら相手を崩していく野球」の成果が出ているといっていいのではないだろうか。

記事＝手束仁

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７回に貴重な追加点のタイムリー二塁打を放ち、塁上で拳を握りしめる西尾東・松本君

７回に貴重な本塁打を放った西尾東・パウエル君

優勝ガッツポーズで集合写真の西尾東