大島vs鹿児島工
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好判断が勝機導く・大島
大島・大野 稼頭央
春4強、夏8強に導いた鹿児島大島の2年生左腕・大野 稼頭央に注目が集まる中、より目立っていたのは鹿児島工の左腕・椎原 稜斗(2年)だった。
140キロ超の大野と対照的に直球の最速は120キロ台だが、独特な間合いとテンポで丁寧に緩急をつけた投球で鹿児島大島打線に的を絞らせない。8回までは散発5安打、二塁も踏ませなかった。
椎原の力投に応えるように打線も奮起。3回は二死一塁からけん制悪送球で三塁まで進み、相手のエラーで先制した。8回には一死二、三塁として3番・折小野 隼斗(2年)の犠牲フライで貴重なダメ押し点を得る。
8回まで三塁も踏めず、力投を続けるエース大野を打線が援護できなかった鹿児島大島だったが、土壇場9回裏に、ようやく粘りを見せる。
4番・西田 心太朗(2年)がセンター前ヒット、5番・中 優斗(2年)がレフト前ヒットと連打で続き、6番・前山 龍之助(2年)の送りバントは内野安打となって無死満塁とする。
途中出場の7番・白畑 勝喜郎(2年)が死球、押出しで1点を返し、9番・青木 蓮(2年)の一ゴロエラーで同点に追いついた。なおも続いたサヨナラの好機は生かせず延長へ。
12回裏、二死から粘って満塁とし8番・田邊 瑛吉(1年)の四球押出しで3時間12分の死闘に決着がついた。
鹿児島大島は劣勢の展開を辛うじて覆した。塗木哲哉監督は「選手個々の判断ミスが多かった。打者もきれいに打とうとし過ぎて、本来の打撃ができなかった」は反省や課題が多く見つかった薄氷の勝利を振り返った。
エラーが失点につながり、練習で取り組んでいた内野の連係プレーがうまくはまらず、進塁を許した。打線は緩急を丁寧に使い分ける相手左腕を見極め切れず、8回まで三塁が踏めず攻略の糸口が見出せなかった。奪った3得点は2つの押出しとエラー。タイムリーは最後まで出なかった。
反省しきりの内容の中で、指揮官が唯一勝因に挙げたのは、12回裏の三塁コーチャー・竹山 陸斗(2年)の好判断だった。
二死から粘って一、二塁。7回から竹山の代打で出場した7番・白畑がセンター前ヒットを放つ。通常ならコーチャーは一か八か二走を本塁に突入させることが多い。ベンチの塗木監督も「回せ!」と指示を出していた。
だが竹山は三塁で止めた。「センターはワンバウンドで捕球したから、バックホームで刺すには絶好のタイミング。自分も外野手だから、回してくれた方が逆に『ラッキー』と相手は思うはず」と考えた。センターからは案の定絶好球が返ってきた。微妙なタイミングだが、回していたらクロスプレーでアウトになっていた可能性は高い。二死満塁と好機は継続し、最後は4連続ボールの押出し四球で勝利が転がり込んだ。
外野手としての自分の感性を信じ、勇気を持って下した竹山の判断が、最後の勝機を導いた。塗木監督は「ベンチの指示とは違っていたが、自分の判断がしっかりできたファインプレー」とたたえていた。
(取材=政 純一郎)