試合レポート

京都国際vs敦賀気比

2021.08.26

初登板無失点の京都国際・平野が「MVP」、敦賀気比ナインは涙

京都国際vs敦賀気比 | 高校野球ドットコム
平野順大(京都国際)

◆序盤勝負がポイント

 ベスト4一番乗りへのポイントは、序盤勝負なのではないかと考えられる。

 今大会、敦賀気比は序盤に大量得点を奪い、終盤は失点をしながらも序盤のリードを活かした展開で逃げ切る。先行逃げ切り型のチームだった。この試合でも先攻になったことを考えれば、是が非でも先行逃げ切りの必勝パターンで準決勝進出を決めたい。

 対する京都国際は、右のエース・平野 順大を今大会初先発させた。夏の甲子園のマウンドに初めて上がる平野にとって、立ち上がりで良い投球をしてスムーズに試合に入りたい。逆に打ち込まれるようなことがあれば、敦賀気比にペースを握られる。

 どちらも自分たちのペースに持ち込むためには序盤の攻防が勝利への近道だった。

◆初登板の2年生右腕が真っ向勝負

 平野の注目の立ち上がり、敦賀気比の1番・東鉄心を真っすぐでピッチャーゴロに抑えると、2番・沼田 航も真っすぐでセカンドゴロ。チームの主軸である3番・大島 正樹には、2ボール2ストライクから真っすぐで見逃し三振。武器のストレートで強打・敦賀気比を真っ向からねじ伏せた。

 4回は一死一、三塁のピンチを招いたが、5番・前川 誠太を真っすぐの空振り三振で二死とする。そして6番・小西 奏思は136キロのストレートでショートゴロに抑えた。

 結局5回までで5奪三振、3四死球でゲームを作って同級生のエース・森下 瑠大へバトンタッチしてライトへ回った。

 試合は8回に敦賀気比が5番・前川の適時打と6番・小西の犠飛で2点を先制する。ただ京都国際もその裏、3番・中川 勇斗の押し出しと4番・森下の内野ゴロで2点を取り返す。

 一進一退の攻防の終止符は9回、一死二塁から8番・松下 恵富がライト前へ。この打球処理にもたつく間にランナーが一気に生還して3対2。京都国際が初出場で初のベスト4進出となった。

[page_break:先行逃げ切りをさせなかった2年生右腕]

◆先行逃げ切りをさせなかった2年生右腕

 初出場ながらサヨナラ勝ちを掴んだ京都国際。もちろんサヨナラ勝ちを手にした松下の活躍は素晴らしい。プレッシャーのかかる大事な場面で放ったファーストの頭上を越える一打は、下級生に注目集まる若いチームのなかで、3年生の意地のようなものに見えた。

 ただその意地に繋げたのは、先発・平野が5回まで粘って投げて試合を作ったことが後半戦に繋がった。

 相手は前半に強かった敦賀気比だった。強力打線相手に今大会初マウンドであるにもかかわらず、一歩も引くことなく堂々としたピッチングだった。

 なかでも特に光ったのは真っすぐだ。

 回転数が素晴らしいのか、敦賀気比の各打者がストレート対して空振りをするシーンが多く見受けられた。球速も130キロ後半を計測することが多かった。

 変化球の精度は今後の課題になるだろうが、まだ2年生だ。甲子園で投げて学んだ教訓を活かして、あと1年間活躍するだろう。そんな期待をせずにはいられない2年生右腕が試合を作ったことが、後半勝負に持ち込めたのではないだろうか。

◆不調の京都大会からの修正

 初めての甲子園のマウンドを振り返り、「今日はボールが抜けましたし、変化球でストライクが取れませんでしたので、反省しかありません」と自己評価は厳しい。少しでも長いイニングを投げ、ここまで奮闘した同級生・森下を楽にさせようと強い思いがあったからこそ、投球内容も、投球イニングにも納得していない。

 しかし平野は京都大会では準決勝、決勝の大一番で先発起用されたが、早々に降板するなど本調子からほど遠い状態で京都大会を終えた。そうした情報を踏まえて考えれば、やはり今日の投球は復調の兆しを見せる素晴らしい投球だった。

 甲子園に向けて「それまであまり投げ込みができずに制球を乱したので、まずは投げ込みをしっかりやりました」とブルペンで状態を上げてきた。その時に平野は力感のコントロールを意識したそうだ。

 「投げる際に力んでしまったことで、テイクバックの時に腕が後ろに入ってしまいました。インステップも激しかったので、自分の投球をすることが出来ませんでした」

 平野のフォームを改めて振り返ると、テイクバックが大きいのが特徴的だ。身体全体を大きく使いたいことはわかるが、下半身とのタイミングが合いにくいところもある。敦賀気比戦でも見受けられたが、力んで後ろに入れば腕は遅れやすくなる。

 またインステップをすれば余計に腰を回転させるから、制球をするのは難しいだろう。

 こうした要因を1つずつクリアして甲子園の大事な一戦に仕上げてきた。「甲子園で優勝するためにこれまでやってきたので、勝って優勝したいです」と改めて頂点を目指すことを誓った。3年生、そして同級生・森下のために、平野は準決勝でも右腕を振り抜いていく。

[page_break:平野の予想以上の出来に脱帽]

◆平野の予想以上の出来に脱帽

 北信越地区では負けなしの戦力をもって甲子園ベスト8まで勝ち進んだ敦賀気比。目標の場所まではあと少し届かなかった。東監督は、「選手は頑張ってくれましたが、僕が後手後手の采配と指示出しになってしまったので、それがなければ勝てたのかなと思います」と京都国際との熱戦を振り返った。

 投手の継投や攻撃手段など自身の采配が上手くはまらなかったことを悔やんだ。京都国際戦に向けて森下、平野対策は講じてきたそうだ。しかし「平野君は上手く抑えられてリズムを作らせてしまいました。もう少し崩せればと思いました」と逆に相手を勢いづかせてしまった拙攻を反省した。

 このチームを引っ張ってきた大島主将も平野のボールを打席で見て「真っすぐが球速以上に来ていました。そのなかでも高めが捉えるのが大変で、手が出ませんでした」と見た目以上の平野のボールの良さに苦戦を強いられたようだ。

◆悔しさを来年以降の原動力に

「選抜で負けてから、甲子園で勝つために厳しい練習をやったのに勝ち切れなかった甘さが心に残っています」と鼻をすすりながら大島主将は悔しさを表に出した。

 取材に応じた2年生の上加世田も涙をこらえながら話しているのが印象深かった。今までは当たり前のようにあったこの景色も、大会がなければありえないことだ。負けることは確かに悔しい。目標の日本一が見え始めていただけに敦賀気比ナインの悔しさは一入のはずだ。

 ただ、この悔し涙が今後の原動力になるはずだ。次へ向けて新たな一歩を踏み出してほしい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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