試合レポート

長崎商vs熊本工

2021.08.16

立ち直ったエース城戸の好投で長崎商が69年ぶり歓喜、熊本工はあと1本出ず

長崎商vs熊本工 | 高校野球ドットコム
城戸 悠希(長崎商) ※写真提供=長崎市立長崎商業高等学校 野球部

◆練習試合も実施する間柄の九州勢対決
 高校野球界においては全国区の伝統校としても知られる熊本工。出場49チームの中でも打率が4位に入る打率.428の強力打線がウリのチームだ。

 対するは長崎大会で粘り強さを武器に勝ち上がり、今大会5年ぶり8度目となる長崎商だ。投手陣を中心に競ったゲーム展開で地方大会を勝ち抜いた。

 熊本工としては、粘られないように、強力打線で最初から長崎商を引き離したい。対する長崎商は、熊本工にくっついて終盤勝負というところが、大方の予想だったが、試合展開は逆になった。

長崎商が攻撃力を発揮して熊本工を圧倒
 初回、熊本工は2番・前高 翔太と4番・増見 優吏のタイムリーで2点を奪った。対する長崎商はその裏に3番・大町 航太と6番・松井 心助、そして7番・鬼塚 陸人のタイムリーで3点を奪うという、立ち上がりから慌ただしい試合展開となった。

 3回には熊本工が同点としたが、長崎商はその裏に1番・大坪 迅らのタイムリーで一挙3得点を記録するなど、4回までに8対3とした。

 互いに打線が活発で、このまま打ち合いとなるのではないかと思われた。
 しかし、長崎商の先発・城戸 悠希が4回から立ち直り、熊本工打線を5回まで0点で抑えたところで、マウンドから退いた。

 その後は、長崎大会でも登板機会が豊富な田村 琉登がマウンドに上がる。城戸とは正反対の技巧派のサイドハンドの田村は、6回に2本のヒットを許しながらも無失点で立ちあがると、7回は1点こそ与えたが、大量失点には至らない。

 そのまま田村が最後まで4点のリードを守り抜き、ゲームセット。強打の熊本工のお株を奪う長崎商の猛攻と、投手陣の好投が噛み合い、69年ぶりに甲子園で校歌を流した。

[page_break:投手の復調が試合を落ち着かせた]

◆投手の復調が試合を落ち着かせた
 この試合、長崎商のポイントは先発・城戸の復調にあったのではないだろうか。

 先発・城戸は開きを抑えたフォームから130キロ台の真っすぐと、スライダーやチェンジアップなどが光る本格派右腕だ。しかし立ち上がり、強打・熊本工打線の猛攻を受けて3点を与えた。2回こそ無失点だったが、3回にも1点を失うなど、なかなか安定せずに苦しんだ。

 ただ3点のリードをもらったからなのか、スライダーが低めに決まりだした。ランナーを出しても落ち着きある投球で、4回は熊本工2番・前高 翔太、5回は4番・増見 優吏をともに変化球で打ち取り、併殺打に仕留めた。

 熊本工先発・吉永 粋真も、長崎商打線が捉えていただけに、序盤は落ち着かない展開が続いた。だからこそ、4回から立ち直った長崎商・城戸のピッチングは勝利に繋がる投球だったのではないだろうか。

◆監督と自分の感覚を見つめて
 エースの復調と好投に関して、西口監督は「彼本来の投球に近づいたと思いますので、次に繋げていけると思います」と次戦の好投を楽しみにしているようだった。

 次にもつながるターニングポイントとなった4回だが、西口監督は、緊張をほぐす意味でもこんな言葉を贈ったという。

 「腕を振ってほしかったので、『腕を振っていけ』と声をかけました」

 その一言を受けた城戸は、西口監督からも指摘されていた低めへの丁寧な投球を体現し、試合の流れをたぐり寄せる活躍を見せた。ただ、城戸が修正したのが腕の振りだけではないという。

 「下半身が使えずに上半身だけで投げていました。だから下半身を含めて全身を使って投げられるように心がけるようにしました」

 監督からの一言だけではなく、自身の中で感じたことを冷静に考えて、実行に移す。初めての甲子園のマウンドで慣れないところもあるところで、それができたという成功体験は次戦にも活きるはずだ。初回から城戸本来の投球が見られることとともに、修正能力にも期待をしたい。

[page_break:序盤の攻防で雌雄を決してしまった]

◆序盤の攻防で雌雄を決してしまった
 対する敗れた熊本工は、初回こそ熊本工らしい繋ぐ攻撃を展開した。田島監督は「序盤の失点のなかでも想定外でした。1点ずつならいいよとは言いましたが、ビックイニングは痛かった」と初回を含めた序盤の攻防をターニングポイントに挙げた。

 その上で「2人も力の投手でしたので、『序盤から行くぞ』と言って接戦に持ち込みたかったですが、チャンスで1本を出せませんでした」と相手投手をマークしながらも、想定を超える投球をされたことを悔やんだ。

◆この夏を財産に次の一歩を
 これまで伝統校として高校野球界を引っ張ってきた熊本工の夏は一つ区切りがついた。甲子園での勝利を掴めなかったが、この状況下で強力打線を形成して、甲子園までたどり着いたことは1つの財産となったはずだ。

 下級生にとっては今回の敗戦も財産となるだろう。次の夏へ、この甲子園を経験した選手たちが新たな歴史を刻むことを楽しみにしたい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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