専大松戸vs駿台甲府
センバツ後から専大松戸打線のレベルアップが凄まじい!駿台甲府の好左腕を攻略
本塁打を打った加藤大悟(専大松戸)
今年の専大松戸打線はかなりしつこい。昨秋のスタート時点と比べると、見違えるほど強い。センバツで中京大中京の畔柳 亨丞と対戦が決まり、畔柳を打つべく、しっかりと準備してきた経験がしっかりと生きている。
関東大会初戦の相手は県優勝1位の駿台甲府だ。先発・渡辺 拓幹は常時130キロ中盤の速球、120キロ前後のスライダー、100キロのカーブを投げ分ける本格派左腕で、県大会でも安定した投球を見せ、ゲームメイク能力が高い投手として評判だ。
ただこれまで好投手を攻略してきた専大松戸打線にとっては脅威になる存在ではない。ボール球はしっかりと見極め、ファールで粘りながら、有利な状況に持ち込む。こうなると渡辺は慎重な攻めになるため、ボール球が多くなる。専大松戸は1回裏、二死一、二塁から5番深沢 鳳介の左前適時打で1点を先制。さらに6番山口 颯大の適時打で2点を先制。さらに2回裏にもバッテリーミスの間に1点を追加する。3回裏には9番苅部 力翔の適時二塁打、1番石井 詠己の適時三塁打で5対0。5回裏には8番加藤 大悟の本塁打で1点を追加し、6対0とした。
5回までの攻撃内容はほぼ完璧といっていい内容。先発の渡辺に対し、5回まで102球を投じさせた。持丸監督は「5回まで良かったんですよ。相手投手もややコントロールが良くなかったので、求めていた攻撃は出来ていたと思います」と評価したが、6回以降は無得点。7回裏には一死満塁から無得点に終わった。
持丸監督は12安打を打った打線に対し、下位打線の攻撃内容と2番吉岡道泰の打撃内容に注文をつけた。
「7回の攻撃内容は勿体なかったですね。下位打線から確かに本塁打が出ましたが、彼らに求められるのは勝負どころで状況に応じた打撃をすること。そういった意味でもったいなかったです。また吉岡については2番ではありますが、攻撃的な2番打者を求めているので、当てに行く打撃はしてほしくないですね」
第5打席目に右前安打を放ったが、勝負所で強い打球を打てていない。指揮官からすればもどしかしさはあるだろう。持丸監督は打順で役割を求めるのではなく、選手の特性に応じて求める役割を変えている。吉岡に話を聞くと、主将ということでチームのために尽くしている姿勢が感じられる。ただ1年から鮮烈な活躍をしていた吉岡が求められるのはどっしりと構え、豪快に長打にするパフォーマンスだろう。
専大松戸打線はここまで求められるレベルになったということ。センバツ帰りのチームは結構苦しむ傾向が多く、早期で敗退するチームも多いのだが、センバツの戦いをしっかりと糧にして、ここまでレベルアップできるチームは珍しいといえる。
投手作りの名人・持丸監督も称賛する深沢鳳介の投球術。90キロ台のカーブを武器に駿台甲府打線を12奪三振6安打完封
先発・深沢鳳介(専大松戸)
そして専大松戸の先発は深沢鳳介。[stadium]山日YBC球場[/stadium]のブルペンは外から覗き込める形となっているが、同じ三塁側で試合後の作新学院ナイン、スカウトたちが凝視していた。その時から切れ味抜群のストレートを投げ込んでおり、立ち上がりから常時135キロ前後(最速141キロ)のストレートで、好調時と比べると、ストレートの勢いは物足らないものがある。
深沢が素晴らしかったのは緩急の使い方だ。基本的に120キロ前後のスライダー、120キロ中盤のツーシームを投げ分けるが、この試合では90キロ台のカーブを多様していた。このカーブ、通常よりも10キロ遅くしていた。この試合、ストレートは130キロ台がほとんどだったが、球速差がなんと40キロ。駿台甲府打線はスライダー、もしくはストレートに狙い球を絞っていた打者が多く、このカーブを投げた後のストレートに振り遅れる打者が多く、またストレートのように見えて少し曲げるツーシームの球速は120キロ後半。このカーブを使って速く見せることができていた。
こうした打者の視覚を惑わす投球で、県大会でチーム打率4割を記録したという駿台甲府打線から12奪三振を記録。7回表には無死二、三塁のピンチを招いたが、そのピンチも抑え、6安打完封と一級品の投球術を見せた。
専大松戸は県大会で岡本 陸など多くの投手を起用していたが、この試合だけは深沢はどんな展開でも完投させるつもりだった。夏を見据えて苦しい試合展開でもそれを乗り切る精神的なスタミナが求められる。持丸監督の目から6回以降から疲労が見え、ある程度の失点も覚悟していが、満点の結果を残すあたり、さすがエースである。
持丸監督も深沢に対し、大まかな投球術についてアドバイスをするようだが、こうした創意工夫は深沢が考えたものだという。
「あの子は素直でしっかりと聞く耳を持っている。考えて投球を組み立てできる投手ですし、コントロール、投球について何も言うことがない投手ですね」
そんな持丸監督が求めるのは深沢に対し、求めるのは平均球速。深沢自身も「140キロ前後」まで持っていきたいと考えている。
持丸監督は専大松戸の監督の就任後、上沢 直之(北海道日本ハム)、高橋 礼(福岡ソフトバンク)、原 嵩(千葉ロッテ)、横山 陸人(千葉ロッテ)をプロに送り出しているが、コントロール、投手としての感性の良さは一番ではないだろうか。先輩たちが高校卒業後に長い年月をかけて培う観察力をこうして身につけているのだから素晴らしい。このコントロールのまま、さらに球速が増せば、オーバースローの速球派が多い今年の高校生投手では差別化できる存在となるだろう。
(取材=河嶋 宗一)