関東一vs千葉学芸
144キロ右腕・市川祐と通算58本塁打の有薗直輝の対決は互いに見せ場を創る好ゲームに!
有薗直輝(千葉学芸)と市川祐(関東一)
東京2位の関東一が初優勝の千葉学芸に逆転サヨナラ勝ちし、準々決勝進出を決めた。
関東一のプロ注目の最速144キロ右腕・市川祐と千葉学芸の高校通算58本塁打のスラッガー・有薗直輝の対決はとても見応えがあった。
東東京を代表する右腕・市川。東京都大会の投球はあまり芳しいものではないと聞いた。ただ、関東大会の投球は昨秋よりもしっかりとレベルアップしているのが分かる投球内容だった。手元のスピードガンでは、常時135キロ〜142キロを計測。また9回を投げ通すことを意識し、130キロ前半の速球で交えながら打たせて取る投球を意識。今年からツーシームを投げ始めたが、曲がりが不安定だったため、ツーシームを封印。スライダー、カーブを中心に投げ分けることを意識した。
まだ本調子ではないようだが、都大会時よりはストレートが走っているのは確かなようだ。また、投球フォームにも影響が見られた。癖など様々なことを考慮し、ワインドアップからセットポジション。さらにその時のグラブの位置も変更。最も気になったのが、踏み出した左足を突っ張る時間を長くとって、投げることだ。これは都大会開幕前へ向けて配信した東京都逸材動画で市川のフォームをチェックした時に本人に聞こうと考えていたことだった。市川はこの意図について、
「突っ張る動作については監督さんからのアドバイスなのですが、この動作を利用しながら、より強くリリースできる。もうひと押しできることを心がけています。しっかりとハマった時は空振りを奪える確率が高まります」
この試合は、ハマったリリースはできていないが、エラーによる失点を含め2失点(自責点1)、103球、1四球、4奪三振と抜群の安定感を発揮。
大会前の練習試合で、霞ヶ浦と対戦し、6回8奪三振を記録するなど、一歩ずつ前進しているのが伺える。近年の関東一の投手陣ではスケールの大きさ、テクニック、メンタルの安定感を兼ね備えた一級品の素材であり、さらなる一伸びを期待してドラフト候補として継続的にマークする球団もあるだろう。
ただその市川は「力で押して行ったつもりでしたが、しっかりと捉えられた」と驚かせたのが有薗だ。
この試合は3打数2安打1四球1失出塁と、全打席に出塁。2安打の内容はいずれも痛烈な左前安打だった。
市川は有薗に対してギアを入れて、有薗に対して最速142キロをマークするなど力がこもった投球を見せる中でも、有薗は2安打ともしっかりとコンタクトできたもので、やはり好投手に対してのコンタクト力は非凡なものがある。ただ有薗自身、ドライブがかかってしまい、打球が上がらないことを課題に挙げており、好調時の放物線を描く打球を打てていないため、少しずつ修正をして臨んだ今大会だった。打者は打球が上がらず、長打を打てない時もあるため、そこは致し方ない。有薗は8日の八王子戦で最速149キロ左腕の羽田慎之介からも深い中飛、鋭い左直を打っていた。8日に続いて、関東一戦でも視察していた関東地区のスカウトが多くいたため、打撃については好印象ではないだろうか。
また打撃以上に関東一を驚かせたのが守備だ。有薗は肩の強さに自信があるため、やや深めに守るが、三塁線へ鋭い打球を逆シングルで捕球し、振りまきざま踏ん張って投げるのだが、それをダイレクトスローでアウトにしたプレーがあった。有薗は6度の守備機会で、1つのエラーがあったが、アウトにした5回では抜群の強肩を披露。
関東一の米澤貴光監督は「投手をやっていると聞いたので、肩は強いと思っていましたが、ここまでの肩の強さがあって動けることに驚きました」と驚かせるほどの守備の精度の高さだった。
両チームの目玉選手がしっかりとアピールした形となった。
試合は千葉学芸の北田悠斗が県大会と変わらず、左腕から120キロ後半の速球を内外角へ揺さぶりながらチェンジアップを交える投球。好打者揃いの関東一打線の対応に苦労しながらも、9回二死まで無失点。津原瑠空の適時打(記録は二塁打)、6番初谷健心の右前安打を打たれ、サヨナラ負けとなってしまったが、自責点0だった。北田は「1点目のタイムリーを打たれる前の四球が反省です。投手にとって四球はエラーと考えていて、この回はエラーもありましたが、その四球がだめでした。打たれたボールは変化球の球種選択ミスだったかなと思います」と反省を述べたが、9回を迎えるまで被安打3、最終的に85球で終えるのだから北田の内容はほぼ完璧といえるだろう。
千葉学芸サイドはダメ押しができなかったこと、エラーから相手のリズムを与えてしまったことを反省点に挙げていた。とはいえ、千葉学芸は8日から15日までの1週間で、羽田慎之介、市川祐と都内を代表する好投手2人と対戦し、いずれも接戦したのはかなり良い経験になっただろう。簡単に自分のペースにできないもどしかさと1つのミスで相手にペースを渡してしまう野球の怖さを実感できた。これを夏へ向けて良い材料にすることを期待したい。
(取材=河嶋 宗一)