試合レポート

桜丘vs至学館

2019.07.29

粘った桜丘が延長12回、ミラクル至学館にサヨナラ勝ち

 準々決勝では、0対4と負けていた試合が雨でノーゲームとなり、再試合で豊川に勝って進出してきた至学館。4回戦の菊華との試合でも、序盤の3失点を追いつきひっくり返しながら再度追いつかれて延長の末サヨナラ本塁打で勝つなど、例によって粘り強さを示してきた。麻王義之監督は、「どんな相手に対しても、対応していかれる対応型のアメーバ野球」ということを常々言っているが、それに加えて今年は一旦死んだチームが蘇って「ゾンビ野球だ」という。それに野球をやれる幸せを感じて、「笑顔のゾンビ野球」だということだ。それを真顔で言いながら、「それって怖くないですか?」と笑う。

 これに対する愛知桜丘は、ここまで組み合わせの妙というか、シード校として3回戦から登場して岡崎西岡崎学園豊橋中央安城東となぜか三河勢ばかりと当ってきた。そして準決勝で初めて名古屋市内勢の有力私学と顔を合わせることとなった。愛知桜丘としては、ここで勝ってこそ、愛知大会として勝ち上がってきたという意義がより大きくなるというものだ。

 初回の至学館は米津君がストレートの四球で出るとすかさず二盗。佐野君のバントは安打となって、しかも送球がそれる間に一気に本塁を陥れた。相手としては、「いつの間にやら点を取られてしまっていた」と思わせるもので、至学館野球の神髄のような点の入り方だった。

 しかし、その裏に愛知桜丘も先頭の藤代君が左前打で出ると、バントで進み、二死二塁から堀尾君の左中間二塁打でたちまち同点。序盤から動きの多い展開で始まった。

 2回にも至学館は、持ち味を発揮した。粘って連続四球後バントで一死二三塁としたところで9番菊池君は叩きつけて内野ゴロ。三走名城君は迷わず本塁へ滑り込んで野選となる。なおも一三塁で今度は米津君が初球スクイズで三点目。ここまで安打らしい安打は1本もなかったのに、3点が入っていた。

 「今年のチームは、グラウンドがない中で育ってきた至学館の最後の子たちで、打撃力がないのは仕方がない。そういう中で勝つためには何をしたらいいのかということを工夫しながらやってきた、それが原点回帰で当初からの、いろんな形で仕掛けていくという至学館のスタイルになった」と麻王監督は言うが。まさにそんな形をことごとく見せつける得点パターンだった。

 それでも、愛知桜丘もそのことで慌てることはなかった。じっくりと反撃機を待って、6回は二死走者なしから3連打で1点を返す。8回に1点ずつを取り合う展開となって、1点至学館がリードしたまま9回に突入。至学館は先発の2年生渡邉都斗君がここまで投げ切っていったが、二死走者なしとなって、勝利まであと一人。ところが、ここで桜丘打線が抵抗を示し、杉浦君が左前打すると、途中から3番に入っていた近藤君が中前打でつなぎ、4番堀尾君の右前打で同点。至学館としては9回二死あと1球で勝利と言うところで、「あと一つの難しさ」をまざまざと感じさせられることとなってしまった。

 そして延長に突入して12回、愛知桜丘は一死から中神君の二塁打が出る。ここで至学館ベンチは、3番手の下手投熊谷君になっていたが2者は敬遠で満塁。一か八かの勝負となったが、8番伊藤大貴君は中前に落としてこれがサヨナラ打となった。ガックリと、その場に崩れ落ちる選手もいた至学館だったが、これも勝負。

 「ウチはもう、ここからは初めての不へ対になるので、失うものもないし、伸び伸びとやっていって、新しい歴史を作れることが出来たらいい」と、愛知桜丘の杉澤哲監督。学校としても初の夏の大会決勝へ向けて、改めて盛り上がっていきそうだ。

 あと1球で涙をのんだ至学館。麻王監督は、「実は今年のチームは、至学館史上最弱かなと言うところから始まっていたんですよ。それを、主将の牧山が嫌われ役も厭わず買って出て、仲間に対してもチームが勝つために厳しいことも言って来てくれたんですよね。そして、みんなの意識が前に向いてきて、目指す至学館の野球をやれるようになってきた。ここまで、本当によくやってきてくれたと思う」と、牧山君を含めてすべての選手たちの、ここまでの頑張りを称えていた。

「そりゃ、勝ちたいですよ。そのためにやってきたんだから。だけど、あと一つで勝てなかったということ、それを受け止めながら、それぞれがこれからの人生を頑張っていって欲しいですね」

 そんな麻王監督の思いが十分に浸透していた今年の至学館。最後はゾンビ力は出し切れなかったけれども、少なくとも、見ている者には、ステキな感動を提供してくれたことは確かだった。

(文=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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